第91話 SNG劇場
品川劇場は、SNG劇場というそうです。
(2月11日です。)
今日は土曜日だ。品川で、コンサートがあるが、午後4時からなので、午前中はゆっくりしている。と言っても、起きるのは、いつもと一緒の午前5時だ。
朝食の準備をする。今日は、フレンチトーストとスクランブルエッグだ。
食パン8枚を半分に切っておく。耳はそのままだ。卵4個、牛乳400ml、砂糖大さじ4杯を、一緒に良く混ぜて卵のソースを作っておく。それに切ったパンを入れて、漬けておく。フライパンを熱し、バターを入れ溶かして、ソースにつけたパンを焼きます。狐色の焼き目がついたら裏返し、蓋をして弱火で2分ほど焼いておく。焼き上がったら、火から下ろしてお皿に盛り付け、粉砂糖、メープルシロップをかけて完成です。
スクランブルエッグは、ハムと玉ねぎを小さく刻んで、卵4個と一緒によくかき混ぜておく。同じくフライパンにバターを乗せ、中火で焼きはじめて、途中で、ぐちゃぐちゃにかき回して出来上がりだ。ミルクティーを作ったら、朝食の準備はおしまいだ。
アオちゃんと一緒にお散歩に行く。井草側の流れていた上の遊歩道を歩いてみる。今年4月から、井草川の復元工事が始まるらしい。
川のほとりは、昔は土手が広がっていたらしい。それが都市化が進んで、住宅が次々と建てられてきた。土地の測量などいい加減な時代だった。本当は、誰のものでも無かったはずの土手が、誰かの庭として取り込まれ、そのうち家が建てられる。そうなったら、国もどいてくれとも言えずに、地割りが確定してしまう。いつの間にか、細々とした小川のような川になってしまった。
今は、新西湖から霊力を得ているので、元気だが、井草川が完全復活したら、もっと元気に、そして本来の竜神の力を得ることが出来るだろう。
散歩と言っても、まさか男の子の格好で歩き回れないので、小さな蛇になって、コートのポケットの中に入っている。それでも外の様子は分かるらしい。
昔、ここは水車が回っていたとか、大きな桜の木があったとか、『念話』で伝えてくるが、お祖父さんと散歩しているみたい。
家に戻って、朝食を済ませたら、ピアノの練習だ。昨日の夜、新しい曲をサヤちゃん達に送信しておいた。最近は、良いソフトがあり、演奏をすると楽譜にしてくれる。前奏から、間奏まで入れた曲が完成した。
気に食わないところを、直接、音符を修正して完成だ。思い付いた歌詞をつけて歌ってみて、MIDIファイルでも送信しておく。
もう、午前中に集まっての音合わせなんか、必要なかった。あ、サヤちゃん達だけは集まっているらしいけど、私は、午後2時に楽屋入りすることにしている。
今は、フランツ・リストさんの曲を練習している。リストさんは、200年以上前に生まれた人で、超絶的な技巧を持つ当時最高のピアニストで『ピアノの魔術師』と呼ばれていたらしい。どんな曲でも初見で弾きこなしたそうだ。その技巧と音楽性から『指が6本あるのではないか』という噂がまともに信じられていたというのだが、彼の作曲した曲を弾いてみると、あながち嘘とも思えないほどだ。
今、練習しているのは、『ピアノのための12の練習曲』第3稿である。
第1番 ハ長調『前奏曲』
第2番 イ短調
第3番 ヘ長調『風景』
それと
第4番 ニ短調『マゼッパ』
の4曲を、通しで練習している。曲そのものは短い練習曲だが、さすがリストさん、指を休ませてくれない。今度の月曜日に、恵美先生に課題達成チェックをして貰う事になっている。秋までに12の曲全てを通しで弾けるようにと言われているが、かなり無理がある。特に6番から8番なんか、シューマンさんが
『嵐の練習曲、恐怖の練習曲で、これを弾きこなせる者は世界中探してもせいぜい10人くらいしかあるまい。』
と言ったそうだ。本当かどうか分からないが、すべての曲を通しで弾くとなると、ハノンだって1〜2回しか練習できないわ。なんか、とっても嫌。
お昼は、お餅を焼いて磯辺にして食べてから、ネルシャツにフィッシャーマンセーターを着て、学校のダサいコートを着て出発する。ピアノの鍵盤の模様のトートバッグに楽譜を入れている。このバッグ、ピアノのドラマでダメダメな女の子が持っていたバッグを真似て、母様が作って
くれたの。可愛らしい。
会場は、品川というより高輪台駅に近いんだけど、品川駅の西口から、西へ向かって坂道を登っていった先にあるの。もう、大勢のファンの人たちが、入り待ちをしていた。私は、目立たないように下を向いていたんだけど、黒い眼帯が目印らしく、直ぐにバレてしまったの。ガードマンさんと、『シルバー・プリンセス』親衛隊の方達が阻止してくれたので、大きな混乱もなかったけど、毎回、同じような騒ぎを起こしているみたい。
既に、公演は始まっているんだけど、私達の出番は、午後4時からだから、時間の余裕は十分だと思う。
最初の方の人達は、15分枠で、15時までに8組が出演するの。次の2組が、30分枠で、最後の私達は1時間の演奏時間だ。楽屋には、ファンの差し入れのお菓子やチョコレートが山盛りだった。ケーキなどの生ものは、お返ししているので、メインがクッキーやチョコだった。
私は、バクバク食べていたら、マコちゃんが、『そんなに食べて太らないの?』と、不思議がられた。そう言えば、どんなに食べても太ると言うことはなかった。お正月のお雑煮だって、お餅を4個入れてもらっていたし、平素もバターたっぷりの料理が多い。
きっと、肥満要素が遺伝子から欠落しているのだろう。元の世界の母様も、こちらの国の母様もナイスバディだけど、痩せ気味なくらいだ。
マコちゃんだって、少しぽっちゃりしているが、太っていると言うほどではない。マコちゃんが言うには、マコちゃんのママが結構太っているそうだ。それで、気を付けているんだけど、少し油断をすると、直ぐに2〜3キロ太ってしまうそうだ。
サヤちゃんが、急にお化粧を始めた。え、お化粧?今まで、していなかったのに。え、してたの。目立たないようにしていたらしい。今日は、新しく買ったマスカラとリップスティックを試すそうだ。
キョウちゃんとマコちゃんも、バッグからお化粧品ポーチを出してきた。へえ、みんな持っているんだ。全く何もしないスッピンは私だけだった。
基本的に、お化粧はしない。まだ、7歳児だし、お化粧なんかしたいと思ったこともない。サヤちゃんが、
「麻里亜ちゃんは、肌も綺麗だし、睫毛も長いし、お化粧なんか必要ないわよね。」
と言われたが、基本的にお化粧の匂いが嫌いだし、口紅なんか、美味しくないから絶対嫌。それに、いつもピアノの方ばかり向いているから、お客さんの方を向くことが少ないの。まあ、自分の性格も邪魔しているんだけど。
いよいよ私達の順番になった。ステージに向かう。薄暗いステージで位置に付く。勿論、私はピアノの前に座る。
3人の内のセンターはサヤちゃんだ。これは、CDを買ったファンだけが投票できるファン投票の結果だそうだ。CDの中に入っている二次元バーコードで、1度だけログインできるサイトがあり、そこで4人の内、誰が押しかを投票するらしいのだ。
本当は、私がダントツ1位なのだが、ピアノを弾くので、センター争いには影響しないみたい。このシステム、どこかで聞いたことがあるんですけど。
演奏が始まった。暗い中、ピアノの前奏が始まる。私にスポットライトが照らされる。暗い中、色とりどりのキンブレが揺れている。バイオリンとビオラの演奏が始まる。
『三日月』
だ。このテーマは、いろいろなアーティストが作っているが、勿論、オリジナル曲だ。つい、最近CDシングルがリリースしたばかりだ。
私のソロパートから入っていく。16小節目からサヤちゃん達の歌も入って来る。もう会場内は、完全に『シルバー・プリンセス』モードだ。
曲が終わったら、挨拶とメンバー紹介だ。会場の皆は、メンバーを十分すぎるほど知っているが、紹介された時に、押しのファン達が、目一杯拍手してくれるので、欠かせないセレモニーなのだ。
この日、オリジナル曲5曲、スタンダード曲3曲を歌い、最後に協奏曲を1曲演奏して終わった。ヨハン・ゼバスティアン・バッハが作曲した
『管弦楽組曲第3番ニ長調 BWV1068』曲中のアリアを、ヴァイオリニストのアウグスト・ウィルヘルミがピアノ伴奏付きのヴァイオリン独奏のために編曲したものだ。それをチェロを入れた3重奏に編曲している。この曲って、ヴァイオリンの4本ある弦のうち最低音の弦、G線のみで演奏できることに由来する。
ショパンの『黒鍵』みたい。他の3本の弦がかわいそう。勿論、アレンジして全ての弦を使っているけど。
アンコールでは、昨日作った最新曲を披露する。初演奏だったがうまく歌えたようだ。
楽屋に戻ったら、米良さんが、15日に、税務署に行って確定申告をするようにと言われた。提出する書類は、担当の税理士さんが準備してくれている。
提出先は、住居地を管轄する税務署だが、私は、母様に任せているから関係ないと思っていた。ところが、15日には、私自身で行くようにと言われた。
絶対に無理と思ったが、その日は、テレビ取材があるそうだ。確定申告の広報活動の一環として、協力して貰いたいと杉並税務署から要請が来たらしいのだ。
米良さんも一緒に行ってくれるそうなので、まあ、いいかと言うことになった。
皆は、『シルバープリンセス』としての活動報酬と、CDの売り上げ、それに写真集やグッズの売り上げから、必要経費を引いたものが収入だ。ざっと2000万円を軽くオーバーするそうだ。でも、税金で大分持っていかれそうだ。
私は、著作権料や、単独CDの売り上げもあり、元々の契約形態が違うので、かなりの年収があったらしい。税金を引かれても、1億円以上は残るようだ。でも、欲しいものもないし、母様に管理してもらっているので、あまり興味がなかった。
とにかく、15日は、税務署に行こう。
マリアちゃんは、高額所得者です。




