それはもう、親友と言っても過言じゃないし
「話は終わったのね」
あくびをしながら言うアイシャはルミにさんざん揺すられてやっとめを覚ましたところだ。
「まあ、なにやら上手くいったみたいで良かった良かった」
「アイシャちゃん、聞いていたの?」
「もちろん。“ハナズオウ”のくだりあたりまでは聞いていたよ」
「超序盤じゃない」
ふふっとドヤ顔のアイシャだったが、要するに何も聞いていない。
「まあ、それはいいとして。要はその亜神なんてのが話があるって言った時点でルミちゃんにとっていい話だったんだろうなって思ったわけよ。それでその亜神はもうどっかにいったわけね」
「アイシャちゃんの慣れ具合も大したものだね。亜神様は話し終えられて地面に潜って行ったよ。アイシャちゃんと仲良くしろだって」
「心配しなくても私とルミちゃんは仲良しだっつーの」
(そ、そうだったんだ……)
確かに色々と話しはしたものの、ルミとしてはこれが最後だから誰かに聞いて欲しかっただけで、そこまで仲良くなれたかは定かではない。
「じゃあやっと帰れるのね」
「そうだね。今度こそ、かな」
「よし、じゃあ──うわっ?」
もと来た道に向かい歩き出そうとするアイシャを背中からすくいあげた者がいる。
「あ、岩大トカゲ。なに? 送ってくれるの?」
「──そうみたいだね」
「ルミちゃんはこの子と話せるの?」
「なんとなく……わかっちゃった。やっぱり私はもう精霊なのよね」
ルミは見た目こそ生前のまま小さくなっただけではあるが、もう雪人族ではない。もともとの彼女はアイシャのストレージ内で腐ることなく保存され、中身だけが新たな肉体を得て生まれ変わっている。
「あれ、じゃあ私ってここから出られるのかな」
ルミは魔族領から訪れて人間族側の出入り口を通過出来なかったのだ。そんな彼女からしたら当たり前の心配ではあるが
「私の眷属だって言うんなら大丈夫なんじゃない? この子もこうして案内してくれてるんだし」
「──そうみたいね」
やがて釣りを楽しんだ地底湖に辿り着いたアイシャたちは岩大トカゲから降りて自分たちの足で向かうことになる。この先は通路が狭くこの岩大トカゲが通ることは出来ない。
「あんたもありがとうね。釣りもそうだしルミちゃんに会わせてくれて。こんなところで寂しいかもだけど、たまには会いにくるからね」
「──え? それならご褒美が欲しい? いや、でもそれは……は? そんなのでいいの?」
挨拶を済ませてさっさと帰りたいアイシャの意思に反してまだイベントは続いているようだ。
「ルミちゃん、一応聞くけど独り言じゃないんだよね」
「もちろんだよ。なんかね、アイシャちゃんの姫百合の花が1つ欲しいんだって」
「……それで終わる話なんだよね?」
「この子はそれ以外は求めてないよ。なんでも親の魔力のこもった花だからって」
「あー、そういえば地龍があそこに仕掛けていたんだもんね。じゃあ、はい」
アイシャはストレージから取り出したすずらんから花を1つ摘んで岩大トカゲの鼻先に載せてあげた。
「ルミちゃん。私にはもう後悔しかないよ」
「まさか、こんなことになるなんて」
すずらんの花を乗せられた岩大トカゲは、まばゆい光に包まれて肉体ごと花の中に取り込まれてしまった。
「この後の展開なんて分かりきってるじゃない。放置して行ったらだめかな?」
「アイシャちゃん。それは付き合っていたのに身籠ったら音信不通になる最低男と同じだよ」
「ぐっ……それはいやだなぁ」
アイシャは進んでそういう面倒事を求めはしないが、責任というものを何の考えもなく放棄するのはなお良しとしない性格でもある。
やがて2人の想像通りに花の中から小さなトカゲが現れたところでアイシャが観念して手のひらに迎えたそいつは、後ろ足で立ち上がり腰に手を当てて胸を逸らし得意げに黄色く光っていた。