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寝て過ごした実績って何さ

 聖堂教育もこの日で終わり冬休みに入る。それぞれに鍛練を続けた日々の締めくくりの教師によるありがたいお話もアイシャはうわの空で、聞いていない。そもそも聞く気がない。


(みんな仕事だからそれっぽい言葉を選んで口にしているだけだもんね)


「──アイシャさん、アイシャさんっ!」

「ふえ?」


 窓の外ばかり見ていたアイシャは呼ばれて振り向くとさっきまで教室の前で話していた教師が目の前に立って自分を見下ろしているのに何事かと思う。いつもは何もかもほったらかしなのに。


「アイシャさんも含めて皆さんは来年度で卒業を迎える歳になります。卒業の際には皆さんの教育訓練成果としてギルドカードの提示がありますが、その準備をしっかりしてくださいね」

「え? 私の成果とか言われても何も教わってないんだけど?」


 入学当日から放置され続けてきたアイシャからすればそんなことを言われても知ったことじゃない。


「あなたについては確かにその通りですから、その謎の適性の報告レポートでも出してもらう予定です。見に行くたびにお昼寝していたあなたですから、何かしらの実績くらいはあるものと思っています。それと他のみなさんと同様にギルドカードの提示も」

「じゃあ私だけ増えてるんじゃ──」

「他のみなさんはそれぞれに分かれて実技と筆記の試験もありますが、そちらがよろしかったかしら? ちなみに筆記はこの国、世界の歴史と常識を教育期間中8年間の総まとめですけれど」

「レポートでお願いしますっ!」(キリッ)


 ちなみにそのレポートは卒業まであと少しの翌年のこの日に提出したが、


『お昼寝館は日差しが気持ちいいですが毛虫だけは慣れませんでした』


 と書いただけのものを提出して同じ教師からのゲンコツをもらい再提出を約束させられてしまっていた。




 サヤとアイシャが2人帰りの並木道を歩く。街路樹は葉を落とし冬の寒々しさを演出している。


「そういえばアイシャちゃんのスキルツリーってどうなったの?」

「え? どういうこと?」

「ほら、初めてギルドカードをもらった時に何故か枯れ木みたいに細かったじゃない?」

「あ、あー、あれね」

「どうなったの? 変わってない? 変わった?」

「た、多少はマシになったかなあ?」

「どんなの? 見せて」

「別に見ても面白くなんてないよ? それよりも次の鍋パーティーは何鍋にしようか?この間はしゃぶしゃぶだったから──」

「みーせーてー。サヤには見せられない?」

「えあ……まあ見せられるよ? はい」


 アイシャの経験上、サヤのこの強引さには逆らってはいけない。普段の一人称とは違い自分を名前呼びした時などは特にで、今みたいに腕を抱きしめてグイグイくる時は断るとまるで失恋したかのように打ちひしがれてしまうのだ。


「あっ、ほんとだー。変わってるぅー。変わってるぅ……なにこれ。私のとかみんなのと違う。変わってるね」

「う、うん」

「枯れ木では無くなったけど……なにこれ」

「えっと……生命の樹?」


 さすがにそんな神秘的なものではないが、いつか見た記憶にある複雑なそれをイメージするほどには枝だらけである。


「なにそれ。どうしたらあの枯れ木からこんな枝だらけのツリーになっちゃうの。前の冬にはまだそんな事はなかったのに」

「さあ? まあ無いよりはいいと思ってるよ。それよりは次は何鍋がいい?」

「え? じゃあ──」


 謎のツリーが謎のツリーに変わっただけのことだ。ゼロから100を超えて1000に振り切っていたとしても、おかしなことに変わりはない。


 サヤのお願いを聞いてもらえて満足したらしく、そのあとは普段通りのふたりであった。


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