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第76話 グールを殲滅します。

 久しぶりの戦闘です。

(1月9日です。)

  今日から、3学期だ。芸大附属高校は前期、後期制を取っているので、3学期では無いのだが、便宜上そう呼んでいる。まあ、特に何かあるわけでは無いが、全校集会がある。3年生は大学受験が控えているので、半分位しか出席しない。元々120名位しかいないのが、更に少なくなっている。今日は、この冬休み中の課題確認だ。もう、いつもと変わらないモードだった。


  私の課題は、ベートーベンのピアノソナタだった。


  ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 作品27ー2『幻想曲風ソナタ』


  別名『月光ソナタ』だ。この愛称は、ドイツの音楽評論家であるレルシュタープさんが、ベートーヴェンの死後に『スイスのルツェルン湖の月光の波に揺らぐ小舟のよう』だと評価したことに由来している。


  曲は超有名な第1楽章、かなり早い速度の第2楽章、超絶技法に近い第3楽章となっており、体力が要求される曲となっている。


  去年のうちに暗譜と通しの演奏が終わっていたので、課題確認は問題なく終わった。


  今度は、シューマンのピアノソナタだそうだ。


  ロベルト・シューマン:ピアノソナタ第3番ヘ短調 作品14


  かなり難易度が高いが、恵美先生が、1週間で完成させるようにと無茶振りしてきた。え?1週間?


  1か月の間違いでは有りませんか?この曲は、第4楽章まであり。30分以上を要する大作だ。それを1週間なんて、無理とは言わないが、絶対に苛めだ。


  でも、恵美先生から132ページもある楽譜を渡され、初見試奏をしてみると、結構弾けるみたい。どんどんページをめくって弾いてみた。


  ハッと気がついたら、恵美先生がジト目で私をみている。


  「マリアちゃん、あなた、この曲知っていた?」


  首を横に振る。


  「じゃあ、聞いたことがあるの?」


  また、首を横に振る。


  「じゃあね、この曲、今のところまでもう一度弾いてみてくれる?」


 恵美先生が、ピアノの譜面台に広げている楽譜を取り上げた。しょうがないので、さっきみた楽譜と音を思い出しながら暗譜で弾いてみる。技術的には、それほど難しい曲ではない。何度か間違えたが、取り敢えず、さっきの所まで弾いてみた。


  「今日は、これで良いわ。後は、自習よ。」


  やった。自習だ。恵美先生が教室を出ていったので、まずハノンを練習する。132拍の速度で弾き始める。60番までやってから、148拍で繰り返してみる。


  何も考えずに、ハノンを弾くのは、剣の無我の境地に似ている。冬だというのに、汗ばんでくる。


  練習が終わってから、帰ろうとしたらミズハちゃんが来ていた。彼女の教室は隣なので、よく一緒に帰ることがある。


  「マリアちゃん、あなた本当にハノンが好きね。一体、何回弾いたの?」


  何回弾いたか覚えていないので、黙っていた。今日は、サヤちゃん達は弦楽四重奏の練習で遅くなるそうだ。


  ミズハちゃんは、横浜に住んでいるので、上野から1本で帰るのだ。


  私は、ミズハちゃんと二人で帰るときは、上野駅経由で帰ることにしている。夕方4時過ぎになると、上野駅公園内も人通りが少なくなってくるので、結構怪しい人たちも増えてくる。


  今日は、怪しい人どころか、絶対に会いたくない連中がいた。外見は、少し汚い浮浪者風だが、匂いは間違いなく魔物だ。強い血の匂い。真っ赤に充血している目。ニヤリと笑った口から異様に尖っている犬歯。


 バンパイアとも違う。なんだ、奴らは。ミズハちゃんは、彼らの異様さに気が付いたみたいで、後退りをし始めた。私は、ミズハちゃんを掴まえて抑えた。後ろにも、彼らの仲間の気配がしていたからだ。


  周りを見たが、一般の通行人はいないようだった。というか、奴らを避けて近づかないようだった。種別は分からないが、奴らは後ろの連中も含めて、15〜6人はいるようだった。


  このまま逃してくれないかなと思って、脇をすり抜けようとしたが、前に立ちはだかって、通そうとはしてくれないようだ。そして、驚いた事に奴らのうちの一人が話しかけてきたのだ。


  「お嬢ちゃん、学校の帰りかい。美味しいものをご馳走してあげようか。」


  そいつは、奴らの中でもまともな服装をしている。分厚いダウンコートには、汚れはなかった。でも、血の匂いが強い。バンパイアかも知れない。でも15人以上もバンパイアが群れるなんて聞いたことがない。


  「バンパイア?」


  「え、失礼だな。あんな血だけを求める色情狂とは違うよ。僕達は、人間だよ。」


  あ、思い出した。彼らは食人種、いや食屍鬼だ。向こうでは『グール』と呼ばれている。魔法は使わないが、並外れた運動能力と蘇生能力を持っている。


  ミズハちゃんと一緒では、非常に分が悪い。それに、学校の制服を着たまま、戦闘はしたくない。これで銀仮面が芸大附属高校の女生徒だとバレると、絶対に素性がバレてしまう。


  「逃げよう!」


  私は、ミズハちゃんの手を取って、不忍池の方に走り始めた。奴らも追いかけてきたが、ミズハちゃんを連れてでは、絶対に逃げきれない。


  不忍池に降りる小道の脇のトイレの陰に逃げ込んだ。そこは、さっきまでピアノを弾いていた学校の教室だった。


  吃驚して声も出ないミズハちゃんの前で、銀仮面の衣装に着替えた。『空間転移』がバレたんだ。私が銀仮面だってバレるのも時間の問題だ。


  最後に、口に指を当てて『内緒』のサインをしてから、銀仮面を被った。そのまま上野公園の上空に『空間転移』する。下ではグールどもが私たちを探していた。


  まず、五寸釘を10本、上空から発射する。彼らはアンデッドではないので、聖なる力を使わずに、火属性の魔力を込めた五寸釘だ。5人に2本ずつ打ち込んだが、貫通した穴から煙が立ち上っても、平気そうだった。


  ゆっくり地上に降りてゆく。空中の銀仮面に気がついた通行人達が、スマホを隠しながら逃げ出してゆく。銀仮面が現れる、魔物が襲ってくる、スマホのデータ消去と言う過去の結果が浸透しているみたいだった。


  地上に降り立った途端、グール2人が飛びかかってきた。早い。私は『瞬動』で10mほど下がって、クルクルステッキを取り出した。このステッキ、安芸首相から貰ったものだが、チタン製で凄く軽いが、硬くて丈夫だ。


  ステッキの根元部分から先端部分に向けて、秒速800m位で、陽電荷を走らせる。その上に負電荷を帯びたメタルワッシャーを乗せる。


  電磁誘導の原理で秒速800mでメタルワッシャーが飛び出してゆく。人間の肉眼では追い切れない。


  急加速したので、空気が圧縮され物凄い音がするが、メタルワッシャーは、あまりの速さで見ることはできない。


  銃弾の倍の速さだ。エネルギーが凄まじい。肩に当たったグールは、腕ごと吹き飛ばされてしまう。グール達の後ろには、シールドを張っておく。メタルワッシャーが通り抜けていくのを止めるのと、グール達の逃走防止だ。


  肩から腕にかけて無くしたグールは、それでも速度を失わずに襲いかかってくる。なんてタフだろう。


  私は、地上10mまで浮上すると、次々とメタルワッシャーを打ち出す。周りには水蒸気の湯気が立ち込める。あまりの速度なので、空気摩擦で熱を持ってきたのだ。湯気の中を、白い閃光がグールを貫いてゆく。


  命中すると、高エネルギーが放出されるため、大きく体の部位が蒸発してしまう。頭とお腹に当たると、手足しか残らない。いかに蘇生能力が高いグールといえ言えども、頭と胴体が無ければ生きてはいられない。


  もう、それからは殲滅ショーだった。通報を受けて駆けつけてきた上野警察署の警察官達は、遠巻きで見ているだけだった。


  ほぼ殲滅した後、最後の一人は異次元クロークに収納して、そのまま上昇を始めた。高度1万mまで上昇してから、学校のピアノ教室に戻った。ミズハちゃんが不安そうに待っていた。


  元の学生服に着替えてから、二人で帰る事にした。今日は、鶯谷駅から帰ろう。学校を出たところで、父様からライン電話が入ってきた。


  私が、『今日の相手はグールで15人を殲滅し、1人は捕獲していること』を伝えたら、また電話すると言って、電話が切れた。それを聞いていたミズハちゃんが、『グールってなあに?』と聞いてきたので、インド神話に伝わる食神鬼で、不死ではないが、なかなか死なない魔物だと教えてあげた。


  ミズハちゃん、この前の事件から薄々、私が銀仮面ではないかと気付いていたみたいで、その事には触れて来なかった。


  サヤちゃんからラインが入った。


  『マリアちゃん、頑張ったね。』


  マリアちゃん達とは、『銀仮面』と言うワードはタブーにしている。ラインといえども、誰かに覗かれないとは限らないからだ。ミズハちゃんとは、鶯谷駅で別れ、山手線で高田馬場に向かったが、途中で電車が止まってしまった。


  アナウンスでは、上野駅で、人が線路に入ったらしい。嫌な予感がする。父様からライン電話が入った。上野公園に、グールが1人、生き残っていて警察官が同行しようとしたら、警察官2人の首をちぎって逃れたそうだ。拳銃発砲したが、全く効果がなく上野駅のホームに逃げたとのことだった。


  おかしい。すべて殲滅したのに。きっと、あのときその場にいなかったのだろう。あのパワーと不死身ぶりでは、常人の警察官では拘束することは不可能だろう。


  そのグールは、JRの線路上を御徒町方面に走って逃げているらしいが、警察官が追いかけても全く追いつかなかったらしい。


  私は、今は動きが取れない。夕方の通勤時間の満員電車の中だ。次の駅に着くまで待つしかない。でも、全然動く気配が無かった。先の池袋駅にも電車が止まっていて、前に進めないらしい。私は、悪いと思ったがドアの緊急脱出レバーを『念動』で回した。これでドアは手で開けられる。乗客達は、我先に電車から降り始めた。ここは、大塚駅を出てすぐの場所だったので、大塚駅に方に向かって、歩き始めた。車掌さんが、『危険だから車外に出ないでください。』と放送していたが、誰も言うことを聞かなかった。


  大塚駅から、駅員さん達が迎えに来ていた。私は、皆の列に紛れて線路を歩き、駅のトイレに入って行った。トイレの個室から、自宅の自室に転移し、そこで着替えてから、御徒町の上空に転移した。


  眼下では壮絶な光景が広がっている。血まみれのグール1人を警官隊が囲んでいる。ホームの周辺には警察官や一般人の死体が散乱していた。


  私は、ショートソードを抜いて、そいつのそばに着地した。『念動』で、そいつの足を線路の砂利に埋めている。そいつは必死に動かそうとしていたが、全く動くことができないでいる。


  私は、ショートソードに炎の力を込めた。切っても出血はしないだろう。グールは、恐怖を真っ赤な目に宿して逃げようとしている。ショートソードを左右に2閃光した。首と胴体が両断された。流石にもう蘇生はできないだろう。


  私は、半径500mの範囲で、電磁波パルスを5秒間流した後で、空中に飛び上がった。これでスマホ映像は消去されたろう。ほぼ音速で上昇し、高度1万mで、自分の部屋に転移した。

相変わらずのチートぶりでした。ミズハちゃんにも銀仮面がバレてしまいました。

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