【◐ な ろ う の か み さ ま|零 ◑】
もう『文筆家になろう』での活動は無理だ。
現実世界まで浸食されている。
本当は、とっくに限界だった。
「やるか」
そして、オレは。
そいつを……
[ 退 会 実 行 ] を 押 し た ――――
4年間、ただ黙々と液晶に向き合いキーを叩いた。
脳味噌をひねって書き連ねたのは己の分身だった。
23,751,576粒の粒子となり砕け散った。
なんの意味もなさない、空白になった。
周囲は白紙に戻った虚ろな空間。
それでも、心は情動を示さない。
死んでいる。
死んだのだ。
オレの心は涸れ果てた……
後悔はない。
後悔は、ないんだけれど。
猫の鳴き声がうるさいな?
「今日も星が降るんだなぁ」
『なにを見ておるんじゃ?』
「〇〇〇のチェックを」
『〇〇〇?』
「これは、日課だから――」
なにかが抜け落ちたように記憶は曖昧だ。
スクロールする指を止め、視線をあげた。
なんだ……幼女?
どことなく、見覚えのある幼女だ。
見たかんじポワンと光っている、奇妙な棒を持っている、なんとも判断しかねるコスプレ風衣装を身に纏い、やたらに長くてプラスチッキーなピーコックブルーの髪がはためいている。背中にある小さな翼が動く?
『@゜▽゜)ノ どした?』
ちょっとだけ、空中に浮いている。
ありきたりの人間ではないだろう。
「どちらさま でしたっけ?」
『さしずめ <PLOT|TYPE>』
「なん、プロット タイプ?」
『てんせいけい の めがみさまっ.:*☆』
「転生! ……もしかしてオレ死んだの?」
『@゜_ ゜) じ ―― っ』
「ぇ、えっ?」
『@゜▽゜) みたかんじ 死んどるなぁ』
「そうなんだ……いつの間に死んだんだろ」
前世の記憶は曖昧だ。
よし、落ち着け自分。
ぼんやり記憶が……ん?!
「 〇 〇 〇 の か み さ ま ー ?! 」
『スペース強調 あいかわらずじゃな』
「どうしてここに」
『まきこまれたようじゃ』
「巻き込まれた、誰に?」
『@゜Д゜)/ おぬししか おらんじゃろ!』
「 オ レ に ―― ぃ ?! 」
つまるところ、オレが産み出したキャラクターがオレの退会に巻き込まれて消滅し、この白紙となった空虚な世界を漂っているわけだ。
少なからず、影響も見てとれる。
なんだか神様にしてはキャラが弱い。魔女ッ娘アニメに傾倒しすぎた幼女なら、普段着からしてこんなものだ。お菓子売り場を走り回る姿を先日も見た。
「あ、でも転生できるんだ?」
『 @゜▽゜)ノ 質 問 タ ~ イ ム ☆彡
ステキな スキルを さずけましゅ♡
メニューのなかから えらぶがよい♪
▶ メテオストライク
▷ アセスメントブースト
▷ ホットリストレジスト
▷ インプレッション
▷ ランダムテイマー
▷ フレンドリーファイア(γ)
▷ プラスメッセージ
はてさて おぬしは なにを のぞむんかのぉ? 』
「……えらい唐突だなぁ」
『ゆっくり えらぶが よかろ?』
虚空に浮かぶ7つの選択肢。
詳細は不明だが……
な ん か ヤ バ そ う 。
チラリと〇〇〇のかみさまの様子を伺う。
退屈そうだ、見たまんま子供だもんなぁ。
退屈そうに、おうたを唱っている。
『 ひょーか? ぶくま? おともだち?
ごりやく たくさん おやくそくっ★
どういう まほうが ごいりよ~ぉ?
ステキな スキルを さずけましゅ♡
くるものこまばず さるのも おわず ―― 』
転生後に手にする魔法のようなスキル。
持ち還るのは、7種類のうち1つだけ。
なろう民に強烈な効果をもたらす魔法。
……なろう民?
右手に持っていた機械に触れて画面を見る。
月間ランキングの、誰も見ないジャンルだ。
スキル。
はたして、そうだったろうか?
「あぁ。なんか思い出してきたなぁ」
記憶は曖昧だが、不思議と身体が覚えている。
[ログイン]から、[新規ユーザ登録]、これか。
っとっと……随分手順が変わった?
SSLの関係だろうか、まぁいい。
登録できると、確信がある。
『自力で還る、そうじゃな?』
「来る者拒まず、去る者追わず……だろ?」
トップページからログイン、成功。
『@゜▽゜)ゞ それもよかろ』
気付くと自宅の一室だ。
緊張が緩み、安堵の溜め息が出た。
小ざっぱりした画面になっている。
手っ取り早く、済ませてしまおう。
「文筆家になろう」のロゴを押す。
「クッキーは生きてるのか」
月間ランキングの、誰も見ないジャンル。
星の寿命が尽きて、消えかけた一篇の詩。
これは傑作だ。
何度も読んだ、スルスル読み進めていく。
不意に目に入ってきた、☆☆☆☆☆の下。
『評価をするにはログインしてください』
あの一文が、消えている……
「はい、5つ星。 メッテオストライク ★彡 」
瞬時に青く色付く、5つの星。
そうか、オレがしたかったのは、コレか。
黄泉帰ってきた、実感が湧き上がってくる。鼻の奥が痛くなって、じんわり涙がにじんできた。この調子でドンドンいこう!どぉれ、さらに上位には、もっと傑作が揃って……
な ん じ ゃ こ り ゃ ?
……ま。
まぁ、いい。
人それぞれ、違った趣味趣向があって当然だ。
だからこそ、ここに還ってきたんだろうから。
「それでも、作品ってのは誰かを想って書くもんだよ。さぁて、まずは手始めに、ビービーうるさい猫へファンアートのひとつも描いてみるかな?」