誰得バラダーのドキドキにぎにぎ
「完璧だったわ。私のあの演技! アカデミー賞ものよっ。ベイルさんのあの沈痛な表情。エルマーナさんのあの同情するような表情! もはや私を止めるものなんて何もないわ! あーっはっはっはっ」
「何があーっはっはっは、だ。このちんちくりんが」
屋台の合間にちょこちょこと実験を重ねるマッドサイエンティスト、アイシャが腰に手を当てて勝利の高笑いをあげている所に声をかけられ飛び跳ねて驚く。“寝ずの番”の微かな警報に気づかないほどに浮かれていたようだ。
振り向けばそこにいたのはバラダー。アイシャの頬を鷲掴みにして問う。
「何が完璧なんだ? うん? 俺に聞かせてくれよ、な?」
「ぱ、ぱい」
「なるほど、な。その水鉄砲も花火装置の話もさっき改めて聞いたばかりだ」
「なんでここに?」
「お前のその話が先月のことだ。ベイルはちゃんと報告の出来るやつだからな。知らせを受けてたどり着いたのが今日ということだ」
「なるほど、時間はピッタリあいそうだね」
アイシャは手の指を折り曲げ数えていたが、そもそもバラダーが普段どこにいるかもわからないから途中で数えるのを放棄している。
「じゃあ私が話さないって事も聞いてるんでしょ?」
「金次第みたいなことも聞いている」
「正気?ただのおもちゃだよ?」
「ただのおもちゃが木を吹き飛ばすか? なんだこの卑猥なぬいぐるみは」
バラダーは手の中のぬいぐるみのちんちんを指差して呆れている。
「あ、あら〜」
「ごめんなさい、アイシャちゃん」
アイシャもバラダーがフェルパを引き連れていたのを見たときから、なんとなく想定していたこと。エルフたちの仲立ちをした時もバラダーは当事者であればアイシャでなくとも構わないとしていたのだから。
「ベイルの話を聞いて先にこっちのフェルパに会ってきた。この子を責めるなよ。俺が問い詰めてダンマリ決め込むのなんて庶民の中でお前くらいのもんだ」
「責めたりしないよ。ごめんねフェルパちゃん。むさい髭がきて怖かったんじゃないだいだいたい、痛いぃっ!」
「叫ぶくらいなら喧嘩売ってんじゃあねえ」
こめかみを掴まれて締め上げられるアイシャにフェルパには優しく接していたおじさんバラダーのちがう一面を見てしまった。
「で。この水鉄砲か? どうやって使うんだ?」
「そのちんちんを握れば出るから」
「馬鹿なのかお前は……」
「計算された機能美だよ」
真面目な顔で説明するアイシャに真面目にツッコむバラダー。しかしアイシャの言う通りにしてもぬいぐるみが鳴き声をあげるだけで何も出てこない。
「はんっ。おい、なんも出ねえぞ。転移魔石を川に沈めろ」
「な、なんでそこまで知って──まさか、秘密が漏れて?」
「プールで散々やったくせに何言ってんだ」
目撃者多数。もはやこのアホの子は素なのか演技なのか……バラダーにもフェルパにも分からない。
「国家治安維持局局長、バラダーは、愛おしくその突起物を撫でまわし、確かめるように指一本一本握りしめていく。その手つきは百戦錬磨の玄人のワザ。優しく包むように握られた彼はたまらず──」
“キューっ”
「だああっ! 人にっ人に向けるなって言ったでしょーよ!」
「てめえの気色悪いナレーションに対する正しい反応だ」
「ちんちんを優しく摘んだくせに──だああっ! だからやめっ! さっきより強いし!」
「なるほどな、こうして威力を調整できるのか。こんなものを作るとは、大した、ものだなっ!」
“キューっ”“キューっ”“キューっ”
アイシャとバラダーのじゃれ合いはバラダーが飽きるまで続けられた。