脅かされる日常
「この人間族の国“ジュモーグス”は周囲を魔族の国々と隣接する国境を有している」
この日共通座学は一旦取りやめとなり、ギルドから派遣されてきた職員による説明会が行われている。
「当然のことだ。人間族の他は魔族、そう呼んでいるのだからな。だが魔族と一括りにしてもそれら全てが団結して人間族を襲うわけでもない。そんな事ならとっくに滅んでいる」
(前置き長いなぁ)
アイシャはその説明を「早く本題にはいってよ」と机に突っ伏しながら聞いている。
「つい先頃はある人物のおかげでエルフたちの一部とはいえ友好関係を結んだばかりだ」
「アイシャちゃんのことだね」
「知らない私はそんな事知らない」
サヤがボソっとアイシャに耳打ちするが当の本人の反応は実に薄い。
「その人物とは君たちもよく知る先輩のクレールだ」
「異議ありっ!」
「サヤちゃん、やめてサヤちゃん」
「あのエルフたちを──」
「これは国家治安維持局の正式な見解だ。サヤも分かるだろう?」
先ほどから似合わないスーツを着て丁寧に説明していたベイルがサヤに「察しろ」とばかりに意味ありげな視線を送り制する。
サヤはハッとして未だ突っ伏している幼馴染が立ち上がったサヤの服の裾を掴んで困った顔で見上げているのに気づく。
「すみません、私の思い違いだったみたいです」
安穏とした生活を求める幼馴染がなぜか面倒に巻き込まれた結果でしかないのをベイルも局長のバラダーさえも隠し通そうとしてくれているのだ。
「ごめんね、アイシャちゃん。もう大丈夫」
(バラダーさんもベイルさんも分かっててそうしてくれるのに私はアイシャちゃんに──)
幼馴染の頑張りを否定されたようで声を上げたつもりだが、それがアイシャの求めるところではないと分かっていたはずなのにとサヤはひとり反省する。
「まあ、そのクレールの仲立ちがあってこそ成得た友好だ」
(『公にするなとあのお昼寝士は言ってきた。でないとマンティコアをけしかけると。半ば脅しだが別に構わんだろう』──なんて局長が請け負うのも分かる。あの寝ぼすけでは説得力皆無だからな。クレールが嬢ちゃんに惚れ込んでて、それならと快諾してくれたのも良かった)
「魔族とも友好関係を築けないわけではない。だが依然として脅威なのも変わらないのだ。そしてこの街“シャハル”から見て北東に位置する街“ギラヘリー”が今まさに魔族の侵攻を受けている。それにより魔族側で人間族への侵略の機運が高まっている状態だ。今年も来年もがいつも通りとは限らんということを知っておいて貰いたい」
ガタンっと倒れ崩れ落ちる音。今度はアイシャが椅子から転げ落ちたような体勢で呆然としながらベイルを見ている。
「わ、私のお昼寝ライフは──?」
「知らん、自分で守り抜け」
「そんな……」
この世の終わりの如く打ちひしがれるアイシャの周りは、想定する被害の度合いのみんなとのギャップに(ああ、アホの子だもんな)と妙に納得していた。