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ごめんね、私は先に行くわ

「なら、この状態からも抜けられることを分かっているのじゃろ?」

「それをしないことも分かっているつもりよ」


 バチっと魔力を流せば背中の孫娘は弾かれて開放されるだろう。けれどそれはアイシャが“嫌い”と言った苦い経験を今朝したばかりのおじいが取る選択肢には初めからない。


「ふぉっふぉ。見透かされていたのかのぅ」

「そうね、お見通しよ」


 アイシャの絞め技はすでにその力を緩めて、おじいの背に抱きつき肩口からおじいと顔を並べる──ただのおんぶとなっている。


「ならのぅ、おじいの特技のひとつを披露するかの」

「特技?」


 アイシャに一瞬の緊張が走る。しかしそれに反応する暇もなくおじいから繰り出される特技を避けることは叶わず、見事なまでに受け入れてしまう。




「──B、じゃなっ」

「B‼︎」


 おじいの盲目がそれを言い当てたのか。アイシャも驚愕する。


「その柔さ、大きさは間違いない、Bじゃ」


 そんな事はなくただ背中に感じた孫娘の双丘に神経を集中させていたにすぎない。とんでもないじじいである。


 これがクレールやショブージが口にしたなら即座に絞め落としていたことだろう。しかし相手はおじいちゃんで、そこには男特有のいやらしさは微塵もない。


 おそらくその特技は若い頃に身につけたのだろうが、今は孫娘と見ているアイシャの成長を喜ぶおじいちゃん。


 そして


「やっと、やっと唯一のAの牙城を崩したのよ、私は!」


 念願叶える第一歩。“ララバイ”での最下位争いをフェルパとしていたアイシャ。


「フェルパちゃん、ごめん。私は先に行くね──」


 フェルパはそんな事を争っているつもりはないがアイシャは誰にも聞こえないここで静かに謝り、別れを告げる。


 他の子たちには見せられないアイシャのシリアスモードが終わり“プラネタリウム”は解除される。


「なんだあれ、剣神と……お昼寝士?」


 訓練に励む子どもたちは2人がその存在を隠していた事には気づかなかったが、現れた途端にみんなの視線が集中する。


「ふぉっふぉ、そんなに嬉しいかの」

「そうよっ! なんせずっとずっと待ち侘びていたんだもんっ」


 語りかけるおじいちゃんの背中で元気にはしゃぐアホの子。その光景はまさに公園の祖父と孫娘。おんぶされてはしゃぐには少し孫娘の年齢が高めだが、あのアホの子だもんなと周りは妙に納得した。




 ─後日─


「そ、そんなバカな……」


 その結果にワナワナと震える少女。そんなはずはない、何かの間違いだと測定し直させる事10回。


「わーい、Bになったぁ」

「なにっ⁉︎」


 よく聞く愛おしいその声はフェルパのもので、次々と流れるように行われる身体測定の場でその小さな喜びに笑みを湛えている。


「あ、アイシャちゃんは──」


 アイシャの手にある紙に書かれたアルファベットの最初の文字にフェルパは気づいて


「私はそんなアイシャちゃんが好き、だよ?」


 先日勝手にぬか喜びした挙句にフェルパを置き去りにした非道なアイシャはその優しさに慰められ、新たな一歩を踏み出したらしいフェルパの胸の中で感涙に咽び泣いた。


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