戦えないリーダー再び
「課外授業?」
「そ。聖堂の外──っていうかぶっちゃけギルド員見習いのお仕事に出かけるんだよ」
まだ聖堂教育も朝の共通座学が始まる前の時間に、サヤとアイシャは掲示板にはられた告知を前にして話をしている。
「それって戦闘職だけのやつでしょ? なら私は──」
「いやいや……みんなだよ。生産職もみんな」
「私は……非生産職だから」
「え? じゃあ戦闘職なの?」
わざとらしく後ろ手に腰を曲げてアイシャの顔を覗き込むサヤ。思えば皐月に成長を止められたアイシャと同じ背丈(150cm)のサヤはナチュラルで小さいのだろう。
おそらく皐月の好みにドンピシャで、その上がきっとフェルパとカチュワ(145cm)だと思われる。
ちなみに少し成長したマイムは155cmとなっており、時折アイシャに対してマウントを取ろうとする。1番大きいのはフレッチャの168cmで、次点がリコの160cmである。
「生産性のない非戦闘職、なの。つまりっ! お昼寝士は何もせずにただただ寝て過ごしたいのよっ」
ため息があちこちから聞こえてくる。
「少なくとも生産性はあるよね? 喫茶の利益はまだ使いきれてないって聞いてるよ」
「うっ……」
「それにチーム“ララバイ”のリーダーだしぃ?」
「ぐうっ」
もはやこのサヤを回避することは出来そうにないとアイシャも諦める。
「──私と行こっか」
「行くってどこに」
「もちろんそれは──」
「まあ、来るよな嬢ちゃんたちもよ」
「種もみは美味しかった?」
「あんなちびっとは食わねえよ。ちゃんと農業ギルドに回して俺名義の田んぼに植えてある」
「そ、そんな……世紀末はもう終焉を迎えたの?」
「何を驚いてんのか知らんが、ロクでもねえことは間違いねえな」
アイシャとサヤ、フレッチャにカチュワの4人がベイルに案内されて大部屋へと案内される。
「嬢ちゃんたちは色々知ってはいるだろうが、決まりだからな。ここでみんなと初心者講習からだ」
「ぶー、ぶーっ! 誰が初心者よ、こちとら修羅場をくぐり抜けて来てんのよっ」
「他はともかく嬢ちゃんは戦いの初心者だろうが……」
ベイルが呆れ、みなが笑うあたり──アイシャの努力もアミュレット“偽りの正義”のカモフラージュも上手くいっているらしい。
「はあ、いっぱいいるな。ざっと40人てところか」
「この中で何人が生き残れるか……ごくり」
「そそそ、そんな恐ろしい講習なのですっ⁉︎」
「カチュワちゃん、そんな事ないから落ち着こうね……」
ここに集うのはアイシャたちの同級生ばかりだ。剣やら槍やらを持つ戦闘職適性の彼らは来年にはクレールのようにギルド員として働くことになるだろう。
その最初がこれからの課外授業。以前の職場見学とは違うそれは実際の戦闘にガンガン入っていくためにある。ちなみに聖堂教育での実績として成績に大いに影響する。
フレッチャの魔弓が。カチュワの内緒素材の大楯が。サヤのブロードソードが道を切り拓こうと待ち構える中。
「アイシャはこんな中でも枕か」
フレッチャはいつかと変わらないスタンスのアイシャに愉快そうに笑う。
「そりゃあお昼寝士だもん。ララバイのリーダーはこのスタイルよ」
これは来年から大変そうだとフレッチャ。サヤとカチュワはそれぞれにアイシャの剣と盾になると意気込んでいる。
「アイシャちゃんはお昼寝士だからそうなんだろうけど、この探索ではみんなに成果を提出してもらうわよ」
アイシャの頭を紙束で叩いて登場したのは欲深き斥候のマケリだ。
「成果ってなに?」
「それはもちろん──」
皆に紙が配られる。そこには何体かの魔物のイラストと特徴が記されていて獲得できるスキルポイントまで記されている。そんなプリントを指差してマケリは告げる。
「討伐数とスキルポイント」
この課外授業は街の外での探索。その成果として最も分かりやすく、子どもたちが実感出来るものとしてそれはアイシャを含めた参加者全員、個人個人に振られたノルマであった。