一夜明けて
「あのマンティコアに娘がいただなんて」
マンティコアの去った後、月の輝く空を見つめてベイルは呟いた。
「愚息はいたらしいけどね! まったく」
プラネタリウムの中を覗かれていた事実にプリプリするアイシャ。
「嬢ちゃんよ、愚息ってのは初耳だな、ちょっと俺と──」
「あなたは! あなたは何者なのですか!」
ベイルに首根っこを掴まれて猫みたいにぶらんとしているアイシャにリコが詰め寄る。
アイシャの両手を包み込むようにして握るその顔は興奮に満ちており頬を桃色に染めている。
「嬢ちゃんは──」
「アイシャちゃんは私の幼馴染で仲良しなんです!」
「あたしの抱き枕」
「私たちのリーダーだな」
「カチュワの恩人なのです」
「わたしの、その、い……いえないよぉ。はしたなくって」
チームララバイの5人が争うように主張し
「私は唯一。この世界に舞い降りたお昼寝士よ」
ベイルに吊り下げられダランと伸びたアイシャはカッコつけてみたが、リコもベイルも訳が分からなかった。
当初の目的はエルフとの非常時の協力関係を確約することだ。それは終わっており、大鬼はもういない。ギラヘリーの街のことは気になるがそれはベイルたちが独断で何かをすることでもない。
「というわけで俺たちは明日帰るんだが、リコさんは本当にいいのか?」
「はい。もともとシャハルの街に逃げろとの事でしたから、ご迷惑でなければこのまま一緒に連れて行ってくださいませ」
白に近い銀髪をストレートのロングにし、前髪を真っ直ぐに揃えたリコの座った姿勢は美しく、清楚なシャツとカーディガンにロングスカートがさらにアイシャたちよりも大人びた印象をあたえる。その瞳は力強く真っ直ぐに細い眉までもがその確固たる意志を表している。
「なのに膝に嬢ちゃんを乗っけているのが台無しだな」
苦笑いするベイルが言う通り、座るリコはアイシャを抱いている。何故だか朝に広間で集まったメンバーの女の子たちの中でじゃんけんが始まってリコが勝ち抜いたためにこのようなことになっている。
「んふふふ。だってアイシャちゃんは可愛いんですもの」
(それだけじゃない──この子人面犬繋がりの私と仲良くなりたいんだってのがすっごい分かる)
無垢で無邪気な他のメンバーのアイシャらぶとは違い、やはりリコの表情にはそんな事を言っている今でさえ別な思惑がありありと表れている。
(下心の隠せないタイプっていうのかな)
リコはアイシャを離さないとばかりに撫でくりまわすが、そこに愛はない。この時までは──