一刀両断
「不思議体験が過ぎるよアイシャちゃん」
「知ってる。でもみんなには内緒にしといてね?」
「だけど、きっと無駄だと思うんだよね」
速攻でフェルパにバレたような事だ。アイシャに隠し通せるとは到底思えないフェルパ。
「まあ、バレちゃったしルミちゃんも普通にしていいよ」
「だ、誰にもみられた事ないのに……」
剥がされた布切れに包まり震えるルミが落ち着くのにはまだしばらくかかりそうだ。
「フェルパちゃんはもう作れるよね?」
さっきの流れで採寸自体はすでに終わっている。フェルパももちろん作れるのだが、それよりももうひとつ気になることがある。
「うん。あのさ、アイシャちゃんの頭の上のトカゲも人形?」
「これはこういうフィギュアよ」
淡い黄色の光を放つトカゲをフィギュアと言ってみてももう通用するはずもないのに往生際が悪いアホの子である。
「まあ、もうトカゲが光ったくらいで驚きもしないけれど」
フェルパはフェルパで絶対ただのトカゲじゃないとは思いつつさらっと流すあたりアイシャに甘い。
「アイシャちゃんの依頼だから急ぐけど、出来上がりにはまだしばらくかかるよ。出来上がったら持っていくね」
「うん、よろしくね」
アイシャとてすぐに出来上がるとは思っていない。“お昼寝士”なんていう謎多き職業とは違いフェルパは普通の裁縫士だ。楽しみにしてるよと言いつつアイシャはルミサイズの銀ぎつね着ぐるみパジャマを作成する。アイシャとサヤは同じサイズではあったが、フェルパ用には多少小さめのを用意したのだ。どこまでサイズの融通がきくのかとのお試しだが、問題なく出来上がってしまった。
「ねえ、ママ。なんで今さらそんなん作ったん?」
「罪悪感からの閃きだから仕方ないよね」
そんな2人のやり取りを見てフェルパはもう秘密が秘密でなくなる予感というよりも確信に近いものを感じていた。そして、“ならいっそ──”とアイシャには伝えない計画も立ててみた。
“人間族の街!”とあちこちを眺めるルミを肩に乗せて歩けばサヤやフレッチャに見つかりはしたものの、ペットとして認識されるに留まりおおむね好評だ。
「フードまですっぽり被ってたらもう小さな狐だもんね」
「まさか中身がこんな美少女だとは思わないでしょう!」
「自分で言っちゃう?」
恥ずかしい思いをしたものの、あれだけ褒めちぎられればルミも悪くは無いと思っていた。単純に機嫌を良くしてしまうルミはそれ以上にフェルパに隅々まで見られたことにある種の興奮すら感じていた気もするがそれには気づかないフリをしている。この眷属、しっかりと親に似てしまっているのだ。
そんなアホの子親子が鼻歌混じりに歩く背後から鋭い突きが襲う。それは銀ぎつねルミの背中に当たったものの、表面を滑った短剣がアイシャの髪の毛をさっくりと切るだけの結果になった。
「え? ああぁ、私の髪の毛があっ!」
銀ぎつね素材の強度はルミサイズでも変わらなかった。代わりにさっくりと切られたのはアイシャの後ろ髪。子どもっぽいのは卒業と伸ばしていた髪の毛(109話)はそろそろ腰の上辺りに届くくらいになっていてヘアアレンジを色々と考えていたのに今はうなじが見えるくらいのベリーなショートだ。
「なっ、何してくれてるんですか、マケリさんっ⁉︎」
「アイシャちゃん、ご……ごめん」
「す、すまねえ嬢ちゃん。すぐに追っかけたんだが速さでは敵わねえ。こいつが『銀狐がいたっ』つって走り出したんだが、それはさすがに見間違い……」
驚き振り返ったルミはさらに振り返ったアイシャのせいでベイルたちには背中を向けていて顔を見られていない。だがそこはアホの子の眷属。せっかく偶然に助けられたのに立ち姿のままに再び振り返る。真正面からベイルたちと向き合ったそのフードから覗くのは青い瞳の小人。
「なあ、嬢ちゃんよ。ちょっとそこのギルドまでお越し願おうか」
「──私は何も悪いことしていない」
落ちた髪の毛を両手にすくい悲しみに暮れるアイシャに申し訳ない気持ちになっていたマケリも今の過ちを無かったことにしたくてベイルと共にアイシャを別件でギルドに連行した。