いつでも見られている
アイシャたちのパーティは何事もなくひとつ目の分岐を北側へと曲がって目的の平原へと向かい歩いていく。
「この魔物リストって正確なのかな」
「あん? どういうこっちゃ」
「狐とか狼とかはともかく、この──」
「ゴリラ、か」
「体長4mとか、でかくね?」
アイシャも持っているそのリストには“キファル平原”に生息する魔物がいくらかの情報とともにイラスト付きで書かれている。
「“見かけたら気づかれないように逃げろ”とかやばすぎね?」
「こんなもん大袈裟に書いとるだけやろ。脅威度もCやで。俺たち“4人”ならどうとでもなるわ」
(いちいち強調しなくてもいいのに)
すでに居ないものとして扱われているようなアイシャにわざわざ聞かせてるのが分かるような話し方。槍の男の子だけが少し申し訳なさそうにアイシャをチラッと見たが、当のアイシャは手をひらひらとさせて気にしてないと合図する。
日が沈み始めたころに街道の脇で野宿をすることにした一行はその日、先に出たパーティと合流することになった。
「いいのかな? 怒られないかな」
もしもの時を除いて合流は禁じられていたはず、と口々に不安がる男子たち。
「構わんよ、これは致し方ないからな」
「どわあっ!」
いつのまにかそばの木の枝に立っていたドロフォノスが不意打ちで声をかけると揃いも揃って驚く姿が見えてドロフォノスはくっくと笑って見せた。
(あのお昼寝士は反応も鈍いのかな)
反応が薄いというよりそこにいるのに気づいていて何も反応しなかったというレベルの無反応。
「街道を外れて野宿するのも、それに適した場所がここらなら拙者らの用意しているスペースになるのは必然だからな。朝になれば街を出た時と同じで30分ずらして出てくれればいい」
ドロフォノスはそれだけ言うとまた木々のどこかへと姿を消してしまった。
焚き火を囲んで男子ばかり9人が輪になって話している。アイシャはひとりぬいぐるみを抱えて座っている。いや、肩にルミとタロウくんを乗せているから寂しくもない。
「アイシャちゃん、隣いいかい?」
「ん? 誰、だっけ」
よく見れば途中でアイシャの様子を気にしていた男子である。焚き火の方はもう話すのも飽きたのかそれぞれに好きにして寝ている者もいる。
「あの時と同じ感じで来たからすぐに分かったよ」
「あの時?」
「やっぱり忘れてるよね。あの職業体験のときに一緒に狐狩りに出かけたハルバだよ」
アイシャの記憶からはすっかり居なくなっていたが、この男子は初めてギルドを訪れて森に出かけた時(34話登場)にフレッチャとも一緒だった男子である。
「あー、あの時の……ごめん、やっぱ思い出せない」
「だろうね。俺も色んなヤツと一緒にやったけど、ほとんど覚えてねえもんな」
「それでよく私のことは覚えてたね」
「そりゃあ──これから外に行くのに枕を抱いてくるヤツなんて他にいないもんな」
それは確かにとアイシャも笑う。
「今日はごめんな。なんか除け者みたいにしちまって」
「いいよ。私もサヤちゃんたちと一緒のつもりだったから──あまり乗り気じゃないのは確かだし」
みんなで食べる用の食材もストレージにしまったままだ。
「それでその……俺も仲間外れは困るというか、そのどうにかしたいんだけどさ」
「いいよ。私のことは気にしないで。その代わりこっちにも要らないことしないでくれればいいから」
「そっか。ありがとうな。けどもしかしたらアイツらもヒートアップするかも」
陰口で収まらない可能性。その時は返り討ちにするのもやぶさかではないアイシャだが、今回はそんな面倒をすることはない。
「あのドロフォノスって人。ずっと見てるよ」
「え? それってどういう……」
「あのね、あの人はどうしてるのかは知らないけど、ずっとルミのこともみんなのことも見てるんだよ」
「ずっと⁉︎」
「そう、私もルミちゃんに聞いて知ったんだけど、さっきも話なんて聞けてないはずなのに突然現れてさ」
そう、何かあればギルド職員の目につく。方法が分からなければその目を掻い潜ってということも出来ない。
「だから何かあればきっとペナルティもあるよ」
とだけ言っておけば彼らには十分に牽制になる。そしてその目を利用しない手はない。
「じゃあ──ママ、出来たよ」
「ありがとうルミちゃん」
「お、おい。出来たよってそれって」
「ん? まさか着替えるだけの部屋だとでも思った? これは宿泊所なのよね」
アイシャとルミはさっさとコテージに入ろうとする。
「ちょ、それはさすがに」
「ルミちゃんのチカラを借りる事の許可はもらってるもの。大丈夫、見張りの交代の時には起きてくるから。だって、どこから“見られている”のか分からないのに寝顔なんてさらせないよ」
「そそ、女の子の寝顔なんて簡単には見せないんだからねっ」
ばーい、と言って中に消えた2人。
「いや、お昼寝館でさらしまくり、なんだろ? ていうか魔物の森の中で寝てたし」
釈然としない気持ちを抱えて、ドロフォノスの監視の情報とともにハルバは輪の中に戻っていった。




