花の精霊に戦力を求められてもねえ
空には星が輝きこの子どもたちの勝利を祝福するかのようだ。
「絶対に間に合わないと思ったのによ、それがノルマの3倍だぜ?」
「わあっはっは、俺なんかは4倍近いで。ていうか途中で死んだばあちゃんに会うた気がするわ」
「臨死体験してるじゃねえかっ!」
わっはっはと大きな笑い声が絶えない夜。アイシャのどうせ使いきれないといった魔物肉を焼いて食べる。
「お前たちお昼寝士と花の精霊に感謝するんだな。魔物の肉は普通の動物のそれと違い魔力を溜め込んでいた分、拙者ら人間族にとってとても美味なものだ」
「それが流通してないってのも──」
「そりゃ一瞬で消える肉よりスキルポイントだろ? どんな職業もセコセコ溜め込んだポイントで上に行くんだからよ」
「その通りだ。掃いて捨てるほどあるとはいえ、お昼寝士にとっても惜しいポイントだろう」
みんなの視線を受けたアイシャは少しキョドって
「い、いやあ、私の場合はルミちゃんのおかげだし、そんなにあっても、ねえ?」
「最初に言ったはずだ。精霊のチカラもお前のチカラとみなすと。そうでないと精霊術士などは無力でしかない」
ドロフォノスはアイシャの言にそうピシャリと言い聞かせて
「その上でこの謙虚さ。男子どもも学ぶところがあっただろう。ん?」
男子ズは「そうだよな」「たしかに、俺たちだけじゃ得られなかったものが」と目を閉じてこの4日間を振り返る。
柔らかい手、チラしそうな胸元、唇に触れた指、くすぐりの刑、濡れた髪、上気した肌、甘い香り。
「「「「ああっ!俺たちは確かに沢山の事を得たんだっ!」」」」
感慨深く頷くドロフォノス。アイシャもそうかなあと疑問ではあるがそれならまあいいか、と思いルミだけが「堕ちきったわね」とニヤついた。
「あの匂い……忘れらんねえ」
「おい、何やその話は。俺にも聞かせえ」
「寝顔も可愛かったよおお」
「テオ、あの乱戦の中でそんな余裕があったのか……まあ、俺も何度か見たけどよ」
男子ズのアイシャに、聞かせられない話は少し離れていきアイシャとドロフォノスの2人になる。
「お昼寝士。お前は精霊術士としてやっていく気はないか?」
「え? なんで、ですか?」
「ふむ、この4日間観察していたのだが、それでなくともさっきの件。捨て置くには少々──どころか国家の損失甚しいだろう。どうだ?」
アイシャの余りにも嬉しくないタイプの勧誘である。しかしそれもすでに想定済み。アイシャが強いわけではなくあくまでもルミなのだ。
「ルミちゃん次第だよね、実際」
「ああ、その通りだ。だからそれも踏まえて、だ」
「ねえ、ルミちゃん。今の話はどう?」
「んー? 現実的じゃあないよね。私は戦闘よりはサポートだし、花を咲かせるくらいしか出来ないし」
ルミはすっとぼける。けれどルミが知らないでは終わりは訪れない。
「だが実際には拙者でさえ比べるに値せぬほどの戦果をあげておるではないか。なぜそれでダメなのだ」
「実は内緒にしていた事があってね」
ルミはそう前置いてタロウくんにまたがる。
「この子は私の騎獣なんだけど──実は地龍様に御力を借りる事が出来る子なの」
タロウくんは頭を撫でられて嬉しそうだが、そんな能力はない。普通にレッサーアースドラゴンで普通に強すぎる子だ。
「それは凄いどころの話ではないな。だがそれが?」
「つまり私のチカラに見せかけていたけど、実際には私の騎獣のタロウくんのチカラだったってことで、その御力を借りられるのはあと数百年後なのよね」
「つまり、今は……?」
「花を咲かせるだけの精霊、かな」
「局長、あなたは“あの子に振り回される”とも言ってましたが、全くその通りでしたね」
ドロフォノスはメモに注釈を書き足しながらアイシャたちのことを振り返る。
そして見てきたはずのそれらが真実を掴んでいるとはどうしても思えず、しかし書いたまま見たまま聞いたままに伝えるしかないと思い目を閉じた。