耐える者、許さぬ者
これはさすがにやり過ぎたとルミがアイシャに残った効能を抜き去って、アイシャはシャワーを浴び、濡れた下着はストレージに入れて新しいのを履く。着ぐるみパジャマは予備に取っていた2着目で少し顔の表情が違うやつではあるが問題ないだろう。
ふわっとフェルパの匂いがする。そう言えばあの森での一件(73話)のあと、綺麗なやつを新しく作ってフェルパに渡したのだが、こちらはパンっとはたいて表面の汚れやらを落としただけだ。こうして簡単に綺麗になるパジャマも匂いはそうでもない。
ましてあのときフェルパの服はアイシャがビリビリに引き裂いて、着ぐるみの中は何も、何も付けていなかった。そんな前の匂いが残っているとはとアイシャもストレージの保存性能に驚嘆するものの、ここにいないフェルパの匂いを纏って、またすこし湿ってしまう。
「おはよう、みんな」
またもTake2だが今回はアイシャがやり直したいだけだ。男子ズは全員復帰しているが誰も挨拶を返せない。急いで準備したアイシャは乾ききっていない髪の毛を垂らして艶っぽく見える。まあ、この着ぐるみを着たちんちくりんがそう見える男子ズは眼科に通った方がいいのだが。
テオはまたも脱落してみんなの元に着いてから髪を乾かし、口にゴムを咥えて長い髪を結えるそんな普通の仕草にダンが脱落して、さっきと匂いが違うね、と指摘したルッツに洗ったからと答えれば良いものを、「フェルパちゃんの着ていたパジャマだからかな?」と言ってしまいルッツが謎の脱落をする。
「みんなトイレが近すぎない?」
「──精霊さん、アイシャの無自覚はどうにかならんのか」
「それは無理だねえ。あ、昨日なんだけど──」
今回の生き残りであるハルバは耐えきったとストイックさを前面に出していたが、ルミのそれではつまらないというイタズラ心が許さず、くすぐりの刑の序盤だけをダイジェストで伝えて無事に? 脱落させた。
「ここがキファル平原……って誰もおらんやんけ」
「他のみんなはもう終えて帰ってしまったよ」
上からズバッと落ちてきたのはもちろんドロフォノスだ。
「帰った? そんなこと──」
「2日遅れ。当然だろう? 遅くはなったが君たちもノルマのポイント数をクリアすれば帰すし、今日のうちに集めきったならば遭難したことのマイナスなんてのもナシにしてやろう」
そうすれば予定の日数内で収まるからね、と。
しかし気合いを入れたメンバーの想いに反して魔物はただの一体も現れない。
「くっ、どないなっとんねんっ! これやともう」
「夕陽が沈みきるまで。たしかそうだったよね」
「そんな。じゃああと1時間くらいしかないよ」
「しかしこんな状況でみんなはどうやって集めたんだ?」
悩む4人。ここに答えの分かっているアホの子もいるが、アホの子は成績が悪くて戦力としては──と報告されるならそれに越したことはないと思っているのでダンマリだ。
だがやがてその答えに行き着くものはどんな時代にも世界にもいる。
「その魔除けのせいじゃあ……」
賢人ハルバの冴えた一言が男子ズに激震を走らせる。
「ちょ、アイシャちゃんっ! これしまって!」
「はーい」
ちょっと残念だけど、と思いながらもすんなりとしまう。
そして賢人ハルバはさらに冴えた提案をする。それはハルバだからこそ知っていて口に出来るやり方。
「なあ、アイシャ。もしかしてもしかするんだけど、あの頃からステータス変わってなかったりする?」
未だに戦えないアホの子を見ていてハルバはあの狐狩りを思い出していた。あの時、レアものでえるはずの銀狐を簡単に誘き出した手法。
「変わってないよ、残念だけど」
「いや、悪いけどこっちとしては僥倖だよ。それでなんだけどさ」
「ううん。言わなくても分かってるよ。だからルミちゃん、タロウくんも。ちょっとだけここにいてね。寂しいかも知れないけど、きっと帰ってくるから」
突然のお別れみたいな流れにルミもタロウくんも戸惑い何と声を掛けるべきか分からない。
「じゃあ、行ってくるね」
意を決したようにひとり前に進むアイシャ。男子ズも何が起こっているのか分からないがハルバに「今はただ、見守ろう」と言われて動かないでいる。
アイシャはひとり。またしてもあの時の繰り返し。だけど、今は涙して見送るルミやタロウくんがいる。
「寂しくなんて、ないよ──」
少女の横顔をを赤く染める夕陽が沈むまでもうそんなにない。アイシャの決意は固く、この状況を打破するためにひとり、歩いていく。