少女の純情
「おや? 今日はいないのかな? まああの子も友達の所にくらいはいくのでしょう」
「おい! お昼寝士! 今日こそは──あれ?」
「嬢ちゃんよ、今度はまたエルフのところであのろりこ──ああん? 居ねえとかあんのか」
「アイシャちゃん。こんなこと……ひゃん!」
(やばい便利すぎるわ、これ)
あの星空を見ての誓いはあっという間に霞と消えたアイシャ。訪れる人たちに対して寝たふりや反撃や対話などする必要もない。
ギルド職員のベイルが持ってくる用事なんてのは面倒なの確定である。しかもフェルパが遊びに来ていて添い寝していたのだから尚更面倒の予感しかない。まともに相手するならまずは服を着るところからなのだから。
しかも声も聞こえないし届かない。姿も見えないし見せない。動きも音も匂いも。
(匂いなんてない匂いなんてない匂いなんてない──)
そして“寝ずの番”との相性の良さがさらに便利さを増幅させている。“寝ずの番”もある範囲内の検知であり、プラネタリウムの範囲設定に依存したり阻まれたりしないのだ。だから見えなくとも解除のタイミングは間違わない。
「行ったみたいね」
だがそれはアイシャに対しての純粋な好意には反応しないのも事実。
「なにそれ。それも魔術?」
「お、おはようマイムちゃん」
「あ、おはよー」
「ふぅん──」
(絶対にあいつらには見せない! この布団の中からは髪の毛一本もはみ出さない!)
「なんで布団を4枚も重ねるの」
「なんでー?」
「誰かに見られると、ね?」
「あたしはむしろ見せつけたい。主にサヤちゃんに」
「それは絶対ダメなのよ」
「いいじゃない。ほら、こんな感じで、さ」
「くうぅ〜っ」
「そういえばアイシャちゃんは聞いた? この国の事情」
「え? なんの話?」
アイシャたちはスッキリして布団から出てきて、今はちゃーんと服を着ている。
「人間族のこの国の周辺が少し慌ただしくなっているそう。もしかしたら戦争なんて事もって話」
「なにそれ。でも私たちには関係ないのよね?」
「あたしはそうはいかない。戦闘職は戦士も魔術士もみんな可能性ある」
「じゃあ私は関係ないね」
「わたしもー!」
「アイシャちゃんはあたしが推しておく。屋台要員で」
「だめ! それは絶対にダメなんだよ! 私は、私はもうそんな面倒はしたくないのーっ!」
「じゃあ、二回戦」
「はうっ!」
片付けた布団もせっかく着た服もまた元通りの午後だった。