祖父と孫娘(仮)
「ふぅん、おじいちゃんは新しい教師、なのね」
「いやいや──臨時の、といったところかの」
再起動したアイシャは、すでに今あった出来事を過去のものとした。切り替えの潔さでは優秀な子なのだ。
「それでおじいちゃん先生はもしかして“お昼寝士”なの?」
「んん? お昼寝士? なんじゃその珍妙なものは」
未だにその目を開きもしないおじいちゃんはアイシャの期待に反してベテランお昼寝士ではなかった。自身のユニークな適性に答えが出るかもと思ったのだが。
「まあ、他にいたらこんなことにはなってないものね」
「んん? こんなこと?」
「あぁ、気にしないで。ひとりごとだから」
アイシャは気づいていないが最初一瞬だけ丁寧語が出てきたあとはすでにその“ですます口調”すら使わなくなっている。
「いつもみんなからは“おじい”と呼ばれておるよ」
おじいにはアイシャと同じ歳の孫がいるらしく、それゆえの柔和な表情がアイシャを安心させている。そのせいか知らず知らずのうちにおじいの手を引き、連れ添う形で職員室にまでやってきた。
「おはようございま〜す」
そろーっと扉を開けて入室するアイシャ。なんとなく休みの日に訪れることに、この先の教師たちの反応を想像して声も小さくなる。
「あら? あなたは……」
生徒である子どもたちは休みでも教師側はそうではないらしい。どこの世界でも先生というのは忙しいのか。
「えっと──介護のバイトを始めました? とか」
気恥ずかしさからつまらない嘘をついてしまうアホの子。
「介護って何の──」
「へえ、じゃあおじいはその“剣神”て呼ばれる1人、なんだね」
「ちょ、アイシャさんっ、言うに事欠いておじいなどと」
アイシャはすっかり孫娘のように打ち解けており、その言動は今回王都のその先より遠征してきた臨時の教師である剣神を初めて迎えたこの街の聖堂教育の教師たちを不安にさせる。
「ふぉっふぉ。構わんのじゃよ。このようなお嬢ちゃんに先生などと畏まられてもつまらんからの」
「なんだ。おじいもロリコンなのね」
「ふぉっふぉ」
さすがにロリコン呼ばわりはアイシャも冗談だが、おじいもそれで気を悪くした風ではない。対面する教師たちがアイシャに心の中で毒づくだけである。
「それで、おじいは何しにきたの?」
「アイシャさん、さすがに臨時の教師と言っていれば分かるでしょう」
何故よりによってこのアホの子が剣神を案内してきたのか。そうでなければ不要な説明も胃の痛みもないものを。
「剣神はこの街の剣士適性の子どもたち、さらには一般もギルド職員も含めてその能力を高めるために来てくださったのよ」
「つまり私には“先生”ではない、ということね」
「そうかも知れないけど、そうじゃないのよ、もう……」
アイシャの言いたい事は分かるが、だからといってここの生徒からすれば等しく先生であるはずなのだ。それを口にしようとしたところを剣神が手で制する。
「アイシャちゃんといったかな。わしも剣神などと呼ばれて久しいがその分そうして称号の外側で慕ってくれる子は身内以外にはなかなかおらんで、な」
縫い付けられたかのように瞼が閉じたままの剣神は隣に座るアイシャの頭を撫でる。
「きっとここでも皆そうであろう。だからの」
アイシャはその閉じた目を見つめて話の続きを聞く。
「アイシャちゃんだけでも──私の孫娘のようであってくれると嬉しいかの」
「お安い御用よ」
アイシャも釣られて笑う。
大人たちはとてもじゃないが恐れ多くてそんな振る舞いは出来ない。この子どもがこの街で初めて剣神をもてなしたのだろう。
「──ところでそろそろ帰っていい? 1日間違って来たけど連休最終日はゴロゴロして過ごすって決めてたのよね」
これにはおじいも呆気に取られて、「仕方がないのぅ」と笑い、アイシャは役目は終えたとばかりに遅い二度寝をしに帰宅した。




