寝る前にはさっぱりとね
「お風呂? それならお父さんがお出かけしてる今のうちにさっさと入っておきなさい」
母親はしっかりしている。確かに近所の子で小さい頃から知ってるとは言え、年頃の女の子を泊めているのだ。
アイシャとサヤが言い出すよりも早く、すでにお小遣いを渡された父親は外でサヤの父親と酒を飲んでいる。そこでもきっと自分たちの娘らの仲の良さを酒の肴にしていることだろう。
しかしこの場合その気遣いはどうなんだろうか。
「昔から一緒に入ってるじゃない。お父さんももういつ帰ってくるか分からないから一緒に済ませてしまいなさい」
食事が済んですぐに放り出された父親もそろそろ帰ってきてもおかしくない。アイシャたちがパジャマではしゃいでいるうちにそんなに時間が経っていたのだ。
アイシャとサヤのふたりでお風呂。確かにアイシャは女の子に生まれ変わっているし、幼馴染のサヤとも見慣れた光景ではある。たしか6歳くらいまでのことだが。
互いに無言で背中を向けて服を脱ぎ、アイシャが先に入れば続けてサヤも入ってくる。
「からだ洗おっか」
「うん」
湯船に浸かるのは体を洗ってから。そう教えられたふたりは、しかしあの頃は充分だったスペースも今はそんなに広くはないことに気づく。
「こ、これは……どうしよっか」
サヤにはある答えが浮かんでいるがとりあえずは尋ねてみるのが正解だと思われた。
「そうだね……私たちも大きくなったんだねぇ」
アイシャにもひとつの答えが浮かんではいるが、過去に意識を飛ばして現実逃避した。
「アイシャちゃん、トリップしても解決しないよ」
サヤは覚悟を決めたらしくアイシャもそれに応えるように頷く。
「「洗いあいっこしよう」」
泡立つ石けん。体を這う指先。手にしたタオルが辿る曲線はその後に白い泡を残していく。
まだ幼さの残る身体はそれでも女の子らしい柔らかさをしていて、自分の身体はこんなだっけとお互いに思うほどだ。
繋いだ手はさっきの帰り道と同じで、違うのは泡をお互い擦り合わせるところか。その手は足の指の股まで丁寧に洗う。
何となくテキトーに終わらせると「この幼馴染は普段からあんまり綺麗じゃないのかな」なんて思われそうでふたりとも丹念に相手の身体を洗っていく。
耳の裏も首の下もうなじも脇も内腿も臀部も。
サヤが背中に回って手を取り足を取り、気づけば密着したふたりの手にはタオルもなく、ふざけて押し倒せば無言で見つめ合うシチュエーションにもなったが、その先は知識にも記憶にもない。
笑い合い、恥ずかしがりながらも「昔は──」と盛り上がる。
そうしてふたりの楽しいひと時は過ぎていった。
「ずいぶん長風呂だったわね、そんなにのぼせそうな顔して……本当に仲いいわねー。お父さんが帰ってくる前に上がってくれてよかったわ」
童心に帰るにしても、まだ大人にもなっていないふたりのバスタイムは、ドアの外から聞こえるふたりの父親の話し声から察するにアイシャの母親の鉄壁によって守られたようである。微笑ましい娘たちの時間を守り「うふふ」笑う母親にアイシャとサヤはおやすみなさいと挨拶して部屋に引きこもった。
小さな頃は2人でも3人でも。
大きくなると物理的には出来てもパーソナルスペースってやつですかね。え?単純に恥ずかしいだけ?それもそうですねー。
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