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揺れる地、美味しいお茶

 先日あったという地揺れはあの地龍が威厳たっぷりにアイシャの前に姿を現した時のものだ。それ自体は地上でも珍しいことから騒ぎにはなったものの、不思議と被害報告はゼロであったのだ。


 目の前の会話は断片的にしかアイシャの耳に入ってこない。ノームこと光るミミズと合った目がずっとアイシャを見つめるものだから絶対に面倒ごとが起こる憂鬱感と別の不安がアイシャを会話の外に置いている。


「それでエスプリ。お前に紹介しておきたいやつが居てな」

「あー、もしかして精霊術士適性の子? じゃあ登録だけでもして──」


 魔術士ギルドと同じく魔力の波長の登録だけは必要である。たとえ精霊と繋がってなくとも。だから、いつものように本当に登録だけだろうと思ったエスプリは、アイシャを視界に入れて、さらにこれまでバラダーに隠れて見えていなかったルミの姿を発見した途端に魔力を爆発させてルミに飛びついた。


「うおっ! おいエスプリ、抑えろっ! 魔力を抑えろっ」

「ああぁ、ごめんなさい──」


 爆発した魔力というのは何もこの場を木っ端微塵にしたわけじゃない。興奮した魔力はノームに伝わり、過剰供給されたために地揺れを起こしたのだ。


「つい、テンションがあがっちゃって」

「嬉ションみたい」


 アイシャは犬の行動に例えてしまったが、犬を飼うという習慣のないこの世界で通じるものではなかった。とはいえ2人の関心はそんなところにはない。ルミに興奮するエスプリと、そんなエスプリがどういう行動に出るかという所にバラダーの関心はある。




「粗茶ですが──」

「ああ、美味い。さっきの繰り返しかと思ったが安心した」

「さっきの?」


 エスプリに通された応接室は最低限のセットしかないが、出された紅茶は華やかな香りが特徴のとても美味しいものだ。少なくとも飲めそうにない緑色なんてことはない。


「花の精霊、ですか──」


 言葉自体はとても落ち着き払ったものになってはいるが、アイシャとルミの対面に座るエスプリはさっきから手で太ももをさすったり、脚をモジモジとさせたりして膝丈だったスカートがめくれあがって困った状態になっている。


 ちなみにバラダーはアイシャの隣で同じくエスプリの露わになった太ももを視界に入れているがそんな事にドギマギするほどに若くもない。


「はいっ。産まれたばかりでこのアイシャちゃんと出会ったんです」


 ルミとエスプリの会話はアイシャにとってはさほど重要ではない。いや、本来ならそれがメインなのだからアイシャにとって不都合のないようにするのだが、それ以前にもう目の前に不都合があるのだ。アイシャはノームばかり見ている。


「アイシャちゃんの精霊さんはお喋りできていいわね」

「ノームは話せないんですか?」


 アイシャに少しばかりの希望が訪れる。バラダーはノームが話せないことに何故喜ぶのかと訝しんでいる。


「そうね、ノームには口がないから。ずっとノームちゃんのこと見てるものね。ごめんね、お話出来なくて」

「いえ! 見てるだけでも可愛いですし、なおさら可愛く思えました」


 正確には不安が和らいだというところだが、テーブルの下で握られた拳が何故なのかとバラダーはアイシャの言動を観察し続ける。


「あ、でもママ──エスプリさんとノームは通じているからね」

「のおおおおおおっ」


 ルミの発言につい叫んでしまったアイシャにバラダーがいよいよ問い詰める。


「さっきからずっとおかしいが、何を隠している」

「私は何も──」


 アイシャはこのノームがどこまで勘づいていてエスプリに話すか分からない。分からない不安というのは個人の中で渦巻いて必要以上に大きくなるものだ。


「ねえ、ノームちゃん。アイシャちゃんは何を隠しているの?」


 エスプリはギルド職員で精霊術士ギルドの長である。当然このおかしな状況下では局長側の行動を取る。


 アイシャの秘密はここでは大まかに4つ。洞窟でなんとなくストレージにたくさん捕獲していた光るミミズことノームたち。そしてルミが元魔族であること。アイシャのポケットの中のレッサーアースドラゴンである光るトカゲ。そしてもうひとつ──


「え? アイシャちゃん……地龍様と出会って認められた、の?」


 1番隠しておきたいと思った話。ギルド側が調べ尽くしてあると思っていた洞窟のさらに奥の広場にて地龍と出会ったことだ。


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