ギルドカードと人間族
「ベイルさんはモヒカンで筋肉ダルマだけど、やっぱり力はAなの?」
「アイシャが失礼なのは分かっているが、流石に酷いと思うよ」
フレッチャもなかなかに酷い言いようではあるが、言われたアイシャは何のことかと分からない顔をしている。
「モヒカンは何かの“罰”だとか?」
「いや、筋肉の方だよアイシャちゃん」
この世界のアホの子アイシャにサヤが横からそっと教える。
「まあ、俺は気にはしてねえんだがな」
ベイルまでもが少し反応がおかしい。
「んん? ちょっと待って。また私の認識が変な気がする」
「本当に分かってない時のやつ。アイシャちゃんはたまに当たり前の知識が欠けている」
マイムの言葉に皆が「あー、例のやつ」と納得してアイシャが少しむくれる。
「いいわ、私から説明したげる」
欲深きお姉さんのマケリがアイシャの疑問に思う前提の解説を引き受けた。
「この世界には色んな動物がいるわ。狐も鹿も熊も。明らかに強いのは熊ね、大きいもの。この馬車の中でもベイルは圧倒的に大きいから同じ考えならベイルはとてつもなく強いかも知れない」
「えぇ? 違うの?」
「そうね。私たち人間族は脆弱よ。それをカバーするために適性というものがあるわ。神さまに授けられたって言われてるけど本当のところは分からない。そして得たのは適性というものだけではなくて、ステータスもそうなのよ」
アイシャは聖堂教育の初めの頃にそんな話があったような気がすると思い返すが、おおよそ途中から寝ていたはずだ、とマケリの話に意識を戻す。
「ギルドカードもその時からあるけど、その仕組みは誰も知らない。分解不可能な箱からカードが出てくるんだもの。そしてそれが私たちと繋がっていて成長を助けてくれるし表示してくれる。“技能”とか“スキル”って呼ばれるものをポイントで手に入れられるのもその謎のカードのおかげよね」
それはアイシャの中でも謎に思っていた事だ。“枕作成”で勝手に作られるそれにはアイシャ自身の知識や技術は関係ない。カードから得て結果が示される。
「ギルドカードの中身。それこそが私たち人間個人の能力とか地位。つまりステータスなのよ。書いてある事だけじゃない、中身。熊に当てはめれば、きっとその力そのものと言える筋肉をギルドカードの中に収めてとてもスリムな獣に生まれ変わるでしょうね」
「ちょっと待って。生き物の成長がそんな風に──」
「なってるのよ。少なくともギルドカードというシステムを授けられた私たち人間族については、ね」
マケリの言葉にサヤもフレッチャもみんながうんうんと頷く。
「それで、ね」
「マケリ、言いにくいだろう。ここからは俺が説明する」
ベイルは申し訳なさそうにマケリに告げて引き取る。
「ギルドカードと上手く繋がれなかった人間。俺のようなのを“半端者”と世の中は呼ぶ。本来ならカードに集約されるモノがそうはならずにこうして身体に現れる。上手く繋がってないから技能を得るにもスキルツリーに表示されるものさえ少ない。魔物を捧げるのは半分は失敗してもう半分もほとんどが無駄になっちまう。だからステータス上の俺の力はDだしツリーはまだ半ばで斧術は中級でしかない」
なるほど、とアイシャは自分の認識の誤りに気づき、素直に口にする。
「半端者……それで髪の毛も半端に」
「これはオシャレだ」
「ふふんっ。でもさ、私はベイルさんのその姿、嫌いじゃないよ。珍しくて独特で溢れ出る世紀末感なところとか」
「あん? 慰めてんのか? 世紀末感てのは分かんねえが、まあありがとうよ」
アイシャはベイルを眺めて胸を撫でる。
「じゃあ私は繋がりが良すぎるのかな」
「いや、性別的な特徴ってのは関係ねえから、それは100%嬢ちゃんの今だ。それにどんなに頑張ってもEなのにちんちくりんならもうそれも100%なんだろうな」
「アイシャの唯一のAだからな。誇っていいと思うよ。私はそんなアイシャが好きだしな」
ベイルに現実を突きつけられフレッチャがフォローにならないフォローをしてくれる。
「優しい世界だね」
アイシャがそう言って流した涙にみんなが感動し、馬車は彼女らを乗せて進んでいく。