不審な現場とむさい男たち
「おお、きたかベイル」
「局長。ここは国家治安維持局が仕切ってるんですよね? なんで私が」
「この辺りを特に見回っている、知っている者をとギルド長に頼めばベイルの名が出たのだ。あとマケリ、だったか? まあ、女性よりは男性の方が話しやすいからな。それで呼んだわけだ」
アイシャたちが北門から出られなくて東門近くの洞窟で暴れた少し後のこと。北門封鎖の原因である澱みの調査で気になるものを見つけたからとバラダーに呼ばれてベイルはレェーヴの森に来ていた。
「気をつけろ。呑まれてはかなわん」
「分かりました。しかしこいつは──濃いですねぇ」
ベイルも改めて見て思う。森のある一点で黒い渦が発生している。ただの溜まり場であれば池のようになっているだけだが、その池が波打ち渦を巻き出したらばもう“産まれる”のは間違いない。
「呑まれれば取り込まれる。そう観測される現象ではないが時間の問題だろう。出来れば羽虫などでも取り込んでくれれば良いのだが」
「さすがにそれでは魔物の発生にはならんでしょうね。そんな小さな命で受け止められるレベルはとっくに超えてます」
「ふっ。そうでないと我々に委ねたりもしなかったろうな」
2人はしばらく澱みを観察していたが、今のところは目立った変化もない。
「それで、局長。私を呼んだ理由──気になるものがあるとか」
「そうだ。この渦の周囲の木々を見てくれ。それほどに高い位置でもない。せいぜい俺たちの顎くらいの高さだが幹に傷がついているのがわかるか?」
渦を取り巻くように立つ木々には確かに傷がある。抉れたような削ったようなそんな傷が。
「これは、なんでしょうね?」
「ものによっては血の跡もこびりついている。古いものや新しいものまで。こんな事をする習性のある動物や魔物でもいるのか?」
「さあ……このあたりは狐くらいのもんで、熊がいたってこんな風にはならんでしょう。鹿とも違う。まるで何かを叩き続けたような、そんな印象を受けますね」
バラダーは顎の高さとも言ったが、実際にはそこが最高点で足元近くにまであちこちにある。
「あれなどはどうにかすれば倒れそうなほどに抉られている。一体なんなのか」
「あっ。いやそれは──ふふっ」
「どうした、ベイル。何か思い至ったのか?」
突然何かを思いついた顔をしてあり得ないと笑うベイル。
「いえ、この形。まるで上段蹴りでも入れたみたいだなんて思って。それでこんなに脚をあげて当たるのがここだなんてずいぶん小さい奴だなって思ったんですよ」
「ほう、それで?」
「それで最近こんな小さい奴に出会ったなって思ったら、あのお昼寝の嬢ちゃんだってなって、それで」
「ああ、確かに。なんだったか、あの男を投げたのはアイシャだったな」
「まあ、あれはちゃんと説明つきましたが、これがあの嬢ちゃんのかもって考えたんですけど、さすがに馬鹿馬鹿しい話で」
「少なくともそうだとすると血が出るほどに蹴り続けたことになるな。あり得ない。そんなことするくらいなら寝るだろ、あいつは」
くっく、はっはっはと2人して有り得ないと笑うのだが、ここでアイシャが蹴りを放ち続けて、寄ってくる銀狐の魔物を狩りまくった事など知る由もなかった。
タイトル。この物語の中で男しか出てこない回はなかったかなと。そしてむさいな、と。
汗臭いのよりは女の子を出していたい。そんな気持ちのタイトルでした。
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