新しい1年のアイシャ
結局うやむやになった森の澱みの件はその澱み自体が消えて森が正常だと判断されたのち、立ち入り禁止が解除され北門も無事に解放されることとなった。
それからはサヤとフレッチャ、時にフェルパやマイムにカチュワも加わったりしてレェーヴの森で狩りをして過ごした。
そうした子どもたちだけでの街の外の魔物狩りには必ずギルドへの申請と正規のギルド員の付き添いが必須で、特にアイシャたちにはベイルかマケリ、エルマーナのいずれかが必ず付いた。
(ベイルに気をつけて見とけって言われたけどアイシャちゃんが戦う事は無いね。その素振りもないどころか、到着早々でお昼寝を始めてる)
新しく作られたベッドは何故か天蓋までついていてそこだけ明らかに違う世界である。そのアイシャを守るような立ち位置で訓練する子どもらは出てくる魔物の狐に対してアイシャに届く前に確実に仕留めている。
ベイルやエルマーナがついた時も同様だ。たまに起きて動いたと思えば石ころや草なんかを摘んでいる。その際にはつまずいて転ぶこともあったほどだ。
(やっぱり嬢ちゃんの言う通りたまたまなのかもな)
そうしてアイシャの思惑通りにギルドに対してアイシャの疑いを晴らす事が冬から春先にかけての行動で達成されたのだ。
少しキツくなってきたりどうにも補修出来ない服などは新しく揃えられて、気持ちの変化ではあるが薄茶色の髪はもみあげのところを長くしたスタイルは変わらないが、全体に長くなって後ろでひとつに束ねて垂らしている。
肩甲骨のあいだほどまで届くくらいには伸ばしてあり、髪型のアレンジなども気が向けばやってみようと思うようになったアイシャ14歳の年。
あと2年を過ごせば卒業というアイシャたち。やる事などはそれぞれの適性部門で変わらないが、アイシャに関しては少し事情が変わっている。
お昼寝士としてあるまじき行為かも知れない。アイシャはお昼寝館をたびたび離れるようになった。
サヤたちが剣を振っているところを見学してみたり、マイムが魔術の試し打ちをしているところを横切ったり、フェルパのところには小さなぬいぐるみをいくつか置いて来たりと、他の所へと顔を出してみる事が増えてきた。
「アイシャちゃん」
「あ、カチュワちゃん。そっかここはカチュワちゃんの──」
「そうなのです。戦盾術の訓練所なのです」
それは戦闘職でありながら、聖堂武道館ではなく共通座学を受けるメインの棟。食堂や職員室などもある棟の奥まった部屋。
「カチュワちゃんはいま1人なの?」
「カチュワはたまに対人訓練をお願いに聖堂武道館に行く以外はここで1人なのですよ」
「他にその盾の人とかは?」
「うん? いないのですよ。みんな剣の方なのです。適性を無視してでも剣の方がかっこいいからなのです」
明かりを取る窓も小さく、息の詰まりそうな暗い部屋。出入り口以外に何もなくここで何を学ぶのだろうか。
「ひたすら基礎の動きなのです。たまに試してまた考えたら出直すのですよ」
こうして、こうっと演じてみせるカチュワ。アイシャと同い年だから8歳から13歳までの年をここでひとり。たまには仲間もいたかも知れない。けれど今はもうひとり。
「カチュワちゃん、お外いこ」
「外? なのです?」
アイシャは、勝手な思い込みだとは思ったが、それよりもこのカチュワを連れ出したいとそう思った。