手を繋ぐふたり
「ふんわふんわ」
「ちょ、リコさん? ちょ?」
アイシャの見ている前でリコは布団を横から潜り込むようにゆっくりと入っていく。
「ふんわふんわふんわ」
(一体なにごと? あの真面目さで固めたようなリコさんが)
「ふんわふんわー」
「なんか私よりもよっぽど頭のおかしい子みたいになってるよ」
もう腰まで見えなくなっている。アイシャも別に無理矢理に引っ張り出す事もないとリコの奇行を見守るしかできない。
「ふんわー」
コロンコロンと靴が脱げて落ちる。とうとう足先まで見えなくなってしまった。
「リコさーん? おーい、リコー」
アイシャが呼びかけるが返事はない。仕方なくアイシャが布団の頭のところをめくると、既に目を閉じて気持ちよさそうに息をするリコがいる。
「……お父さん」
アイシャはこのリコが父親に言われたとはいえ全てを見捨てて使用人と逃げてきたのだと思い出した。その道中で小鬼に襲われて2人死んでいる。こんなまだ女の子のリコが平気なはずはない。
「仕方ないね」
アイシャは自分用の抱き枕を中に滑り込ませて1人外に出るつもりだ。つもりだった。
それはアイシャには抗うことの出来ない作用。自分の中にあるもう1人がその感情や心に干渉してきてもそれがどこから来たのかなんて分からない。
わかるのは──唐突に気分が変わってやっぱりお昼寝しなきゃと思ったことだけだ。(アイシャ談)
アイシャは机の上に置いてあったオルゴールを鳴らす。心を安らげる旋律が部屋に響く。その音量が外に漏れないかと心配してプラネタリウムを発動させた。
布団をまくりアイシャも中に這入る。抱き枕はすでにリコが抱いて反対側へ置いている。
『人間、抱き枕』
抗えない欲求はどストレートにやってくる。アイシャはリコの腰に手を回す。そしてその違和感に気づいてなお身体を密着させる。
リコの柔肌はなめらかで指を這わせるアイシャも気持ちがいい。そう、リコはすでに服を着ていない。いつかの5人と同じである。
そうするとアイシャもいそいそと服を脱ぐ。
相手がすでにまっぱなのに自分だけ着ているのは無作法だと『彼女』は主張するのだ。そうするとCを抱きかかえるAの出来上がりだ。柔肌を求めるアイシャに応えるようにリコも寝返りをうちアイシャに向き合う。
「お昼寝ってこういうことでしたのね」
「やっぱり起きてたんだね」
触れた時の反応でアイシャはわかっていたけど、アイシャの手を誘導していたのはリコだ。
「みんなから聞きましたわ。アイシャちゃんのお布団にはきっと魔法がかかっているって。目にしたら入りたくなって入ればその先は“秘密”だなんて言われたんだもの」
「そりゃあ、みんな“秘密”だよね」
「けれどお互いに分かってたみたいでしたわ」
見つめ合う2人は抱き合いお互いを抱き枕にしている。その指が肩から背中、おしりを通って腿までを丁寧になぞり往復する。脚は脚同士で確かめ合う。脚の付け根まで食い込む太もも。
リコがアイシャのおでこに口を当てればアイシャは首筋に口を添える。サイズの違う果実にアイシャは恥ずかしさを覚えるがリコは「可愛いですわ」と言ってアイシャをこまらせる。
「わたくし、亜神様は関係なくアイシャちゃんと仲良くなりたいですわ」
「そうだね、もう仕方ないよねぇこれは」
流れるメロディはその“深き眠りへの誘い”の名の通りに2人がそれ以上に進展する前に眠りにつかせた。
鍵をかけてプラネタリウムで外とをシャットダウンしてオルゴールをかけたままに寝た2人が起きたのは外が本当に暗くなった夕食前のことだった。