汗と涙と魔力
「じゃあそんな手に入らない魔石でこんな魔道具をどうやって?」
「なんでも魔族から買い取っているみたいだよ。これこれこういうのが欲しいって伝えて作ってもらうんだって。商人適性の子に聞いたことがあるよ」
人間族が魔族から買い付けるのは落ちているままのただの魔石ではなく、リクエストして作ってもらった魔道具としての魔石である。
その内容次第で金額も多少変わるが、そうしないと無駄になる。人間族に魔石を魔道具に変化させる技能というのはそれほど多くないし、その成功率も良くない。無地の魔石を仕入れて多くが無駄になり、収支を計算した時に魔族製の方が質が良く安定供給も見込めるのだから多少高くてもそちらにするほうが結果として安上がりであったからだ。
「アクセサリー職人とかはないの?」
「髪飾りやリボンとか? あるけどもうそれは魔道具じゃないよね」
「そ、そうだね」
「そういえばアイシャちゃんはカチュワちゃんの盾を作ったんだよね? 生産系に行く感じ?」
「まあ、色々とかじってみて考えたいかなあなんて」
「お昼寝士はそうだね、何者かわからないもんね」
聖堂教育が終わればみんなでチーム“ララバイ”として活動すると決まってはいるものの、依然としてぬいぐるみを抱えているだけのフェルパと応援係のアイシャが不安なのはサヤの本音である。だから生産系でもなんでも目標を決めてくれればサヤは少し安心できるというもの。
「アイシャちゃんが生産系に行くなら、戦闘は私に任せてっ! 絶対に守ってあげるから!」
「ありがとう、サヤちゃん」
幼馴染のその気持ちが嬉しくってアイシャはサヤの手を取り感謝して、またしてもララバイから逃れることは出来ないんだなと思い知らされた。
「これを、あたしに?」
アイシャはお昼寝館に訪れて筋トレに励むマイムに魔石で作ったアミュレットを手渡す。
「うん、“エルフのところ”で買ってきたの。掘り出し物だっていうから、つい。でも私は魔術は使えないから、マイムちゃんに使って欲しいなあって」
「使えないなら最初から買わなければいいのに」
「うっ──」
(無理すぎたかな?)
アイシャは自分が作ったことは内緒にして渡したかったが、ひとつ嘘をつくとつい他にも嘘を混ぜてしまう。
「最初からあたしのために買ってきてくれたんでしょ。照れなくていいのに」
「あ、あはは──ばれちゃったか」
メンバーの中で唯一の魔術士である上に、前にベイルからも聞かされていて、実際に相談を受けているのだからそれで十分だったはずである。
「お守り。大事にするね。ちなみに何の効果があるの? なんか魔石の中がカオスな魔力の流れになってるけど」
「それはね、“魔導の輝き”って名前で、魔術が少し得意になるくらいらしいよ」
らしい、というのはアイシャのスキルツリーからの情報だからである。アイシャ自身は検証も出来ていない。
「魔導……このお守りアイシャちゃんの匂いがする」
「そ、それはずっと手に握っていたから、かな? さっきまで一緒に走ったり腹筋したりしてたし? 汗かいたからだよ、ごめんね?」
「うそ、アイテムボックスに入ってたのに。あたしは魔力が見えて鼻でわかる。──アイシャちゃんの魔力の匂いが変わったのも知ってる。それとおんなじ匂い」
言ってマイムはいつかの初対面の時のようにアイシャに抱きついて匂いを嗅ぎ出す。
「ええ? 匂いが変わったってなに?」
「加齢臭」
「しないよっ⁉︎ 乙女からはそんな匂いしないからねっ!」
「うそ。これはなんだろ。アイシャちゃん──、一線越えた?」
「こ、越えてもないからっ! なに? 一線って、何のことかなっ⁉︎ 私にはさっぱりだよ!」
「一線──つまり、こういうこと」
「あわ! あ、あ、“プラネタリウム”っ! ベッド、お布団! お布団お布団お布団!」
「汗だくでも、構わない」
少し前から悩んでいたマイムへのプレゼントを渡すこともできて感謝の抱擁も受け入れてアイシャのお昼寝は今日もまたソロではなかった。