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夕陽と女の子ふたり

 食堂でサヤとの友情を確かめたアイシャは午後の終わりの鐘が鳴ると同時に丘を駆け降りた。いつもの階段ではなく、道なき道──先日にクレールが投げ飛ばされ滑り落ちた斜面のほうである。


 まるで何かから隠れるように、逃げるようにしてそんな行動に出たのは、アイシャの頭の中で警報がジリジリと反応しはじめたためだ。


 横目に、生垣の入り口をダッシュで入って行く人影が見えた。いくらなんでも速すぎだと呆れるアイシャは丘の別ルートで既に降りている。いまごろお昼寝館にたどり着いたところで誰もいないことにガッカリすることだろう。


 アイシャは日々の鍛錬の中に丘の上と下を木々を縫って往復するトレーニングを取り入れているために、お昼寝館のある丘にはアイシャしか知らない別ルートがいくつも形成されている。さながら秘密の脱出路であり、まさにこの日役に立ったといえる。




「あれ? アイシャちゃん早いね」


 聖堂と呼ばれる大きな建物の裏手を切り拓いた土地に各種の適性専用の建物、共通座学のための建物、食堂、見晴らしの良い東屋があり、サヤとアイシャはいつも聖堂正面に出るための門の前で待ち合わせしている。


 それが今日初めてアイシャから聖堂武道館へとサヤを迎えにきた形だ。クレールから逃げてきたとは言わない。それはマイナスなお話でしかなくこの幼馴染を心配させてしまうだけだから。なので返事はこうなる。


「今日はなんだか早くサヤちゃんに会いたかったからね」




 手を繋いで歩く帰り道。夕陽が綺麗なのはいつものことでアイシャは今日のお昼寝ライフも良かったなぁと1日を振り返るのもいつも通り。


 けれど繋いだ手の形が違う。指と指が絡み合う繋ぎ方は、武道館で教わった指折りか何かの形だろうかなどとアイシャは怖い妄想をしてしまう。


 そして繋いだ手の主はとても嬉しそうだ。顔が赤くいまにも蕩けてしまいそうなのは夕陽のせいだろう。


 武道館にサヤをお迎えした時からこの表情だが、アイシャとしては幼馴染がご機嫌ならそれに越したことはなく、少し鼻息が荒くても、手汗がじっとりしているのも気にすることではない。


 ほどなくしてアイシャの家に着いたのだが、繋いだ手が離れない。アイシャの指はパーなのにサヤの手は依然としてグーなうえ、指同士が絡まっているからその手は離れることもない。


「サヤちゃん? 着いたよ」

「うん!」


 アイシャの家になのだが、昔から家族で付き合いのある仲だ。夕飯前にお部屋に誘って雑談して過ごすのもおかしくはないだろうと、仕方なくアイシャは扉を開けて中に入る。


「ただいま」

「おかえりなさい。あら? サヤちゃん?」

「おばさん! 今日はアイシャちゃんのお部屋に泊まります!」


 ガバッと振り向いたアイシャが見たのは喜色満面とはこのことかと思うほどの笑顔のサヤ。


「あらあら……じゃあサヤちゃんのお母さんには私から言っておくわね?」

「はい! すみませんがお願いします!」


 仲のいいことね、うふふと言いながら何故かアイシャの母親がお使いに駆り出される。きっと向こうの母親と「あらあらまあまあ」と話しているに違いない。


「サヤちゃんが泊まりにくるって久しぶりだね」


 お泊まりも小さい頃はそれなりにあったことだ。そう昔を振り返り、なんとか平静を取り戻したアイシャは少し散らかっているお部屋を片付けながら話しかける。


「うん。今日はそんな気分なんだよー」


 ベッドに腰掛けて返事するサヤは可愛いとアイシャも思う。


「今日はパジャマパーティだね」


 着の身着のまま来たサヤのパジャマはどこだろうかとアイシャは視線をさまよわせるが答えなどどこにもない。


 ニコニコのサヤが眩しい。外は既に薄暗いというのに──。


クレールから逃げた先のサヤ。

仲のいい2人のお泊まり会です。


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