選択を迫られるフェルパ
もともとの予定よりは長かった森の滞在も、ベイルが先に連絡をしていたおかげで、延長したことでアイシャたちが怒られたりギルドが問題になったりというようなこともなかった。
「へいらっしゃい!」
聖堂教育も夏休みに入り、この頃はプールで屋台をやるアイシャが目撃されるようになった。
「あれ? 昨日は焼きそばだったのに今日は焼き鳥?」
「へい! 日替わりで回していこうかと思いやして。明日はお好み焼きで明後日はまた焼き鳥でさあ!」
「そ、そうなのね。じゃあ焼き鳥の皮とももをもらおうかしら」
「へい! 皮ともも一丁!」
「いっちょう!」
もちろんフェルパも一緒でこの頃はアイシャの代わりに焼くこともあるほどだ。
「フェルパちゃんは“ララバイ”でどうやっていくつもりなの?」
「どうって?」
「ほら、みんな戦闘要員なわけだしフェルパちゃんだけ戦わないわけにはいかなくなるかなって」
「わた、わたしはその……みんなと居られればいいかなって」
「フェルパちゃん。それだとみんなにお世話してもらうお姫様だよ。そんな事はだれも許してはくれないよ?」
基本的に寝てばっかのアイシャが言うのはどうだろうかと思われるセリフだが、フェルパには痛いほどに突き刺さる。
「──ぐすっ」
何も言い返せず黙り込んで泣かれるのが1番こたえる。
「だから、一緒にいられる方法を考えよう」
フェルパの泣き顔は途端に晴れて夏のひまわりのように眩しい笑顔で「うん! ありがとうアイシャちゃん」と返事した。
「へいらっしゃい!」
「いらっしゃいませ!」
「アイシャちゃん今度はなに? これ」
いつもの屋台ではなく、地べたにシートを敷いて何やら売っているアイシャにサヤたちが話しかける。
「これはね、こうしてこうするんだよ」
「なんだかプールが賑やかね。流れる速さは間違ってない?」
わいわいと賑わうプールの声量がいやに大きく聞こえてエルマーナは不安になる。
「それは大丈夫なんですが、やっぱりあの女の子が──」
「アイシャが何かしたの?」
「まあ、見て下さいよあれ」
監視員の魔術士が指差す先には水の線が飛び交う光景があった。
「何あれ魔術?」
「エルマーナさん、マイムになってますよ。なんだかみんな変な筒を持っていてそれが水を飛ばしているみたいで」
聖堂の裏手に竹林を見つけていたアイシャはそれらをバッサリと切り取って竹筒の水鉄砲を作っていた。それは本来ならば大した事ではないはずなのだが。
「ひゃっほおおう! まてまてー!」
「あ、アイシャちゃん強すぎるよおお」
どう考えても筒の容積と放出量が釣り合っていない。
「あれって魔石よね?」
「そうですよね、プールの真ん中に沈んでるのはやっぱりそうですよねぇ」
そこにはエルマーナの知識に微かにあるエルフ族秘伝のアミュレットの効果である“物質転移”がありありと再現されていた。