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その機能は怖くない?

「馬っ鹿じゃないの」

というカルデロの声に、老墓堀人二人は震えるよりなかった。真っ白な壁に囲まれた通信室の中央に、怒り顔のカルデロが映し出されている。

「あなたが『我々』の技術を使ってきたものだから、てっきり余程の事かと思ったわよ。年寄り二人して、女の子一人も満足に保護できないのね」

悄然として小さくなる二人のうち、マルティーリョは彼女から目をそらしつつ反論した。

「カルデロちゃんが出て行ってから、ずっと男所帯じゃったもの。わし、あんなのしらんし」

ちゃん付けで呼ばれた事で、彼女は更に機嫌を損ねる。

「マルティーリョには期待してないわ。ねぇ、私の旦那様。どうしてそんな、しょうもないのかしら」

「そう言ってもだな、わしらの、あの娘の更に娘だぞ。それもお年頃だ。一度気になって照れてしまうとどうにもならん。旅の途中は何がどうでも気にならなかったんだが」

カルデロは険しい表情を崩してため息を一つつくと、口調を和らげた。

「仕方ないわ、あのこが目を覚ましたらこの通信機を使わせてあげて。サイズは私が聞いて、遠隔で『墓所』の縫製機に設定を入れる」

「そうしてくれるとありがたい」

即座に感謝の言葉を述べるグアドに対して、カルデロは中途半端な笑顔で続けた。

「その後はどうするのかしら」

「その後ってなんだ」

「出来てくる服やなんかは『我々』の規格のものよ。この惑星のこの時代のものとは、だいぶ違う。あの娘に着方を教えないとね。あなたなら、できるかしら。脱がせるのは得意だものね」

不意の発言に、グアド派咳き込む。いくらか、カルデロが夫をからかった後。彼の懇願によって、通信室にマニュピレーターを運び込むことで決着した。実物が出来上がった後に、それをカルデロが操作して教えれば問題は出ない、はずだ。


 一通りの打ち合わせと確認が済んだ後、カルデロはふいに厳しい目をして問いかけた。

「それで、あとどれくらいかしら」

「あと数日、機材が整い次第だ」

「そうじゃないわ。指輪が、私達の孫の人格に入れ替わるまでの時間よ。完全に入れ替わってしまえば、意識の復元は不可能になる」

「それも数日、ぎりぎりだな」

グアドの難しい顔に、カルデロは薄く涙をためて言った。

「記録、とっておいてよ」

「あぁ」

素っ気無い返事に、彼女は念を押す。

「きっとよ」

グアドは些か驚いた顔をした。

「おまえは、あの孫には余り興味がないと思っていたんだが。現地人との混血だしな。しかし、先だっての『水底の大鐘塔』の件からしても、そういうわけではないようだな」

「当たり前でしょう。あの娘の、私達の娘の子供なのよ」

「……そうだな。その通りだ」

「記録、みんなとっておいてよね」

「わかった」

暫くの沈黙の後「じゃぁ、後でね」と言い残してカルデロは通信を切断した。


 長い眠りから覚めたガッタを通信室に案内し、カルデロの「年寄りどもは、部屋から出ていなさい」という言葉に従って退出した後に二人の老墓掘り人は『墓所』の食堂で席に着いた。グラスに澄んだ水を注ぎ、クラッカーを皿に盛る。それらを摘みながら、マルティーリョがぽつりと言った。

「なぁ、どうにかならんのか。あの指輪をを着けたままでも」

手に取りかけたクラッカーの一片を皿に返し、グアドが低い声で答える。

「ならんな」

「しかし、いまのままでも充分元気そうじゃないか。わしは墓堀人をやる前は、調査後の惑星で地均しをするのが主な仕事じゃったから、調査機器には疎いんじゃ。しかし、孫っ子はどうも問題なく見えるぞ」

「見えるだけだ」

グアドは短く答え、あらためてクラッカーに手を伸ばす。それを飲み込み水を一口啜って息をつき、少しの時間を思案に中てた後に彼は再び口を開いた。

「指輪から注入された微小機械は、その人物の各器官と結びつく。それを以って五感からの情報と共に、記憶や感覚、感情と言った情報も収集している。調査であれば、充分な期間をおいたのちに指輪を抜いて分析にかける。その際、指輪を外された人物は結びついていた微小機械の停止、回収と共に生命活動が停止。要するに、死亡する」

「そこじゃ。そういう話なら、指輪をつけ続けていれば」

グアドは悲しげに首を振った。

「だめなんだ。記憶を収集するさいに、微小機械はその人物の脳を徐々にではあるが停止させてしまう。その対策に付加されている機能は、微小機械が脳の機能を代替すること。指輪がそれまでに収集された情報を元にして、その人物が取るであろう行動をその肉体にとらせ、話すであろう事を話させる事だ。機械に判別がつかない場合は、無意味な行動をとったり硬直したり、同じ動作を繰り返したりする」

マルティーリョは手元のグラスを少し遠ざけ、黙って聞いている。

「今のガッタも、本人の意識は既に途切れ途切れのはずだ。意識が途切れている間は指輪が、ガッタの取るであろう行動と言動を取らせている。そのため、わしらからは問題なく見えるがな」

そこまで黙って聞いていた老人は、黙ったまま涙を流し始める。流れた涙が彼の白い口髭をぬらし、唇へと伝っていく。ややもして、絞り出す声でその老墓堀人は語った。

「あの孫っ子は、お前さんらの娘の娘じゃ。どうにかやっておるじゃろう、なんて気休めを言うくらいしかできん、可愛そうなあの娘のな。それなのに、孫っ子までもそんな。そんな、なぁ……」

「しっかりしろ、手立てはある。手立てがあるから、わしはここまできたんだ。いいか。指輪が外されれば、助からん。これは確実だ。ならば、指輪が外される事なく破壊されればどうだ。指輪から微小機械への撤収命令がいかなくなり、人体各器官の機能は保たれる。だが、一方これではガッタが微小機械に侵食されて、ガッタと同じ反応をする何かになってしまうところが解決しない」

カルテーィリョは、涙と共に垂れてきた鼻水をふき取った。真剣な眼差しでテーブルに身を乗り出し、頷く。

「そこで『墓所』の機材だ。指輪を完全ではない程度に破損させ、ガッタ本人と共に停滞槽に入れる。それで時間が稼げる。その隙に、指輪へ情報の緊急保持の指示を出せばいい。折角溜め込んだ現地の情報を確実に回収する為に、この手の指輪には記録内容を着用者の脳に格納する機能が隠しコードでついている。この機能が使われた場合、微小機械の情報収集は停止して着用者の細胞と共生関係になる。生体を記録媒体とするかわりに、微小機械はその媒体を守るわけだな。これで、微小機械が体を動かしていたときの記録も本人の記憶として残る。ここまでいけば、ガッタはもとの現地人として生きていく事ができる。本人の意思をもってな」

「なんで、そんな機能がついとるんじゃ」

「調査機器を作った技官が、凝り性だったんだ。あの頃は、機材も資源も充分にあったしな」

頷いて聞いていたマルティーリョは、不意に難しい顔をした。

「何か……他に、問題があるんじゃな」

「……あぁ。それがな……」


 カルデロとの話が終わったガッタが食堂についたとき、二人の老人は併設されている厨房でフライパンをとりだしていた。少女に気付いたグアドが、声をかける。

「ガッタ。朝食はどうだ。普段なら『墓所』では自動調理に任せるんだが、マルティーリョの卵焼きは実はなかなかのものだ」

「オムレツといわんか。チーズもハムも入れられるぞ。焼き加減もお好みじゃ。グアドよ、お前さんはトーストを焼いておれ」

「おっといかん、少し焦げたか」

「お前さんは相変わらず、パン一つ焼けんのう。それ孫っ子ちゃんがまっておる」

似合わぬエプロン姿で騒がしく朝食の準備をするふたりを目にして、ガッタはその場で硬直した。マルティーリョの目配せをうけて、グアドが素早く彼女の背後に回る。そっとガッタの肩に手をのせて、彼女の反応を待つ。硬直の解けた少女を椅子に座らせると、その目の前にカトラリーを並べた。

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