悩み悩まされ
「それでなんで魔剣の造り方なんてのを知りたがるんだ?」
アイシャはサヤの独白に居ても立っても居られなくなり、ベイルの下を訪れていた。
「聖堂教育では普通の武器しかなかったからさ」
もうギルドの常連と化したお昼寝士はすでにカウンターの職員側に通されて事務机の並ぶ部屋でベイルの横でくつろいでいる。
「そりゃお前、魔剣なんてのが子どもたちでそんなポンポン打てるわけないだろ」
「そーなのっ?」
呆れた顔でアホの子の相手をするベイルは見た目に反して面倒見のいい人で知られている。
「というかお前は非戦闘職、だろ?」
「まあ、私はそうなんだけど──」
「誰が欲しがっているんだ?」
なるほど、とベイルは思い至る。基本的に自分の事は遊びばかりだけどフェルパを追って飛び降りたりフレッチャの弓の修行に付き合ったり、それ以外にも自分の大事な人のためにもよく動く子なのだと、ベイル自身の知るアイシャエピソードを合わせれば当然の解答である。
「欲しがってはないんだけど、強くなりたいって──だから私に出来ることは強い武器でも贈ることかなーなんて」
親指と人差し指で輪っかを作り「この間の使いきれなかった分、まだまだ持ってるんで」とアピールしてベイルに「いやらしい言い方するな」とたしなめられる。
「でもよ、嬢ちゃん。その子は強く、なりたいんだろ?」
「うん。少なくとも剣神に褒められたいのかな」
先生に褒められたい。すごく微笑ましい想いにアイシャは力になってあげたい。自然と指が唇に触れる。
「魔剣はそもそも難しいだろうが、それって武器で強くなりたいってこと、なのか?」
「え? ……あ」
アイシャはサヤの挙げた2人の名前と内容からアイシャが贈った装備によるものだと思い、同様にサヤにも贈れば解決などと思った。実に短絡的な思考にアイシャは自分が嫌になる。
「いやらしいのは私の性根なのかも、ね」
「おいおい、ありゃ冗談だ。そんな風に自虐して沈むのはやめろ、気持ち悪い」
「き、気持ち悪い……」
ズーンと落ち込むアイシャをベイルが追い込む。
(そうだよね、サヤちゃんは2人の装備の事は知らないんだもの。2人が強く見えたのは訓練の賜物、勝ち得たスキルの恩恵だと思っているよね)
「まあ、あれだ。フレッチャの時みてえに応援してやれば励みになるんじゃないか? 強力な武器やそれこそ魔剣なんぞ、山越えて反対側のドワーフたちでもなけりゃ手に入らんだろう。人間族に売ってくれるとも思えんが──」
口が滑った。いつか水鉄砲の時にエルマーナがした過ちを自分も犯したのか。真剣な顔で何かを考えていたアイシャの耳がベイルの言葉を逃すまいと鷲掴みにしたような気がした。
「ママはドワーフに会いにいくの?」
「武器で強くなっても意味がないのかも知れないけど手に入れているに越した事はないもんね」
家に帰り着いたアイシャは自室でルミとそんな話をしながら服を脱ぎパジャマに着替える準備だ。
「山には私のいた雪人族もいるから」
ルミには少し複雑だろう。今はその種族が変わってしまい縁は無いとはいえ、その見た目はサイズ以外は生前の頃と同じなのだ。アイシャは「そうだよね」と返事して裸体をさらすルミを眺める。
「出会ったらバレる、のかな?」
アイシャはルミをその手に乗せてマジマジと眺める。
「や、ちょっと恥ずかしい」
あまりに見られて赤くなるルミ。恥ずかしくなって手で隠そうとするけど今更ではある。
その仕草にアイシャの中でイタズラ心が顔を出した。