こうビブラートで……いや、コブシを効かせて……
翌朝、アイシャたちが目を覚ますと洞窟の中には陽の光が射していて、昨夜に満月が覗いていた天井の穴の先には青空が見えていた。
「じゃあ、いこっかルミちゃん」
「そうね、“ママ”」
「ところでその“ママ”呼びはどうにかならないの?」
アイシャがここに来たのは偶然で、そんな魔力で咲く花なんてのももちろん知らない。ましてや今にも死ぬって人が現れて花の精霊に産まれ変わっても、そこにアイシャの意思は介在していない。未婚の母になるにしても子どもは普通がいいとか思ってしまう。
「まあ、“アイシャちゃん”でもいいんだけど、“ママ”の方が便宜上いいと思うのよ」
「便宜上?」
ルミが話すところには、魔族が人間族の世界で当たり前に存在することは難しいかも知れないけれど、広く存在の認められている無害な“精霊”であればその限りではない。
「野良の精霊だと捕まってオークションなんてのが横行してるみたいだけど、すでに特定の人と繋がりがあると分かれば離れずに済むと思うのよ」
「だから“ママ”なんだね」
それでも精霊の“ママ”になることは普通では無いはずなのだが、アイシャにそんなところの違いなんて分からない。
「分かったよ。じゃあそれで行こっか」
『待ちなさい』
「え? 今のルミちゃん?」
「この身体からあんな野太い声が出ると思う? あ、あー、待ちなさい。無理よ」
「今のモノマネ? へったくそだねー。う、うんっ! あー、あーっ……待ちなさい」
「変わんないし。私の方がまだマシよね」
「えぇー。じゃあもう一回」
『静かになるまで10分かかりました』
「「ごめんなさい」」
「それで、話してるのって……岩大トカゲじゃないもんね?」
『我は──』
(でた、一人称“我”。もうお腹いっぱいだよ、私は)
頭の中でまたかとため息をつくアイシャの足元が揺れて立っていられなくなり地面にへばりつく。
「なっ、なっなに⁉︎」
洞窟内が揺れ、天井からは光るミミズや岩のカケラが降ってくる。当たりそうなものは手当たり次第にストレージにドボンする。やがてアイシャの足元に亀裂が入り、大きな(天井のミミズ比)光るミミズが這い出してきた。
『我はアースドラゴン。この山脈の地下に生きる地龍である』
「小さくね?」
「う、うん」
アイシャの足元にはスコップの先端を刺した程度の亀裂とフェレットくらいのサイズのアースドラゴン、というかミミズが立ち上がり威張っていた。