表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

158/607

弓に通う愛の魔力

 アイシャの視線が右へ左へと往復する。フレッチャが構えて放つ。遠くの的に当たりアイシャは拍手するがフレッチャは満足する事なく次を構えて放つ。アイシャはさっきから目で追いかけて拍手をするだけのおもちゃみたいになっている。


「アイシャ。なにか、アドバイスとかないかな?」

「私にわかるわけないじゃん」

「はは、それもそうだな」


 ショブージの謎の信頼なんてのはアイシャにとっては大きな迷惑でしかない。エルフのように放たれる矢に魔力が宿っているかどうかならマイムでも連れて来ればいいのに完全な人選ミスだと言ったら、すでにそれはやった後でその時に矢に魔力は乗っていないと明言されている。


 そのフレッチャの隣でショブージがお手本を射る。矢をつがえて引けば弓から伝わった魔力が矢に届いてそれは放たれた瞬間からフレッチャのものとは全然違うものになって的を射抜く。


 そういうのを眺めていると、フレッチャの弓には全く魔力が宿っていない事に気づく。矢に対して頑張って魔力を込めても弦に飛ばされるのが矢本体だけで魔力が拡散しているよう。


(なんで私にそんなものが見えるのかは分からないけど、なんかオナラみたいだなぁ)


 今まで見えていなかったものに気づいたアイシャの感想はオナラジェットであった。


「ねえ、ショブージくん」

「なんですか! 女神様!」

「ショブージくんの弓をフレッチャに貸してみてくんない?」

「私の、ですか? けどすみませんがそれは無理ですね。この弓は私の魔力に反応するようにと生まれた時に加工してくれたもので、他の人が使っても意味がないのです」

「へえ。そこんところ詳しく」




「これが……私の?」

「そう。“エルフの秘伝の弓”フレッチャちゃん専用だよ」

「それはなんとも。けどいいの? こんなもの、貰って」

「私もフレッチャちゃんのために何かしてあげたくってさ」

「そうか、ありがとうアイシャ。これを作ってくれたエルフの職人にも礼を言いたいのだが」

「それは私からフレッチャちゃんの分まで言っておいたから大丈夫。それよりも試してみてよ」


 フレッチャの弓を作ったエルフの職人なんてのはいない。基本的にこの集落に弓の職人なんてのはおらず、彼らは自分で作れてしまう。そんな彼らからエルフの弓の秘伝を聞き出したアイシャが自身の技能と合わせて拵えたものだ。


(まさかそれでエルフ弓作成なんて技能がツリーに現れるとは思わなかったけど)


 嬉しそうな顔のフレッチャが弓を構えるのを眺めるアイシャ。フレッチャの魔力が弓に通っていくのが見える。


(秘伝、とか言うからどんなのかと思ったけど。まあ、まさしく“秘伝”とも言えるのかな?)


 フレッチャの背中を見てアイシャは間違いないとそう思う。


 足から矢の先端までを満たす光。いつから見えるようになったのか分からないけれど、とアイシャはその光景を自然と受け入れる。


(亜神様ってやつのせいかな。もしかしたらマイムの見ているのはこういうものなのかな)


 フレッチャが放った矢はちゃんと魔力を帯びて的に当たる。狙ったところに確かに届いてその威力も速さもそれまでより格段に高まっている。


 拳をグッと握ってフレッチャがアイシャを振り返る。アイシャもそれに小さくサムズアップして応える。


(弓を作ってあげたい相手の身体の一部──髪の毛とか、その手に抱いた素肌の感触。そしてその人を想う心を魔力に込めて。そんなの自分の子どもか友だちにしか出来ないよね)


 恋人とか伴侶とかの単語はあえて除いたアイシャ。熱い友情が作り上げたものだと、その結果に深く頷く。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ