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不可解犯罪勃発事件簿。  作者: 武者小路霧雨。
5/6

真相に近づく。2


はじめに。


※この物語はフィクションです。

実際の人物、団体などには

関係ありません。


※この物語には若干の性描写、

グロテスク表現、暴力表現が含まれております。

苦手な方はご注意下さい。


※(おことわり)

この物語は、私自身が、自分のYouTubeアカウントにて一部アニメ化しております。


※挿絵の挿入の仕方、わからないので

連携したTwitterに上がってます!!笑笑


-----


源介turn


『…兄ちゃん?

また女の子泣かしてきたの?

…聞いたぜ。兄ちゃん宛の手紙、貰った側から捨てたって。』



とある秋の日。



『別にお前には関係ねえだろ。帰り道重かったから捨てただけ。好みの女以外から貰っても嬉しくねえし』



学校からの、帰り道。



『はあ………兄ちゃんってやつは…受け取っといて人の心を弄ぶなよ。ほんと、最悪の塊だよな。…だから不幸になるんだぜ』



弟、日暮里陽介と、



『別にお前に害を与えてる訳じゃねえんだからいいだろ。不幸なのは今に始まったことじゃねえしな。

それより、早くカラオケ行こうぜー。テストのストレス発散してえ』



俺源介は歩いていた。




『……行かない』

『なんだよ、』



俺の住んでる地域は、



『行かないよ、俺は。』



交通の便が悪いところで、



『なんだよ!お前…!』



隣町のカラオケに行くには、電車を何度か乗り継がなければいけなかった。



『じゃあ一人でもいってやる!』


『え!?』





さらに、





『だめだよ、

この辺、一人で歩いちゃダメだって!』




決して一人で歩いちゃいけない。

若ければ若いほど、無差別に人が、襲われる。


そういう妙で、変な噂が



『知らねえよ!』


あちらこちらに立っていた。



せっかくテストの憂さ晴らししたかったのに、お前のせいでもっと萎えたわ!

俺はもう行くよ!

お前は先に帰ってろ!』



その時の俺は、



『兄ちゃんってば!』



気が立っていた状態で、




『兄ちゃんってばー!!!』



そんな噂すら、どうでもいい。

そう感じていた。



『………』



数時間後。


弟を放置して2時間のカラオケを謳歌した俺は、近道を通るスリルも残っておらず、正規の道のりで帰ることに決めた。

こんな時間だ。

弟は、もう帰っているだろう。




ーーー今思えば。



この日から、俺は

全ての感情を失ったのかもしれない。



『ーーー昨日午後8時ごろ、x県y市の繁華街で、男子高校生が死亡しているのが確認されました。

死因は失血死で、何かしらの事件に巻き込まれたのではないかということで、警察は捜査を進めていますーーー』


ーーー


日暮里陽介。



彼は、死んだ。





-----

不可解犯罪勃発事件。5

-----

◎人物紹介〜


・日暮里源介(26):青井警察官。学生時代は、取り巻くものが影響して、人の心が慮れない少年だった。


・仁比山紅葉(26):東京テレpo」のアナウンサー。源介と三島とは、学生時代の顔見知り。


・絮源おりゃんせ(24):東京テレpoアナウンサー。

仁比山のことを目標としているしがない新人アナウンサー。前回の章で重大事件に巻き込まれかけた。最近のモットーは『こつこつ努力することは大事です。』


・三島亮平(26):警察官。源介とは親友同士。絮源同様、前回の章で重大事件に巻き込まれかけた。


・矢井田馬 セトリ(25):(やいだば せとり)

青井警察官巡査。日暮里源介の一期下の後輩。


・長谷川小太郎(24):東京テレpoの新入総務職。冴えない感じだが毒舌。仁比山のことが好きで、常に録音機を持ち歩いており、その都度仁比山の行動を記録してたり…。(←まだバレてないよっっっ!!!)


・藤崎久助

藤崎周平の父親。「ザ・鉄板親父!!」な感じの熱血男。情熱さえあれば世間はどうにでもなると本気で信じているらしく、彼の無駄な元気と声の張り具合はとどまるところを知らない。


・藤崎おかき

藤崎周平の母親。出身は京都。たおやかな性格で皆に慕われそうな女性だが、かなりの毒舌を笑顔で吐いたりするので苦手な人は苦手。


・藤崎 (えん)

・藤崎 (かい)

藤崎周平の双子の妹。心理学に長けている。苑の方は底抜けに明るい性格の持ち主。快の方は沈着冷静。大きい瞳にサラサラの紫ショートヘアがトレードマークで見分けがつかないが話せばどっちだかわかる。


・安藤雄一郎(45):現内閣総理大臣、兼、Steam labo研究所長。


日暮里(にっぽり) 陽介(ようすけ)

故人。源介の弟。

生きていた頃は兄・源介の世話係として、常に源介を支えてきた。


-----

源介×藤崎turn


源介「………はっ」

藤崎「おっ…目が覚めたな」

源介「…藤、崎……っ?…いて!」

藤崎「おい、まだ動くんじゃねえ。




ーーー身体中に、痛みが走った。

あのあと、どうなったかーーー確か。


弥夜の急激な覚醒によって、その反動で、


『研究所が停止した』。


…というのは、研究所の壁に張り巡らされていた無数の"管"は、いずれ世界滅亡の兵器とされていた『造人弥夜』に、養分を運ぶものだった。

しかもその養分は、この研究に対して見限った人物………安藤を裏切った人物達はもちろん、

今まで造人実験のサンプルとして誘拐してきた人間たちの臓物だの骨だのに毒、劇薬、爆撃物を練り込んだものだったとか。


弥夜が眠っていた状態だと、精神状態が一定で、その毒薬はただ弥夜の体を巡るだけだった。

しかし、急に覚醒した=弥夜の突然の稼働…


そのせいで、毒劇薬は逆流反応を起こし、管が損傷し、研究所自体が爆発した、という、これまでの詳しい流れである。



しかも、なんとも不思議なことに、弥夜の周囲の人間たちは、まるで何かに守られたかのように重傷者がいなかった。

台風の目方式で、弥夜の周りは無傷だったらしい。というかその管の構造上、天井上に行くほどに細かく張り巡らされていたものだから、地下にいた人物達は安全だったとか。


藤崎からその説明を受けた時心底ホッとした。…危なかったじゃねえか。


そして地上の他の造人は、親機である弥夜の大幅な心拍作用や体内変化により、一気に、『停止状態』となった。どうやら、弥夜の体に一時的に人間特有の作用が働いたということで、ひとまず収束したらしいが。そのおかげで、爆発を免れることができた。…らしい。



ーーしかし………




源介「…いやこれは一体どういう状況なん?」

藤崎「よう?起きたか」


思わず口に出してしまった。

近くにいたのであろう、藤崎がひょいと顔を覗かせる。


源介「ここは……」

藤崎「あー、俺の実家だよ」

源介「いや、え、実家…?」

藤崎「ん?」

源介「実家、『神社』だったのか!?」




そう。

なんで俺が第一発戸惑っている理由はというとーー

俺が今寝かされている部屋は、20畳はあるだろうだだっ広い和室。

壁には掛け軸が下がっており、棚には花がいけられてある。

東側の障子は空いており、岩で囲まれた池に黒い鯉が泳ぐ。それをかたどる松が植えられ、『静かな庭園』が見える。岩や向かいは竹で仕切られてありーーなんとも風情のある一角だ。

なんこれ時代劇ですか。まさかドッキリで自分出演的な。


そんなやたら綺麗な現実離れした部屋に寝かされ、「あーよく寝たな」なんて悠長に起きれるわけがない。第一自分の家でもないのに。


…。

…そう。


ここは「藤崎」の実家、らしい。



藤崎「いやほんと申し訳ないな勝手に連れてきちまって」

源介「…ていうか、一見場末の男みたいなイメージだったから家が神社って………」

藤崎「驚いた??」

源介「いや人って本当に見かけで判断できねえな…

うん。

今回の件で色々と思った。

これからは軽々と見かけで判断しないで生活していこうと思う」

藤崎「なんか自己解決してるけどまともに生きてってくれよ」

源介「…そういや、あれから色々、どうなったんだ?」

藤崎「ああ…そうか。

まだ説明してなかったんだっけ。お前今まで寝てたんだもんな。無理もないよ」


藤崎は座り直した。足が畳をする音が、やけに懐かしく思う。


藤崎「あれから…

研究所は爆発、お前ら全員気絶、一時騒然となり俺らは救助され、唯一気絶せずに覚醒していた俺が責任を持って全員自宅に連れてきた」


源介「…」


まじかよ。


藤崎「…そんなこんなしてるうち爆破を聞きつけた警察もきててな。大変だったんだよ。俺しかも失踪事件の該当者だったしなー。隣町の警察とかも来ちまったもんだから、イコール俺をかくまってたのをしらなかった警察だったろ?バレそうでヒヤヒヤしてたんだよ」

源介「…」

藤崎「あと、これ見たら全てわかるよ」


藤崎はスマホを見せてきた。……


どうやらそこには。



『………1週間前、謎の造人爆発が起きました。

爆発に巻き込まれたおよそ数289名が死亡、104名が重症、68人が軽傷との報告があがっております。


また、その数分後に東京都三鷹市にあるSteam labo、第一研究所も謎の爆発が起こり、造人爆発との関連があるか調査中です。

場所は、Steam labo 第一研究所。

原因はなおも調査中です。』



藤崎はスマホを見せてきた。

どうやら、俺らの救助された時のニュースらしい。


藤崎「世間はあの造人の大爆発事件で、救助活動真っ只中さ。ま、主に死亡したのは財閥系や企業の人間たちだ。前にもちらっと話したけど、造人なんて高価なもの、財閥か大企業しか雇えないからな。


のちに警察もあとあとあの施設の中に入って捜査するだろう。俺らの指紋が見つかるのもまずい。しばらくは俺の実家(ここ)で身を隠すしかなさそうだ」


源介「と、いうことは………」


藤崎「地上の造人はほぼ皆、停止状態だ………不能ではないから、まあまたしばらくしたら動き出すだろうな。そうとみて間違いない」


源介「………太一は?

太一はどうなったんだよ」


藤崎「…太一も実は、あれから機能停止状態だ。

ずっと目を閉じて動かない。…

太一も俺が、実家(ここ)連れてきたが…………一向に起きる気配がない。」


源介「…そうか。ともかく、生きていてくれてよかった。

太一にはまだ、礼すらも言えてないからな」


藤崎「安心していいよ。彼の起こし方も俺が研究するから」


爆風…………

あそこにいたら、無防備では済まないだろうな。


源介「………あ。」


藤崎「ん?」


逢沢円………

逢沢先輩の妻。

あの時、絮源を恐怖訓練部屋に送った、あの女。

あの女は、どうなったのだろう。


源介「逢沢円は…」


藤崎「死んだ」


源介「…っ」



やはりそうか。



藤崎「あのまま死んだよ。爆風に体がバラバラにされてな。ま、でもあいつはそれくらいの罪を被ってもいいくらいの女だし、もとより最初から死ぬつもりだったからな」


逢沢円は、

Steam laboの手下だった。


具体的に説明するとしたら、Steam laboのために研究材料となる、人員を連れてきていたらしい。その方法は絮源おりゃんせを誘拐したあの方法だったり、騙したり色気を使ったりと心理学を駆使したりと、…まあありとあらゆる方法だったらしい。

謎の行方不明事件は、この円のせいだったと言っても過言ではないし、きっとまだ、円の他にも安藤総理とSteam laboを崇拝する輩が密かに動いているんだろう。考えるとゾッとした。一体どういう神経してんだ。



源介「………てか、よく解放されたな。」


藤崎「え?」



源介「事情聴取とかされなかったのか?来たんだろ、警察」


藤崎「………

実はな………そこもちょっと変で」


源介「変?」


藤崎「…何も聞かずに帰されたんだよ」


源介「は!?」



帰された!?




源介「待てよ、この事件、この世を揺るがす大事件だろ。

そんな簡単に帰されるって、何がどうなってんだよ…!?」


藤崎「俺にもそこは理解できない。とにかく、なにも忠告されずに警察からは解放された。立ち去ってったんだ。傷ついた俺らを残してーーー


だが。


矢井田馬(やいだば)セトリって知ってるか」



源介「…セトリ?」



矢井田馬セトリ。

確か俺の一期下だ。


藤崎「事情聴取がなかった代わりに、彼が着いてきたんだ。監視役とかなんとかって…

………今も、俺の実家に厄介してる」



源介「…監視役?

なんだその監視役って。」



??「ちょっっとまったぁあぁあーーーー!!!!!」


源介「…ゑっ?」


藤崎「………」




誰このおっさん。


-----

??「ひとまず、はいってけはいってけ」


源介「いや、一体どう言う状況なんですかこれ…ってか、腕急に引っ張らないでください!」


藤崎「すまんな…俺の親父が」


源介「親父!?」


驚いた。

随分性格違うもんだな。

ってかむりやり連れてこられたけどここってもしかして宴会場か。いやどんだけ広いんだよ藤崎の家。

てか普通に仁比山とか長谷川とか混じってちゃっかり座ってっし。三島と絮源は…あ、もう復帰して先に帰ったのか。



藤崎「えー………突然だが、俺の家族を紹介する…

まず、俺の父母」



藤崎祖父「久助だ」

藤崎祖母「おかきです」


藤崎「で…」


妹1「(えん)だよー!」

妹2「(かい)でーす」


藤崎「…妹たちだ。


……………………何か質問は?」



………質問て。


源介「いやまず何この状態。救世主ってなんだ救世主って。

いやいったい、どうなってんだよこれは」


藤崎「………」


藤崎父「…

まあ、なにから説明するかな…

とりあえず!



…よお、『適合者』さん!どうやら戸惑っているようだな!無理もねえ、お前丸3日は眠り続けてたんだもんな!」



源介「………」


なんだこの主人公が目覚めた時の近所の酒場の主人みたいなセリフ。


藤崎父「いやーでも無事で何よりだったぜえ!!なにしろ適合者さんだからよ!!死んでもらっちゃあ困るん……」



藤崎「待った!!!!!」


源介「え」




ーーーどかん!!!!!


-----

仁比山turn



あの後。

あたしはどうやら三日三晩、気絶して眠っていたらしい。

目が覚めたら、いつのまにか藤崎の家に連れてこられてて、起きた途端オードブルだの何だのありとあらゆる食物が乗ってる机の前に座らされていた。

三島と絮源は、「仕事休めないから」とさっさと復帰。…ちょっと。あたしも仕事戻らないといけないんだけど何この状況。

帰りたいと伝えても、『まあまあゆっくりしてってよ』と、さっきから藤崎家族から引き止められ続けているのだ。


頑としてあたしを帰さない。あたしが復帰したら何かよからぬことでもあるのだろうか?


まあ、目の前の豪勢な食べ物たちを見てしまったからには、これを平らげるまで帰るつもりはない(←え?)


………今現在の「ある事」が起こるまでは、そのつもりでいたのだ。




ーーーどかん!!!


all「…えっ?」


ーーある事。


藤崎が、源介をタライで殴った。

この事項はあたしを思考停止させるには十分な事案だった。え。なんで殴ったわけ。は?ちょっと、理解できないんだけど。



仁比山「…ちょっと!!!」


藤崎「え」


仁比山「なんで源介殴ったわけ」


藤崎「………」



藤崎父「いやタライどこにあったんだよ…ていうか、なんで殴ったんだ??俺なんか変なこと言ったか???」




藤崎「………」



藤崎「いやちょっと、今の話はまだ源介に聞かせられないところなんだ………


all「えっ?」



藤崎「みんな、」




藤崎が皆を見回す。

やけに真剣な表情だ。





藤崎「聞いてくれ。今から大切な話をする。」




藤崎「今から、源介と弥夜の結納をする」


✳︎



仁比山「…はああ!?!?」

長谷川「えっ!?」



仁比山「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、何で急にそんな話になるわけよ!!!」



藤崎「この間の事件で分かったことだが…

安藤総理の思惑が、少しずつ推定できてきたんだ」


仁比山「…思惑?」


藤崎「どうやら安藤は、造人を使って、この世を乗っ取るつもりらしい」


仁比山「は、はあ…?」


藤崎「乗っ取って、人類を…滅亡に追い込もうとしているんだ」


長谷川「なんでそんなこと…ていうか、それと弥夜と源介の結納と、何の関係があるんだよ」


藤崎「…まず、この話をしよう。

この世で動いている造人たちは、誰の命令下で動いていると思う?」


仁比山「それ、は」



答えられない。



藤崎「そう。誰もそこはわからないよな。

この世の中の造人は、何も自分の主人の命令だけで動いているというわけではない。

つまり…

元となる"親機"が稼働していることによって、電波を通じて動いているんだ」



長谷川「えっ…ちょっと待って!?」


藤崎「ん?」


長谷川「じゃあこの世の造人たちは、その親機以外…ほぼみんな子機だっていうのか!?」



藤崎「そうだ。

だから………動いている造人たちを停めなければならない」



仁比山「じゃ、じゃあその親機の稼働を停めればいいだけの話じゃないの?

きっとあたしらがいたあの研究所…Steam laboの第一研究所の中に…」


藤崎「弥夜」


仁比山「えっ」


藤崎「親機は………久遠寺弥夜だ」



仁比山「…は?」

長谷川「…」



藤崎「知っての通り、久遠寺弥夜。

Steam labo第一研究所の、最深部にいた、あの彼女だ。

彼女は安藤の隠し子でもあり、安藤の研究材料とされ、造人化した。


親機の稼働を停めればいいと言う話だが…半分人間である以上、停めることはできない」



仁比山「停めると…?」



藤崎「弥夜はそのまま爆死する」


仁比山「…!」



長谷川「じゃあ、どうしたら…」



藤崎「言ったろ?半分人間だって。

ただ単に造人としての機能を果たさなくなれば,親機としての機能も失う、つまり…

人間に戻せばいいだけの話さ」


長谷川「じゃ、じゃあ!

簡単じゃないか…」


藤崎「難しい」



長谷川「えっ」



藤崎「弥夜を人間に戻すにはーーー『感情』ってのを、復元させなければならない。

その方法は…その…なんだ」



仁比山「なによ?」




藤崎「恋させることなんだ」




✳︎


藤崎「今回の安藤の計画を止めるには、子機である造人達の暴走を止めなければならない。

子機を止めるには、親機である『久遠寺弥夜』。


彼女の造人としての機能を完全に停止、摘出させなければならない。


そのために必要なことが、

弥夜を人間に戻すこと。

人間に戻すにはーーー


『恋をしてもらう』ことなんだ」



仁比山「…………………


………はあ???」



ちょっと待って。

なんで恋させることが弥夜を人間に戻すことなのよ。



藤崎「ロボットになくて、生物にあるものーーーそれは、『生体本能』。

つまり生きようとするために必要な感情なんだ。

それを呼び起こすためには…その行動が必要なんだ。…馬鹿みたいな話だが」


仁比山「…」


藤崎「当たり前だが、恋なんか一人でできるわけはない。そのためには、…それ相応の、『適合者』が必要だ。

それがーーーー

弥夜の最適合者が、日暮里源介と判明した」




仁比山「………は?」



藤崎「『最適合者』。…つまりもっとも相性の良いもの同士。

これは専門的な話も混じってくるんだが…


人間は恋をするとき、『自分と何もかも正反対の異性』を好きになるって聞いたことあるか?


人間も動物的な判断力を自然と身につけていてな、無意識的にに自分にぴったりな婚約者ってのを選んでるんだよ。

人間ってのも動物だ。次の世代に向けて、子孫を残さなけりゃならん。なるべく強い遺伝子を、な。

強い遺伝子ってのは、自分の情報とまるきり遠い遺伝子ということだ。自分と同じじゃいかん。近親相姦と体が思う。

近親相姦で生まれた子は、虚弱体質だったり、体に異常が出てしまったりする。


だから、そうならないために、自分と似たような細胞を持った異性同士は、本当的に嫌い合う。


ま、例外もあるかも知れんが、生物学では証明されているんだよ。


最近は世の中があまりにも便利になってきやがって、その感覚すら鈍ってきてるが…そういうからくりがあるんだ」


仁比山「…」


藤崎「そして二つ目の話。

弥夜は、前にも話した通り、全ての造人の「親機」なんだ。


造人の弥夜を機能不全にしてしまえば、勿論親元が死ぬんだからな、親機としての機能もしなくなる。

親機が停止すれば,子機も完全に停止。つまり造人は不動、不能。……そうすりゃ、この世は安泰。死亡事故は治まり、安藤の計画もうまく回らなくなる。


しかし、彼女は『元人間』でもある。


造人としての機能を停止、摘出するには、弥夜が造人として機能しているままで摘出するのはまずい。完全防犯ブザーが作動して、爆破充填が稼働する。つまり、触れたやつは爆死するし、人間としてまた人生を生きれるかもしれない弥夜だって、死ぬんだ。


この事件の解決のために、弥夜にはちゃんと恋をしてもらわないといけないのだ。

ちゃんと恋心を持ってもらうためには、相性が最も、かけ離れている人間が必要だ。


ここまで来て、きっとわかると思うがーーー


日暮里源介と久遠寺弥夜。

彼らの相性は、完璧にかけ離れていた。」


仁比山「!?」


藤崎「俺はずっと探していたよ。安藤が変な行動を始めてから、ずっと。

常に最悪の状況を想定し、弥夜を人間に戻す方法となる、最適合者を。

そのためにずっと研究してきた。どうやって分かったかって…?それは、弥夜が教えてくれたさ。


弥夜と一緒に暮らしている時に、細胞を抜き出し、生物実験をさせたんだ。

ありとあらゆる男性の細胞の型を使用し、どれが一番かけ離れているか…極秘の実験をしていた」


長谷川「お前…変態かよ」


藤崎「何とでも言え。仮にも"娘"を救うためだ」


藤崎は鼻を鳴らした。


藤崎「だから、今回、

あの事件現場に、源介を連れていったんだ。偶然に見せかけてな。まあこの話はここで終わろう。


しかし…悩んでいるのは」


藤崎が頭をかく。


藤崎「日暮里源介。…彼だってひとりの人間だ。勿論、『権利』がある。

このまま、『適合者』だからって、世間の計画に振り回されるならーーー

源介が、自分の人生を生きる選択肢だってあるんだ。


源介が『弥夜を断ったって』、彼は罪には問われない。

いや、『問われさせない』。」


セトリ「…」


仁比山「ちなみに…その計画を断ると…?」


藤崎「俺が弥夜を殺す」


仁比山「!!!」


藤崎「何度も言うがこの世の造人は親機とすべて連動している。手っ取り早く停止するとしたら、親機となる弥夜を殺す。それ以外に方法はない。

源介がこの計画に乗らない限り、俺が、責任を持ってーーー

弥夜と死ぬ」



仁比山「………」



風が吹いた。

どうやら、冷えてきたらしい。



仁比山「………つまり、そこをどう源介に説明するのかどうか迷ってる、ってわけね」


✳︎


仁比山「…お言葉だけど」


藤崎「…」


仁比山「あんたはこの事件の関係者。というか被害者。

それに、この事件………絶対あたしの兄さんが死んだ事件と関連がある。

まだ未知数だけど、絶対、関連があると思う。

まああたしの家族の話なんか知らねえよってなってると思うけど…

だからあたしは、あなたに協力するつもりでいたの。

…あんたも被害者。それには変わりない。けれどーーー


…行動し始めの自分が、処理すべきだと思うんだけど?」


セトリ「!!」


藤崎「仁比山………」



ざああ。

ーー風が揺れる。



仁比山「…もとはといえば、あんたが研究結果をやすやすと盗まれるところに置いていたから…ううん、安藤と友達だったから……………いや。違うわ。


…あんたが『造人』なんかこの世に生み出さなければ、起こりうる話じゃ無かったわけよ!」



藤崎「…っ!」


セトリ「仁比山さんーーー

もし、そちら側を選ぶとすると、元人間だった弥夜様が、造人のまま死ぬことになるんですよ!?

それに先ほどにも言った通り、藤崎さんだって死ぬことになります!爆破処理をするのですから。…

そうなると権利はどうなりますか?

源介先輩が我慢すれば、弥夜様だって、国民だって死ぬことはないんです!!」


仁比山「………だって!!」


セトリ「仁比山さん!!!!!」


藤崎「…セトリ、やめろ…」



セトリ「…やめませんよ。

…仁比山さん。

藤崎さんには、後には引けない理由が、もう一つあるんです。

これは………

単に、この界隈で、収束できる問題じゃない」



仁比山「?」


藤崎「…っ、これだけは、俺らの中で収めようとしていた事実なんだが………



お前、狙われてるぞ」


仁比山「えっ」



-----

一方その頃。

絮源turn


東京テレpo内


『(番組内容)以上、絮源おりゃんせがお送りしましたーっ☆」


………


絮源「ふう」


ディレクター「お疲れ様!

絮源ちゃん、最近いい感じの雰囲気でてなあいー?」


絮源「…そうですか…?」


ディレクター「すごく様になってると思うよ!原稿も噛まないし笑顔もいいし、だいぶ慣れてきたねえ」


絮源「あっ…ありがとうございます」


あれから。


無事、Steam laboの研究室から脱出したあたしたちは、どうやら地上に引き上げられ、手当されたらしい。

うーん、そこらへんの記憶がどうも曖昧なんだけど、とりあえずよかった。

で、回復速度が早かったあたしと三島は真っ先に仕事復帰させられ、あたしらが起きた時はまだ昏睡状態だった源介と長谷川と仁比山センパイは、藤崎とかいう研究員の実家にかくまったままである。てかあたしその藤崎を記事にしたくていたはずだったのに。なんでこんな事件に巻き込まれてんのよおお。



(………それにしても)




三島「恋をしてくれ」



絮源「ああは言ったものの全然連絡すらもこないって一体どういう神経してんですかァ???」


ディレクター「ど、どうしたの絮源ちゃん、そんな怖い顔しちゃって」


絮源「あっ…………あ?

あたしなんか言ってましたか???オホホホホ………」




………とりあえず。

一緒に危機を脱出したはずの「ヤツ」からは、何の連絡もないのだ!!!多分無かったことにされてる。ぜったいなかったことにされてる!!!チクショウ、携帯見てみる?見てみるか?あんだけ堂々宣言しておいて何も音沙汰ないとは卑怯だよなァ?あれ…着信………?






いや、

迷惑電話くらいしか来てないーーーーッッッ



「…いや」




何だこの着信。


✳︎

そしてその数日後。


??「何よためいきついちゃって」


絮源「…三井」


三井「せっかくディレクターに褒められたってのに、何浮かない顔してーーーってうわ!

あんた、すごいクマじゃない!!」


絮源「…?そう?」


三井「てかうちの化粧品のカバー力ってすごいわねー!まるでハロウィンメイクでもしたんかってくらいのクマを隠しちゃえるんだもの!うん、近づかないとわかんない!いやー最近の化粧品の品質は馬鹿にならないわー!」



絮源「…そっちかよ」


三井「ごめんごめん冗談。

で、その具合の悪そうな顔の原因は何よ」


絮源「…ああ」


あれ以来。

研究所が吹き飛んだが、弥夜のそばにいたあたし達は、無事助かって地上に出られた。


あたしが回復した頃には、三島は既に回復しており、先に仕事場に戻ったと言う。


あたしも無事具合もなおり、今現在こあやって仕事場に戻ってきているわけ、だがーーー


絮源「なんだかわかんないけど、最近変な電話がかかってくるのよォ。

決まって夜中の0:00。差出人は『不明』。

メッセージもない。誰かの悪戯だとは思うけどあたし電話番号ってめったに他人に教えたことないのよねェ」


三井「うわこっわ。なにそれ。

悪趣味な悪戯ね。大丈夫?都市伝説っぽいけど」


田村「お疲れ絮源…ってうわ!どうしたんだよそのクマ!」


絮源「えっそんなにひどい?」


あたしは鏡を至近距離で見ーーーー


絮源「はっ驚いたやっばいくまじゃんなんでなんでうそでしょメイクで隠せてなかったの、つかメイクで隠せないくらいの範疇だったってわけ、エッだとしたらこれすっぴんになったら殴られた人みたいになってるってこと、え、これどうやって治すの内科皮膚科外科」


田村「落ち着け単純に寝れば治る」


田村(=同僚)が諌めてくれる。

ありがとう田村。お陰で心がおちついた。持つべきものは親友だよ(棒読み)


田村「その怖い電話ってなんだ?」


絮源「…夜中に電話がかかってくるのォ」


田村「時間は」


絮源「決まって午前0時」


田村「電源は」


絮源「切ってもかかってきてた」


田村「電源切って無視できないのか」


絮源「恐怖で起きる癖がついちゃったのよ」


三井「うーん。…心霊的に考えれば、まあ、幽霊に取り憑かれてるからお祓いに行った方がいいとは思う」


絮源「何よ心霊的って」



三井「物理法で考えてみれば。…

悪戯をさせたい人間は、あんたの電話番号を知っているって人物達になるわけだわね」


絮源「…」


三井「あんた、思い当たる節はない?」


絮源「節って」


三井「事件に巻き込まれかけたとか」






-----

藤崎、仁比山、矢井田馬turn





藤崎「お前、狙われてるぞ」


仁比山「狙われてる…?どういうこと?…


ってかそういや、あんた名乗りなさいよ。

今更だけど監視員ってなによ。あたしらが妙な行動しないために、見張ってる、"あっち側"の人間なんじゃないの?だとしたらなんでここにいるのよ」




セトリ「…すみません。申し遅れました。


もちろん、表向きは青井警察官、兼、監視員ですが、


裏舞台では………

源介先輩の、補佐にあたるものです」


仁比山「表、舞台………?裏舞台………って、え?は?…どういうこと…?」


セトリ「実は結論から申しますとーーー


この世界の人間は皆、『表と裏』を持っています。」


仁比山「は…?どういうこと…?

ドラマとか漫画の話…?」


藤崎「いや、違う。

そういった類の話じゃねえんだ。例えばーーー

この事件、単に安藤の思いつきで始まったものじゃないとは思えないか?」


仁比山「?…どういうこと…?」


藤崎「いいか。この事件はな、単に安藤の気まぐれで起こったものじゃない。

気まぐれで起こったことならまず、こんなスムーズに事が運ばないだろ。

安藤の単なるその場での思いつきならまず、周りの会社や企業が、黙って見ているはずがないんだ。

悪事を起こすもんなら、何らかの形で止めに入るはず。

しかしーーー

こんなにもスムーズに物事が進んで、国会すらも気づかなかった、となると………


国会、会社、企業に潜んでいる人間の何人かは、安藤総理とSteamlaboの計画に、内通者がいる」


仁比山「…てことは」


セトリ「一見普通のように見える人、道端をすれ違った人、もしかしたら………

あなたが接している人間のいずれかも、Steam laboの工作員ってわけです」


仁比山「…!!!」



セトリ「その取り込まれた人間達はーーー

今、どれくらいなのか、誰が取り込まれたのかは………まったくわからない。とにかく、奴らは仲間を集めています。ーーー


それは、ターゲットや、その関係者達をむりやり人質にとるなど、ありとあらゆる手段を使って、無理やり協力者を集めている」


仁比山「…何ですって?」


セトリ「…善良ぶってる企業が蓋を開けてみれば大問題まみれの会社というのと同じように、仲間となる人を取り込んでいるんです。ああ…この世界はもうダメです。

Steam laboと安藤総理は…とんでもない事件を起こすつもりです…



…いや、もうその事件は、この時代になるずっと前から、始まっている」


仁比山「…」



セトリ「不可解な事件の元凶は、全てSteam laboがしくんだことだと思って間違いない。


その方法は、…心理学を駆使した、『犯罪に触れない程度』の取り込み方…

僕もプロではないので、どういった手法を使って取り込んでいるのかはわかりませんが…」


仁比山「…」


セトリ「殺害、傷害、窃盗、失踪、詐欺、強姦、リンチ、薬物………


太古の昔から今の今まで、ありとあらゆる犯罪が横行してきましたが、ここ数年…昭和の終わり以降あたりにかけての犯罪は、Steam laboの研究員によるものでしょう。


普通の人間を大勢取り込み、造人化するか、精神異常な犯罪者に成り立たせるためには、この方法が作られている。


全ては…この国から世界を惑わせ、滅亡させるために。


そこで、その工作員たちは

表舞台に生息する顔と、裏舞台に生息する(かお)とに使い分けています。


大半の住民達は、知らないと思います。というか、知らなくて当然の出来事が…今、日本で起こっている。


この計画を阻止するためには、手っ取り早く稼働中の造人を停止、破壊しなければなりません。

実際、造人が何体開発されてて、何体稼働中なのかは、わかりません。もちろん、その中には………さっきお話しした、元人間の工作員も、おおかた混じっているでしょう。…名簿は、すべて、安藤のやつが持ち去ったので」


仁比山「…」



セトリ「最初は造人運営を素直に着工していたSteam laboでしたが、そのうち自らの体も使って、実験するようになりました。


そうするとどうなると思います?

勿論精神がやられる。」



藤崎「……」


セトリ「計画に否をとなえるものもいました。

でもそうはいかないのがSteamlaboです。…彼らはいやがる人々も、無理やり従わせていった。

間一髪、逃げ出したものもいます。

が、しかし………


精神不調は『うつり』ます。


地下での実験だの恐怖訓練だの、裏切ったらもちろん殺されるような、死と隣り合わせの環境下………


そんな環境の悪い場所で働いていたら、身も心もぼろぼろに滅されるでしょう。


逃げてきたとしても、精神はまともでないはずです。つまり、Steam laboに関わった人間はほぼ、精神がバカになっている」


藤崎「…」


仁比山「つまり、何が言いたいの…?」


セトリ「僕も実は、工作員の一人でした。…その仲間になるのがいやで、協力するフリをして抜け出しました。

もう一度言います。

俺は敵ではありません。

そして、すべての犯罪の元凶は…Steam laboの研究員です。」


仁比山「…」


セトリ「そして彼らは、表と裏………

生息しやすいよう、立場も名前も、変えていることでしょう。


奴らたちには悪いですが………俺にも俺の考えがある。

向こうが舞台を使い分けるなら、俺だってそうします。

あなた方に、従うつもりでいます。ーー


それが、裏舞台の俺の顔です。」


仁比山「…」


セトリ「Steam laboのやり方は、『計画に関わった、又は邪魔になりそうな人間を、一人残さず殺す』こと。

だから、弥夜様と藤崎さんが一緒に死んでしまったとしても、あとぐされの縁が悪さをして、造人がいない社会でも、殺し合いが起きることでしょう。

あなたは、事件の関係者。

放っておけば、最悪、死ぬ」


仁比山「………っ」


藤崎「………だってさ、"源介"」


仁比山「えっ?げ、源介?」


源介「………」


藤崎「こいつ、知らないふりして全部聴いていやがった」


セトリ「先輩………」


薄暗い廊下の隅。

長身の影が立っていた。

はっきりわかる。あれは、源介だろう。


仁比山「源介………」


藤崎「…源介」



源介「…」



藤崎「お前に、こんな大きな問題を押し付けてしまってすまない。どうしたらいいか、お前が判断してくれ…その前に」


源介「会わせろ」


藤崎「えっ?」




源介「久遠寺弥夜に、会わせてくれ」


-------

藤崎×セトリ×仁比山

源介turn



藤崎「…久遠寺弥夜」



藤崎は障子を開ける。


源介「………」



弥夜はすやすやと眠っていた。

白い布団に、白い着物。

ぬばたまの彼女の髪色だけが黒々と光っており、彼女の色白を際立たせていた。まるで人形をそのまま転がしたかのような幻想的な映像に、一瞬俺は戸惑う。


源介「こいつが」


藤崎「ちょっと待って」



ーーーポン♪


藤崎が、機材を押した。



藤崎「よし、できた…源介」



源介「あ?」



藤崎「…弥夜の手をにぎってもらってもいいか」



源介「え…?」



藤崎「お前に恋している最もな証拠を、お前にわからせてやろうと思ってな」



源介「………」


俺は一歩踏み出す。…すると。


源介「!」



BPMが、変動した。

俺が一歩踏み出すたびに、波が、揺れが、大きくなる。思わず藤崎を振り返るが、彼は何も言わず目で促してる。俺は歩き出しーー手を握ったーーー


瞬間。


源介「!…えっ」



弥夜「…………」


………

『BPM:120』

先ほどまで、60前後だった脈が、速く、大きく、鼓動する。


弥夜「………♪……」


血色の頬。

弧を描く口、下がった眉尻。

閉じた両目は涙が湧き出し

両耳に向かってきらめきおちる。

握っている手もほんのり熱く、弱い力で握り返す。


源介「………」


こいつはーーーーー


藤崎「源介」


源介「えっ」


藤崎「これが弥夜が、お前に恋している、最もな理由だ。

人間は、恋をすると、BPM…心拍数が、120以上になる。」


源介「…」



俺が近くにいるのが、彼女はわかっているのだろう。

手を離した今でさえ、変わらずにいる心拍と、息の浅さと………

まだ赤いままの血色に、胸苦しさが芽生えてくる。



(…でも)


藤崎「お願いだ…俺は、お前に、協力して欲しい。条件を飲んで、この世界を救って欲しい。

そしてーーー


弥夜を人間に戻して欲しい」


源介「…」


藤崎「…ただとは言わない。

…セトリ」



セトリ「もし源介先輩が、この計画に乗るといえば………


先輩を、青井警察から、一時的に解雇します」


源介「え………」


セトリ「生活費諸々は、是力補佐させていただきます。


今復職したら、絶対にあなたの命が狙われます。それは、断言できる。

源介先輩はその場合、世間から『雲隠れ』の状態にならなければいけない。」


源介「…計画に…乗らないって言ったら?」


セトリ「この話、『最初からなかったこと』にします。」


源介「…」


セトリ「私たちは、最初から、出会ってなかったということにしておきます。源介さんには今までの生活に戻っていただき…


今後、一才私たちに関わらないことを約束できるなら」


源介「…お前らは、どうするんだよ?」


セトリ「僕たちは、弥夜を殺しーーー造人運営を止め、

安藤を引き摺り出して、処刑します」


-----

源介「…なあ藤崎」


藤崎「なんだ」


源介「この方法しかないのか」


藤崎「そうだ」


源介「一緒にいれば、自然に好きになるってことか」


藤崎「…そうだ」


………


源介「人生の伴侶すら、俺は勝手に決められないのかよ」


藤崎「違う」


源介「…なにが!」


藤崎「お前は人生を先に知っただけだ」


-----

源介回想turn


「父さん?」

「まとわりつくな。父さんは忙しいんだ。」

「…母さん?」

「あたしにかまうんじゃないわよ。そんな暇あったら、しっかり学校の勉強しないと」



俺は家族にも恵まれなかった。

弟と違って成績も悪く、出来損ないだった俺は、両親に見放されながら、日々の生活を送っていた。


日々の生活を送っていた。


もちろん、当時の性格はかなり破綻していたし、当然のごとく親愛する友人すらもいなかった。


学校では立場が悪くなるのを恐れ、愛想は良くしていたが、表向きだけ。

学生時代らしく、遊びに誘われるとか、告白されるとか華のある話もあったのだがーーー


『ごめん!俺忙しいから!』


全て『ぶった斬った』。

贈り物だって『捨てた』。


周りなんか信用していなかった。

いやーーー



簡単に裏切られる環境に、恐れていたのかもしれない。


ただ、弟だけは、いつまで経っても俺についてきてくれた。一人でどこかに行こうとすれば、必ず着いてきたし、必ず心配してくれたのだ。



そんな弟がーー死んだ。

俺の、不注意で。



帰ってからも、両親に責められた。そして、最終的に気が狂った。



そして、両親はーーー

山の中で心中したのだ。


ダムの中に車ごと突っ込み、そのまま死んでいたらしい。



「………」


だからーーーせめて。

せめて、人生の伴侶だけは、やさしい彼女を選びたかった。

正義のヒーローになれば、きっと誰かから憧れられる?

単純だった俺はそのまま勉強をして、警察官になった。


そしてーーー


『普通の人生』を歩んで、心穏やかな一日を織りなす。

それだけを、選びたかった。



-----



藤崎「………源介。

研究結果では、お前と弥夜以外、相性の合うやつはいない。


計画に乗らず、俺たちと離れ、他の伴侶を選んで、平和な生活を送るとしてもーーー


弥夜を超える信頼と、幸せと、大恋愛は、経験しない」


源介「…」



藤崎「今、ここから逃げて、『何も聞かなかったこと』にして、この計画に乗らなくてもいいんだ。

よく考えれば、久遠寺弥夜はただ単に、お前と相性がぴったりにできているとはいえ、実際には、会ったことも、関わったこともない人物だ。」


源介「…」


そうだ。

俺と弥夜は、会ったことなどない。

もしかしたら、藤崎が嘘をついているかもしれないし、ただ単に事件現場に居合わせたってだけで、………


俺には助ける義理などない。


それにーーー


安藤雄一郎の、非嫡出子

兼…造人。


かといえど、俺がここで断れば、彼女はここで死ぬ。

造人とはいえど、半分人間。


人権、戸籍はないしても、俺は一生の罪悪感と生きていくことになる。

これは人類を救うためのやむをえない選択だから、どっちを選んだとしても、俺は罪には問われない。




しかし、

ここで俺が断れば、弥夜と藤崎が死ぬんだろ?




(俺ーーーーどうしたら)




俺の権利なのか。

他人の犠牲なのか。



俺は、どこまで、自分の運命を決められないのか。




ーーーちりん。


「…はっ」







ポケットに、「何か」ある?………



✳︎


「…お前、また大吉だったの?」

「うん!へへへー」

「いいなあ。お前、大吉ばっかり引くよな。

俺なんかまた凶だったよ」


とあるお寺の帰り道。

俺と弟は、一緒に境内の階段を降りていた。

昔から運の悪い俺は、


「凶は凶でも、大凶。

俺、大吉なんて引いたことねえよ…うわ!」

「あぶないっ」


「っ………いてて………ちくしょう、転んじまった………くそ!なんでだよ!!!

俺ってなんで不幸なんだよ!!!」


俺は目の前にあったバケツを掴むと、思い切り投げた。

投げられたバケツは、宙に弧を描き、木にぶつかって粉々になる。



「お兄ちゃん。」

「あ?」

「この鈴、あげる。

お守りにして」

「なんだよ…お前が、おみくじを引いた時にもらったやつじゃないのか?」

「ううん、いいの。…お兄ちゃんにあげるの。

乱暴なお兄ちゃんが、これをにぎりつぶさないくらいが………きっといちばん優しいから。」



「………」

「信じて。父さんと母さんがお兄ちゃんに酷い仕打ちをしたとしても、世間が認めなかったとしてもーーーー




僕はいつも君の味方だよ」


✳︎


いつから入っていたのだろう。

ポケットの鈴を見つめた。


年季の入ったその鈴は、鈍い光を放ちながら、俺の目をきらめかせる。




(…そうか。

陽介、お前はーーー)



源介「………」

セトリ「先輩…?」



源介「当たったところが……俺の運命なんだろ」


藤崎「源介………?」


源介「ひとっこ一人助けられなくて自分が生きるなんて、俺はそこまで冷血じゃねえよ」


仁比山「ちょ、あんた

何言ってーーー」





源介「弥夜との結婚を受け入れる」



✳︎



藤崎「…!お前………

………本当にいいのか?」




運命は、自分で決めるーー





源介「よくなかったら言わねえよ」



そんなの嘘だ。嘘まみれだ。




セトリ「…わかりました。協力します」




俺の人生どこいった。




源介「おう!頼むよ」



平和な人生どこ言った。



藤崎父「よーし!そうと決まりゃあ」

源介「うわお前一体どっから」

苑「実は聞かせてもらってたよ」

快「縁側の下で」


自分で決められないのが俺の「運命」なのだとしたら。





藤崎母「結納の準備……どすね。」

源介「えっ結納」



その運命に『乗ってやろう』。



長谷川「あれっ俺がトイレ行ってる間に何こんなことになってんの??宴会??ちょっとまって話読めないんだけど!!」


仁比山「…いいからあんたは黙ってなさい」

セトリ「弥夜様が起きたら次の日にでも、婚礼をあげてしまいましょう!」…

藤崎父「さー!みんな準備するぞ!源介、お前は婿殿だからゆっくり体休めておけ!」

all「「「おー!」」」


………



誰も死ななくていい。

犠牲がないのなら。



……………

ーーー風が吹いた。

大勢が去っていった後ろ姿に、俺は一人、孤独を感じる。

この選択であっていたのか。ーーそれはわからない。


でも。



籠の鳥。

突き破って出た先に、

また籠があって、としたなら。


俺はまたーー自分から籠に入って、その鳥を助けるだろう。

たとえ捕まっても。



馬鹿だと思うか?

優しすぎると思うか?

いくらでも笑え。



だって俺には、


運命など、最初からーーー




??「…ですよ」


源介「えっ?」



弥夜「振り向かないで」


源介「…お前は」


弥夜「久遠寺弥夜。

あなたの伴侶となる者」


源介「…起きたのか」


弥夜「あなたの伴侶として、『最初から互いが、愛せるように設計されている『適合者』………


人生と、私。

私の方の運命を自ら、選んでくださったこと…大変感謝いたします」


源介「どっち選んだとしても、お前を殺すことをしない限りは、お前を選ぶことになってたのには変わらないんだろ」


弥夜「ええ、そうです………その運命は、変えられない。…


選んでしまった以上、あなたは『ある条件』を満たせばそのまま、私を骨抜きに愛するでしょう…」


源介「ふん」



弥夜「お荷物だと思っていますか?」



源介「正直」



あなたの権利を奪う代わりに、私はあなたの、『伴侶』に相応しいーーー相手になりましょう。」


源介「…は?」


弥夜「あなたの運命を奪う代わりに、私があなたの『運命』を、導きます。


あなたがこれから凶を引くのなら、引く前に私が神籤を導く。

そして大吉を握らせる…そんな役目を果たしましょう。


…それまで、私の目を見ないでおきましょう。

私と七秒間、目を合わせると、強制的に『恋に落ちます』。


あなたは制御が効かなくなりーー

私以外、何も要らなくなる。


意志も自由も何もかも全て、あなたは私に捧げてしまう。」


源介「………そうなるんだろ?

だってそれが『適合者』…

そして、運命なのだとしたら。


どっちに転んでも結果は同じなのに、なんでそこまでする必要が………」



弥夜「あなたが好きだからです」


源介「!」


弥夜「源介さんが私は好きです。愛しています、他の人より。

だから本当の恋がしたい。制御任せじゃない、自然な恋を。

それまで…

目隠しをしておきましょうという意味です。」


源介「…弥夜」


弥夜「私はあなたと恋をします。


"Mister"?」




ーーー運命は自分で決められないなんて、考えないでくださいね。


あなたは、ただ、






ーーー自分で決めるであろう結果を、先に見ただけなのですから。





to be continued…

------

あとがき。


うわぁぁあ数少ない読者様!!!

大変遅くなり申し訳ないです!!!!!

日々の生活に勤しんでいたらつい←おい

本当お待たせいたしましたぁあ!!!


https://youtu.be/31bOgm1Md7M

↑告 知↑

YouTube開設しました!もともと色々描いてましたが、この気にこの物語、アニメにしちゃおうと思ってます◎

めっちゃ拙いですが観てくれるとわいが3センチくらい震え喜びます(ゑ?)_(:3」z)_



ではでは!

次回もお楽しみにーーーー!


------

参考資料)

・https://ikejo.net/nitenai-kao-suki-22594#i-3『自分と似てない顔の人を好きになる理由』


・https://www.marutai.co.jp/campaign/holding/motetec/sp/

『男をおとすには◯◯◯◯が効果的だった!』



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