野人と麗人、相見える
聖堂武道館。日々サヤたちが汗を流すその場所に“喫茶ララバイ”はその店舗を丸ごと移している。理由は譲り合いを知らない悲しい男たちによるもので、その発端であるアイシャが声を掛けて仕方なくみんなで机を持ってここに歩いてきたのだ。
「武道館……武力で決着をつけろ、ということか」
「腕に自信があるようですが、人間族が果たしてどこまでやれますかね」
ギルドで揉まれるクレールは聖堂教育にいたころよりも腕を上げている。それでもまだまだ若くベイルにも敵いはしないがこの街の中、その年齢であれば最高峰ではあるだろう。
ショブージもアイシャとフェルパの前ではアレだが、エルフ族はみな優秀な狩人で戦士でもある。細くしなやかな肢体もこの世界では弱さとはならない。むしろ魔力の扱いに長けている分、ステータスに置き換えれば人間族よりも強くなりやすい。
何故ここにエルフが? という疑問はギャラリーにもあるが、普段街で見かけることがないだけで友好関係を築いたという情報はギルドによって広められている。ショブージがいたところで騒ぎにはならないが、見目麗しきエルフがいるおかげで観客も多く喫茶の売上に大きく貢献している。売れば売るほど赤字ではあるが。
そんな引き締まった筋肉を持つクレールと線の細いショブージが相対する聖堂武道館で、アイシャはパンケーキを売り出している。森で採取していた蜜の使いどころを探していたところでこの喫茶店なのだ。食事の時間帯が過ぎれば販売アイテムはおやつへと変わる。
「ア、アイシャちゃんを巡って男たちが──」
「サヤちゃん。よく見て、あいつらの狙ってるのは私の使い古しのベッドだから」
元、男のアイシャには今ひとつその事について抱くイメージというのが他とは違う。サヤはアイシャにへんな虫が付くのを不安に思い、マイムあたりは変態だとさっきからブツブツ小声で罵っている。
「生クリームは添えますか?」
可愛い精霊の給仕でパンケーキに生クリームが添えられる。甘い甘いおやつのお供は汗臭い男の激闘だ。
「お互いに武器の使用は禁ずる。素手のみの闘いで相手が戦闘不能に陥るか私がそう判断した時点で決着です。いいですか? ……では、はじめっ!」
メイド服の審判はフレッチャだ。ショブージに弓を教わったりもしたが、聖堂教育にクレールがいた頃はその強さに密かに憧れもしていた。アイシャに対する姿を見て今は冷めてしまってはいるが、そんな2人の決闘なら審判役を買って出たくもなる。
獰猛な獣のようにクレールは姿勢を低くして突進する。大柄なクレールがタックルするように迫ってくるのは相手からすれば躱す以外の対処に困ることだろう。
ショブージはクレールのタックルに真正面からぶつかる。身体能力の大部分を魔力が補助しているこの世界の戦士がぶつかれば軽い衝撃波さえ発生する。麗しきエルフとクレールが強く身体を打ちつけても両者とも引かない。押し合うも拮抗するふたり。メイドたちのスカートが激しく揺れる。
「力だけが全てではないというところを見せてあげましょう!」
力でだって負けていないショブージは押していたその身を引くとそのままクレールを引き倒した、かに見えたが待っていたとばかりに足を踏み出し力強く下から突き上げるクレール。
「その手の技においては俺様の方に分があったようだなっ」
散々にアイシャに投げられたクレールは対策として特訓を積み重ねていた。力によらない柔術や合気のような武術を得意とする者たちと親のコネで知り合い、試合を重ねて身につけたその動きは剛柔どちらにも対応してみせる。
そんな闘いに興味のないアイシャはパフェにフルーツを高く、高く盛り上げてどこまでいけるかをフェルパと勝負していた。