あすはひとつあれば事足りる
「う、ぐうっ! なぜ俺は──」
「局長、私たちはいったいどうしたのでしょう?」
「おい、マケリ! 嬢ちゃんが!」
巨大銀狐の言う通りにプラネタリウムを解除したアイシャの布団の上には10頭は居ると見られる銀狐たちが布団をカリカリしている。
「まさかの大漁! 仕留めなくっちゃっ!」
「まてっ、アイシャの無事の確認が先だ」
「そのために助けますっ」
マケリは宣言するや否や駆け出して短剣を突き出す。
そこにいきなり立ち上がるアイシャ。
「うがあーっ! せっかく気持ちよく寝てるのに! あっちいけー!」
驚いた銀狐たちは蜘蛛の子を散らすようにその場を離れて、マケリの短剣はアイシャのお尻に刺さった。
「ひどいよ、マケリさん」
「いや、ひどいのはアイシャちゃんだよぉ。せっかくの一攫千金がぁ」
アイシャはお尻をしきりに気にしているが、どうやら穴は増えていないらしく安堵のため息をついた。
「まあ、でも銀狐の存在は確認出来たしもういいんだよね?」
「ん? ああ、そうだな──」
「局長はなんか浮かない顔してますね。嬢ちゃんの言う通りじゃあないんですかい?」
「いや、そうなんだが、何か。何かを忘れているような気がしてならんのだ」
あの巨大銀狐は『外の連中は我を見た記憶など残っておらん。好きにごまかすがよい』とだけ言ってアイシャに押し付けたのだ。
(その上で──きっと銀狐たちを死なせるなって事だったんだよね? どう見ても家族か眷属だもの)
マケリが突っ込んできてたのも、短剣が銀狐を狙っていたのもわかっていてお尻に穴が開くリスクを買ってでたアイシャ。
「もう歳かも知れんな俺も」
「そんな事ないよ。禿げるまでは現役でいけるよ」
「お前と関わると妙な体験ばかりだ。問題は解決したのだから俺はさっさと帰るぞ」
4人は静かに馬車に揺られて街へと帰って行った。