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内から溢れ出る情熱

 聖堂教育の3学期は短い冬の時期を次の学年に向けて総まとめするだけの時期ともいえる。1年の鍛錬の成果、習得したスキルのお披露目、造り上げた数々の物品。その全てに皆が参加しているはずなのだが唯一アイシャだけが不参加なのが毎年のこと。


「ええっ⁉︎ 年間行事も何もないと思ってたのに」

「それはアイシャちゃんだけだよ……」


 食堂でそんな話をしていたのはアイシャとサヤ。今年度は色々あったから成果を見せるのが楽しみだなどと呟くサヤに「何の話?」とアイシャが聞いたのがきっかけだ。


「私は一度もお昼寝のお披露目を求められていない」

「なんだか変な言葉になってるけど、それは寝顔を見せるとかそういう?」

「そんな趣味はないけど──あれ? 何を見せればいいのかな」

「結局先生方もそうなんだろうね……」


 なんとなく除け者みたいで口にしてみたものの、お昼寝士が何の成果を発表するのかという疑問に自分で答えられないのだ。思えば最初から放置されているのも同じ理由である。


「でもさ、でもさぁ。聞いちゃったらなんかしたいよねえ」


 自由人アイシャも前世においては自由などなかった。それを埋めるべく今世は勝手気ままなお昼寝ライフを謳歌しているのだが、「学校行事で好きなことをする」というのも未経験でやってみたいという願望がある。


「じゃあさ、ママと私でやろっか」


 同じテーブルにはルミももちろんいる。人間族の食事がたいそう気に入ったようだが、ルミサイズで用意するとエサを取り分けるみたいでいささか物足りないのがこの精霊の悩みだ。


「うーん、だとすると何を──っ⁉︎」

「どうしたのアイシャちゃん?」

「な、何かが……とても強い何かが、頭の中に雪崩れ込んで──」

「ママ?」


 アイシャは食べ終えた皿を避けて机に突っ伏す。それほどにも強い思念が頭の中にこだまする。


『──!』

「な、なに……」

『も…………きっ……!』

「うぅ──」


 頭の中に響く声は次第に強く鮮明になり、やっと聞き取れたそれは──




『萌え萌えメイド喫茶!』

「何言ってんの? 文化祭じゃないのよっ?」

『──っ⁉︎』


 アイシャの頭の中に響いた『彼女』の魂の叫びは、文化祭ではないことにひどくガッカリしたようで萎んで最後には消えてしまった。


「アイシャちゃん? 文化祭ってなに?」

「ああ──いや、なんでもない、よ」


 頭をふりふり誤魔化すがサヤは心配半分、ここのところ関わりが少なくて寂しい気持ち半分でアイシャを追求する。




「そういう古のお祭り、ねえ。でもなんだか楽しそうよね」


 アイシャ自身ツッコミをいれてしまったものの、もはや霞のかかったような前世の記憶の説明など無理だ。ざっくりとテキトーな説明ではあったが、サヤは興味を示したようだ。


「でもさすがにそんな事は出来ないよね」

「そうかなぁ」


 乗り気ではないアイシャに、もしかしたらイケるのではと思うサヤ。そして思わぬところから肯定されるアイデア。


「今年は聖堂が空いているのよ。ちょうどいいからやってみなさいよ」


 2学期の終わりにアイシャに来年のレポート提出の話をした女教師がその三角のメガネをくいっと上げて説明する。


「毎年何かしら保護者向けにエントランスイベントなるものをやっているのですが、今年はまだ予定がたってなかったのです。どうですか? アイシャさん」

「どうって言われても……むしろ親御さんも来てたのに知らなかった私って」

「アイシャちゃんのとこはいつも侵入禁止のバリケードがされていたものね」

「なにそれ知らないよ……」


 無防備に寝ている年頃の女の子のところだから、こればっかりは教師たちの判断が正しい。ちゃんと参加させる方がより正しいであろうことには誰も触れないが。


「そうね。もし盛り上げられたら──成果として受け取り、来年のレポート提出を免除しても良いですよ」

「やるよっ、私はやってやるよ」

「分かりやすすぎるよアイシャちゃん……」



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[良い点] 萌え萌えメイド喫茶! [一言] お昼寝士という職業は、かぁいい美少女達が百合百合イチャイチャするのを促進し尊さを振り撒くのが本業なので、萌え萌えメイド喫茶は成果発表として最適解だ、って『彼…
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