カチュワはタンクなのですよ
「やったのか⁉︎」
「いや、油断は禁物だよ。ロリコンはしぶといからね」
「クレール先輩の方じゃないよ、アイシャちゃん」
フレッチャとアイシャでは狙った相手が違ったのだ。感想に食い違いがでても仕方ない。
「みんなすごいのです。カチュワたちは全然敵わなくて逃げるしかなかったのにです」
「あれ! カチュワちゃんは仲間ときてたの?」
「もちろんなのですよ。さすがに1人でなんて出来ないから4人できたのですよ。みんな逃げちゃったんですけどね」
「その割にあんまり悲壮な感じはないんだね」
アイシャはいわゆるいじめかと思ったが違うようだ。
「カチュワはね、ほら。この大楯でみんなを守るのが仕事なのですよ。だからいざという時はカチュワがこれで守るのです」
背中に背負った木の盾はあちこちが欠けていていつ壊れてもおかしくない有り様だ。
「鉄の盾なんかはずいぶん前にダメにしちゃって。それからはこれなのですよ」
「フェルパちゃんくらいのサイズしかないのに大楯?」
「適性がそれなのですよ」
この世界には少ない黒色の髪は艶やかで、アップに纏めた髪型は解けば肩より下くらいはあるだろう。大きなメガネは視力が悪いのだろうか。
皮の軽鎧を着ているのはここ最近のサヤにフレッチャとも同じだ。ただ決定的に違うのは。
「武器は?」
「カチュワは守りが得意なのです。みんなの守りに集中するためにいつもこの盾だけなのですよ」
その気になればこれで殴りますとブンブン振り回して見せるがアイシャから見てそれに威力があるとは思えない。魔物をぶん殴れば逆に砕けそうな木の盾。
「盾士とはいえ、武器を持たないのはずいぶんと特殊だと思うがな」
「出たなロリコン」
アイシャはロリコンからなま肉を2つ回収して、手についた肉汁をクレールの服で拭いた。
「まあ盾のことはともかく、岩大トカゲを倒せたのはお手柄だな。是非ともその素材はギルドに──」
「あ、だめでしたか?」
ちょうどサヤとフレッチャが2人で相談してギルドカードに捧げてポイントに変換していたところだった。
「……いや、2人で仕留めたんだ。文句もない」
「ところでロリコン。走っていった先に何かなかった?」
「アイシャ、照れ隠しもいいがロリコンは名前じゃない」
「それはどうでもいいから何か無かった?」
「ふぅ。何もなかった。というよりは夢中で走ったからな。まさか一周してくるとは思わなかったが」
ふぅーん、それならいっかとだけ述べてアイシャたちはそれぞれに怪我などないかと確認していく。
「じゃあカチュワちゃんを連れて戻ろう」
「それは助かるのです。よろしくお願いしますです」
「ロリコンよろしくなのDeath」
アイシャたちはそれから何事もなく出口へと辿り着き、その途中に見つけた横穴はクレールによってギルドへと報告された。