なんとかの森のおうち、とか。
いつも静かで聞こえてくるものといえば武具を扱う鍛治工房からの音しかない生産館なのだが、たどり着いたアイシャの耳に聞こえてきたのはたくさんの話し声。それもフェルパのような大人しめの子たちがいる手芸組の部屋から聞こえてくる。その手芸組の部屋の前で中の様子を伺っているところに遅れてサヤとルミが到着した。
「アイシャちゃんは、なんでそんなに脚が速いのよ……」
息を弾ませたサヤの愚痴なのか感心しているのか分からない言葉はアイシャの耳を素通りしたみたいだ。いつもなら返事くらいはするアイシャがおかしい。サヤとルミは顔を見合わせて首を傾げる。
「フェルパちゃん、いる?」
コンコンとノックして問いかけるアイシャ。その顔にはさっきまでの緊迫感はなく、ただただ訳がわからないといった感じだ。
「あ、アイシャちゃん! それにサヤちゃんと……ルミちゃん! 待ってたよ、入って入って」
元気よく扉を開けて迎え入れてくれるフェルパ。3人を順に見ていったフェルパが大きく反応したのはルミを見つけたときだ。
(おかしい。いつものフェルパちゃんならアイシャちゃんを見つけて大喜びしそうなのに)
サヤから見てもフェルパはすっかりアイシャに依存しているところがある。さすがに24時間いつでもではないけれど、暇があればアイシャにべったりで──つまり今回は暇がなかったのだろう。それは3人が手芸組の部屋に入ってすぐ分かった。
「こここ、これを全部私に⁉︎」
フェルパの作業机の上に降り立ったルミはあちこちに飾られた服に家具、ぬいぐるみに部屋といったルミサイズのミニチュアに囲まれていた。
「シル◯ニアかよ」
アイシャの呟きを拾うものは誰もいない。すでにここに訪れた主役にみんなの視線は釘付けなのだ。
「わたしが服を作ってたらみんな参加してくれて……それも他の生産職の人たちまでだよ」
見ればミニチュアの家具などはその細部まで細かい装飾がなされている。服の布地は人間の服と同じように生地から凝っていてよくもこれだけやれたもんだとアイシャは感心した。
それらを作った人たちはこの部屋に30人はいるうちの誰かなのだろう。
「見て見て、この包丁ったら本当に切れるのよ」
興奮したルミは用意された台所で野菜を切っている。
「大体 1/10 くらいのサイズだって教えたからみんなその寸法で合わせて作ってくれたんだよ」
フェルパの言葉に居合わせるメンバーたちが誇らしげにしたり照れ笑いしたりとリアクションで忙しい。
「それにしても、なんでこんな事になってるの?」
ようやくアイシャは疑問を口にできた。服作りはフェルパに個人的にお願いしただけだ。迷惑ということはないけれど、理由を知らない事には素直に喜べない。
みるみるうちにルミは自分にちょうどいいサイズのサラダを作り上げて周りの職人たちを歓喜させ涙すら流させていた。