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第9話 初めての演奏会

 マリアちゃん、劍術だけでなく絵画とピアノもチートです。

(9月3日です。)

  今日は、父様の誕生日だ。皇居参賀は、父様とシェル母様、それにエーデルおば様達が、お城の3階ののベランダに出て、帝国臣民の万歳を受けるのだ。


  しかし、マリアちゃんは、全く関係が無かった。母様も関係がないみたいだった。夕方は、宮中晩餐会が開かれ、全国の貴族や偉い人達が、夫婦で集まるのだが、マリアちゃんと母様には、これも関係なかった。


  宮中行事のほとんどは、成人皇族つまり15歳以上の皇族だけの参加とされているからだった。母様は、成人皇族の筈なのに、大人の事情で参加しないらしい。母様は、そんな時も、いつもニコニコしている。


  そんなことより、マリアちゃんの毎日は、急に忙しくなって来た。朝5時、まだ暗い内からの剣道の型の練習と魔法の練習。


  幼稚園でのお絵描きと、簡単な算数。お城に帰ると、月曜日と木曜日は、ピアノのお稽古。火曜日と金曜日は帝国ゴロタ大学付属中学の受験勉強だ。


  後、毎週、水曜日はカテリーナさんが来て、絵を教えてくれる。シンシアちゃんも一緒なので、一緒にお夕飯を食べて、後はゲームだ。


  この日以外は、ピアノの練習だ。ハノンを2時間、みっちりやる。マリアちゃん、この練習はちっとも辛く無かった。基本的に、同じことを繰り返しているのは、楽しかった。無心になって集中できるのだ。


  土曜日は、午前中に明鏡止水流の道場に行って、剣道のお稽古。午後からはタイタン市の孤児院に行って、皆でお歌の練習だ。


  マリアちゃんのために、孤児院にアップライトのピアノを寄付したそうだ。3本の音叉が交わっている印がついていて、240万ギルと格安だったが、音質はスタインウエイさんの作ったアップライトピアノと遜色が無かった。


  日曜日は、ゼロス教の聖堂に行って、ミサを受け、お昼は、片野フルーツパーラーでフルーツ・パンケーキを食べるのだ。


  日曜日の午後は、教会の隣の孤児院で、小さな子達と一緒に遊んであげる。マリアちゃんの1週間はあっという間に過ぎてしまうのだった。


  ピアノもだいぶ上達した。やはりハノンで、基本に忠実に、練習を重ねたおかげだった。この調子なら、バイエル卒業も遠くないだろう。


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(11月3日です。)

  今日は、母様のお誕生日だ。でも特別のお祝いはしない。皆もそれが普通みたいだ。でも、一昨日のエーデルおば様のお誕生日には、皆がお祝いしてプレゼントをあげたりしていたのに、どうして、母様は違うのだろう。可哀想な母様。


  マリアちゃんは、母様に絵をプレゼントしてあげる事にした。最近カテリーナおば様から習っている水彩画だ。絵具を水で解いて、下書きの上から塗っていく。


  絵具が乾かないうちに他の絵具を重ねると、滲んでしまって失敗するのだ。絵具が乾く時間に、次の色を色々と作るのも好きだけど、ちょっとだけズルをする。右手に火魔法、左手で風魔法を出して乾かすのだ。


  あっという間に乾いてしまう。母様の綺麗な瞳とスーッと通っている鼻筋、明るくて綺麗な赤色の髪、とても綺麗だった。お気に入りの暖炉の前に座って貰う。細くて綺麗な脚もキチンと描かなくっちゃ。


  もう2週間くらいかけて書いている。デッサン帳には色々な構図のデッサンが一杯だ。あ、色見本を塗った帳面だって、もうなくなりかけていた。


  時々、母様に暖炉の前に座って貰って確認しているんだけど、絵具を塗るのって、とても難しい。近くで見ると、キチンと描けていても、離れてみると、イメージと違う色になってしまう。


  でも、やっと完成したので、今日、母様と画材屋さんに行って額縁を買いに行った。あまりゴテゴテしないシンプルなものにしてもらった。


  この絵は、広間の暖炉の上に飾ってもらうつもりだ。


  今月末、音楽大学のホールで演奏会がある。マリアちゃんも、先生の紹介で1曲だけ弾く事になっている。大勢の人の前で弾くなんて、絶対に無理だと母様に言ったら、会場は暗いし、ピアノの鍵盤だけ見ていれば大丈夫と言って、励ましにならない励ましを貰った。


  演奏曲は、ショパンのノクターン9番だ。マリアちゃんのレベルでは、かなり難易度が高いが、絶対に無理というレベルでもない。


  それからは、ずっと練習だった。ドミノねえ様のレコードを何回も聴いて、自分で、できる限りの音を出そうと挑戦してみた。


  この曲は、情緒とロマンに満ちた主旋律が、美しい曲だ。中間部の変ニ長調は、指の幅一杯の左手の伴奏の上に、右手が1オクターブの旋律を奏でている。左手の伴奏が、まだ幼児の手では難しいので、マリアちゃんは少しズルをした。どうしても届かないところは『念動』で鍵盤を叩くのだ。技術的な課題は、これでクリアした。左手の伴奏音を確実にとらえることができた。後は、ドミノねえ様に聞いて貰う事にした。


  ドミノねえ様が土曜日に一人でお城に来た。フェルマー兄様は、一人でダンジョンに行くそうだ。何でも、ドミノねえ様の左手薬指の水色の宝石の指輪を買ったおかげで、お金が必要になったらしい。


  ドミノねえ様の指輪、本当に綺麗。マリアちゃんは、ウットリとドミノねえ様の指を見ていた。


  ドミノねえ様から、ノクターンを引くように言われた。マリアちゃん、いつもの様に弾いてみる。


  弾き終わったら、ドミノねえ様が、ドミノちゃんの左手を持って、小指を低音部のドに当てている。


  「マリアちゃん、思いっきり指を広げてみて。」


  マリアちゃん、思いっきり指を広げたが、1オクターブには届かず、ラの鍵盤にやっと親指が掛かるくらいにしか広がらない。


  「マリアちゃん、左手はどうやって弾いたの?」


  マリアちゃん、顔を真っ赤にして、下を向いている。何も言えなかった。


  「別に怒ってなんかいないから、本当の事を教えて。」


  「頭で弾くの。」


  「え?」


  「頭で考えて弾くの。」


  ドミノねえ様が、もう一度マリアちゃんに弾かせてみる。左手をじっと見ていた。左手の親指はキチンと弾いているが、小指は、時々遊んでいる。しかし、鍵盤が自動で叩かれて、力強い音を奏でていた。


  ドミノねえ様は、深いため息を付いていた。


  「ドミノちゃん、あなた、いつから、そんなことが出来たの?」


  黙っている。ドミノねえ様は、絶対怒っている。マリアちゃんは、だんだん怖くなって来た。大きな涙が、溢れて来た。


  泣きながら母様を探した。母様が、ドミノねえ様の後ろで困った顔をしている。


  「マリアちゃん、いい。ピアノは指で弾くの。指が届かない時は、音を分けてもいいから、必ず指で弾いて。分かった?」


  マリアちゃんは、ベソを掻きながら、うなずいた。音を分ける?同時に弾けない時は、曲の流れでどちらかの音を先に弾くのだ。素早く弾くと、同時に弾いたように聞こえる。


  左手だけで練習する。音が繋がらないところは、ドミノねえ様が、お手本を見せてくれた。その日は、夕食まで練習が続いた。


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  11月28日、演奏会の日だ。正確には、この音楽会は、『ゴロタ帝国音楽学院大学月例演奏会』と言うらしい。


  毎月、月末の日曜日に、学生達が、専攻の楽器を演奏したり、交響楽団を編成しての演奏など盛り沢山だった。原則は、学生に限っているが、一部、一般にも演奏の機会が与えられている。


  ほとんどは、地元の音楽学校の生徒さんか、教授の徒弟だった。マリアちゃんは、皇帝陛下の娘で、かつ5歳児がショパンを弾くと言う話題性で出演が決まったようだった。


  マリアちゃんは、母様とお揃いの薄い水色のドレスを着ている。真っ白なストッキングに真っ赤なパンプス。頭には大きな花飾りをつけて貰った。


  母親から受け継いだ水色の瞳と、父親に似た絶世美少女系の顔立ち、世の中の親達を、絶望の淵に落としてしまいかねない。


  会場は、開演前から満員だった。先生が、いつもは、今日公演する演奏者の関係者だけなので、ガラガラなんですがと言っていた。やはり、マリアちゃんが出場するのが話題になって、一般のお客さんが来場しているらしい。


  皇宮警察本部の副本部長が、忙しそうに応援要請をしている。最近、肩に背負う無線電話機が開発されて、電話と同じように使えるが、まだ生産が手作りなので、警察本部と国防軍が優先で配備されているようだ。


  マリアちゃんは、3番目だ。前の2人は高校生位のお姉さんだった。マリアちゃんが聞いたこともないような難しい曲を弾いていたが、マリアちゃんの耳には、全く入らなかった。


  母様のスカートをギュッと握っている。怖い。何でこんな事をしなければいけないの。あ、お腹も痛くなって来たかも知れない。


  自然と涙が溢れて来た。これから自分が演奏する。きっと失敗する。絶対に、左手がうまく弾けない。もう帰りたい。帰ろう。絶対に帰る。


  母様のスカートを握りながら、ゲートを開ことする。行き先は、お城の自分の部屋だ。


  その時、頭の中に父様の声が聞こえた。


  『マリア、僕だよ。ゴロタだよ。今日は、演奏会だよね。父様、お仕事で行けないけど、ちゃんと聞いているからね。』


  「父様、父様なの?何処にいるの?」


  マリアちゃん、声に出して呼びかけた。開きかけたゲートは閉じてしまった。母様が、周りを見ている。誰も気がつかなかったようだ。


  『父様は、ずっと遠くにいるんだけど、ちゃんと聞いているからね。』


  マリアちゃんの涙は止まっていた。いよいよマリアちゃんの番だ。司会の女の人が紹介してくれる。


  「次は、ショパン作ノクターン第2番、Op.9ー2。演奏は、マリア・クレスタ・タイタン王女殿下。5歳です。」


  年齢まで紹介したのはご愛嬌だが、紹介された後、母様に押されてピアノの方に向かった。物凄い拍手だったが、マリアちゃんは、もう気にならない。


  『父様が聞いている。父様が聞いている。』


  それだけが、頭の中で繰り返されている。


  椅子に座るために、踏み台がセットされている。椅子によじ登って座る。後ろから熊さんパンツが見えたかも知れないが、気にしない。


  ピアノの鍵盤に正対する。前を向くと、ドミノねえ様が向こう側の袖に立っていた。


  『弾いてごらん。』


  また、父様の声だ。ドミノちゃん、最初の右手の主旋律から入る。入りは完璧だった。問題の左手もキチンと弾けている。


  決して超絶でも何でもない。だが、音が皆の心に染み入ってくる。途中、低音部の伴奏が途切れてしまうが、それほど気にならない。


  右手の力強く、そして華美な主旋律が美しい。会場にいる皆が、聞き入っている。


  演奏が終わった。万雷の拍手だ。技術的には稚拙だったろうが、表現力に常人を超える何かを感じたのだった。


  終わったら、挨拶もせずに母様の方へ走って逃げていく。仕方がないので、母様がマリアちゃんと一緒に舞台の袖に出て深いお辞儀をした。


  会場の男性陣は、噂の『クレスタの宮陛下』を見ることが出来て、さらに大きな拍手をしている。その美貌は他の宮様を圧倒しているとの噂だが、皇居参賀にも現れず、謎の宮様だったのだ。


  演奏会が終わった。お城に戻ると、今日はパーティーだそうだ。父様が、お城にいたので、お礼を言うと、黙ってニコニコしていた。今日は、お仕事だったはずなのに、何故お城にいるんだろう?


  パーティーの前、父様は自分の部屋に行って、すぐに戻って来た。エーデルおば様を始め、皆とお帰りのキスをしている。だって、今までここにいたでしょ。


  いつも疑問に思うのだが、誰も教えてくれない。今度も母様とは、お帰りのキスが無かった。


  最後に、父様が私を抱き上げた。身長が190センチ以上もある父様に抱き上げられると、本当に高い。皆が、うんと下に見える。私も、父様のほっぺにお帰りのチュウをした。


  今日のご褒美に、父様から短剣をプレゼントされた。東の島国で製作されたものらしい。


  とても綺麗。真っ白い革で包まれている鞘には、金色の金属で唐草模様が貼られている。


  柄は、真っ赤なザラザラした皮が巻かれていて、手で握りやすいように、小さなデコボコが付いている。柄の先には、ワンドと同じ石が嵌められていた。


  手を切らないように、気を付けて抜いてみると、少し赤みがかった長さ40センチ位の刃体が現れた。ものすごく綺麗。父様が、絶対に幼稚園には持っていかないようにと、注意していたが、マリアちゃんは、嬉しさのあまり、あまり良く聞いていなかった。

  ショパンのノクターン、映画『愛情物語』が有名ですが、とても綺麗な曲です。

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