なあに我の舌で頭を開いての──
『やあやあ、見事であったな』
「でたな、デカ狐。それに──ドロフォノスさんも」
ドロフォノスは今見た光景もこの狐もちんちくりんも全て信じられなくて声を出せずにいる。
『おお、真面目よのぅ。お主、もう話してよいぞ』
それが自分に向けられた言葉と気づいても口をパクパクさせるだけで声にならない。
『まあ、放っておくかの』
「デカ狐はまたなんでここにいるのさ。あんたはレェーヴの森に棲む亜神じゃないの?」
ドロフォノスの身体がビクッとなってガタガタと震える。
『なあに、何日か前より我の棲む森で動物たちが意識を乗っ取られる事態に遭遇してのぅ──』
ドロフォノスは額から汗をダラダラと流す。
『その触手が我にも触れてきおっての。辿ればこやつに行き着いたというわけよ』
もはやドロフォノスの呼吸も怪しい。全てが筒抜けであった。そしてずっと見張られていたのだと。
そんなドロフォノスの頭を抱きしめる者がいた。ちんちくりんである。震える忍者を安心させるように慈しむ行動とは違い、その目は狐をじっと見据えている。
「デカ狐。この人は私の大事な先輩なのよ。手を出したら──」
『おお、おお、怖いのぅ。そういうことであれば放っておこう。無罪放免、良かったのぅ、その子の先輩で、の』
「あ、ああ……」
アイシャの抱擁で少しは紛れた不安。それでも金縛りは解けない。
『しかしの、そやつはお主の秘密をいちいち知りすぎておる。それについてはどうするつもりよの? お主が望めばそやつの記憶を切り捨てるくらい訳もないぞよ?』
アイシャもそこは懸念している。けれど記憶を、というにはあまりにもその量が多い。
「ドロフォノスさん。ひとつだけ、ひとつだけお願いを聞いてくれたらこのデカ狐にそんな事させないわ」
ドロフォノスには記憶を切り捨てるの意味がどういったものか分からない。だからここでの答えなんてのは“はい”しか無いのだ。
「ドロフォノスさんも置き手紙だけとか、つれねえよな」
「花の精霊は凄すぎてわけわかんねえけどさ、ドロフォノスさんの動きは凄まじかったな。こうクナイっての? ビュンビュンってさ」
「あの手裏剣ちゅうのんもやべえよ。何やねんあのデカい空飛ぶ刃物は。あんなん飛んできたら避けられへんで」
朝を迎えたアイシャ一行はキャンプ地に置かれたドロフォノスの手紙で次の指示を受けた。というよりはこれにて任務を終えてギルドに戻れというもの。帰りはそれこそ街道を外れなければ勝手に辿り着く、と。
「おはよう、みんな」
「お、起きたかお昼寝士……」
「ママ、ここはっ、おうちじゃないのっ!」
またしてもシャツ一枚で出てきたアイシャ。今日のはこの間よりも短く、とうとうパンツまで男子ズに晒してしまった。
「おはよう、みんな!」
着ぐるみパジャマに着替えて元気に挨拶したアイシャだがそこには誰もいない。
「またトイレかな? 男子ってそんなに近いもんなの?」
そこに1人、また1人と男子が帰ってくる。アイシャを見れば何故か中腰になったり顔を真っ赤にしたりするが、寝ぼけていたアイシャにさっきの失敗の記憶はない。
そして今回は隠し玉が控えていることを男子ズは知る由もない。