素っ裸にひん剥かれる人形
「あ、アイシャちゃん。ここに来るのは久しぶりだね。どうしたの?」
相変わらずの癒し系であるフェルパは、自分たちの作業部屋にアイシャが訪れたことに嬉しそうに迎え入れてくれる。
「実は、私の“お人形”に服を作って欲しいなって思って」
「お人形?」
裁縫士適性のフェルパは聖堂教育のある時は同志と共にこの部屋で日がな一日小物作りに明け暮れている。作り手のセンスによって当然出来上がるものも違い、そうした作品の殆どがクラフト系のギルドで販売されている。
フェルパのセンスは若い女の子に受けていて、実家の肉屋に専用の販売スペースを持つほどには売れている。そんなフェルパは冬休みの今、この部屋に1人のようだ。
「そう、この子なんだけど」
アイシャが珍しく手に持っているバスケットから脱力したルミが鷲掴みで取り出される。しかし扱いは丁寧に、出来るだけ“人形”を扱っている風に見えるようにしてそれでもそっとフェルパの作業机に寝かせる。
「うわぁ、何この子すっごい可愛いっ! ていうか綺麗っ!」
まだ手に取ってはないフェルパはそれでも絶賛している。まるでギリシャ彫刻の女性みたいに布を巻きつけただけのルミには小さいながらも妙な色気がある。
「アイシャちゃん、手に取ってみてもいい?」
「もちろんだよ。でも優しく扱ってね、デリケートだからさ」
「わかった。ふうん……すごい細かい作り。アイシャちゃんが作ったの?」
「まあ、そんなところかな」
意味合いは違うがアイシャ作である。間違ってはないなと否定はしないでおいた。
「えいっ」
アイシャの返事をふぅんと聞いたフェルパは間髪入れずに巻いただけの布を剥いた。
『はうっ』
布の端を持って引っ張って剥がしたものだからルミはその勢いで2回転して小さなうめき声を出してしまう。
「え? 今なんか声が……」
「あ、あー、たまに。たまーにそういうのが出るタイプ? のお人形なのよね」
「そういうのがあるんだ。それにしても本当によく出来てるんだね。真っ白の肌は綺麗だし、ピンク色なんだね。それにうっすらと……こういう所、芸が細かいよね」
「あは、やっぱりリアリティの追求っていうのは大事だよね」
職人アイシャの力作である。
「柔らかぁ。サイズ測るね。ふむふむ、ほうほう、この感じはアイシャちゃんの願望の現れ?」
「お人形にそんなのは反映させるつもりはないけど、似たようなものかな」
憧れで羨ましいのはその通りである。
「こことか、ここなんかもすごい……今にもうんこ出てもおかしくないディティール」
「そ、その辺は服を作るのには関係ないんぢゃないかな?」
「リアリティ!」
「はうっ!」
まさかのアイシャの要らぬ一言がここでルミを辱めるとは。アイシャは心の中でルミに謝る。
「ねえ? なんだか人形さんの顔が赤くなっている気がするんだけど」
「しょ、しょんなことないと思うよ?」
「なんだかお股が開かなく……抵抗されてるんだけど」
「お、お人形も恥ずかしいのかも」
「……えいっ」
アイシャのごまかしに何を思ったかフェルパは羽ペンの先でルミをこしょばし始めてしまった。
『ひやっ、ひゃぁあはっ、あはっははは、やめて! もうっやめっやめっ……ぐすっ……』
全身をくすぐられたルミは耐えること叶わず笑い転げたあとに恥ずかしさで泣き出してしまい、アイシャは顔を手で覆って天を仰いだ。