第6話 森の魔物
マリアちゃんは、怖いもの知らずです。怖い物知らずというか、怖い物がありません。怖いのは、人間だけです。
(8月10日です。)
今日も、マリアちゃんは孤児院で遊んでいる。どうやら小さな子となら、ある程度は意思疎通ができるみたいだ。子供達も綺麗なお姉ちゃんが、遊んでくれるのが楽しいらしい。
皆、『マリアちゃん』と呼んでくれている。マリアちゃんは、必ず『はーい!』とご返事をしている。
たった、それだけで子供達は喜んでいる。何が楽しいのか、シスター達にはちっとも分からなかった。
今日、クルス君は、森の方に採集に行っている。シスターからは、絶対に森の中に入らないように注意されていたので、森の手前で、夏スグリと木イチゴの採集に行っているのだ。森の中なら、高価な薬草も見つかるのだが、今日は諦めて、安い果実採集だ。
夕方6時になっても、クルス君は帰って来なかった。心配になったシスターが、警察署に届け出たのだが、マリアちゃんを離宮まで送る子がいなかった。
もう外は暗かったが、ゴーレム兵士がいれば何も問題はない。マリアちゃんは、『もう帰る。』というメモを残して、シスターが目を離した隙に孤児院を出てしまった。
いつもはゴーレム兵士は、マリアちゃんの後ろに付いてくるのだが、今日は先に歩いている。フォーメーションも、いつもと違い、3列のクサビ隊形だ。それに『M16』を背中から外して、いつでも撃てるようにしている。でも銃口は、45度下を向けていた。
マリアちゃんは、ライティングで、夜道を明るくする。街外れから1キロ位進んだところで、隊列が右に方向変換をした。マリアちゃんは、何も命令していない。
10分位進んだ所で、ゴーレム兵達が散開した。原っぱの真ん中に、大きな欅の木が1本生えている。その周りの背の高い草が揺れている。マリアちゃんは、顔をしかめた。変な匂い、いや、とても嫌な匂いがする。今まで、嗅いだ事のない匂いだった。
欅の木に近づくと、木の上から声が聞こえた。クルス君の声だ。
「マリアちゃん、こっちに来てはダメ!ゴブリンどもがいる。」
マリアちゃんには、何の事か分からなかった。『ゴブリン』って何?見たことも、聞いたこともない。
そう思っていたら、草の中から、変な生き物が出て来た。背丈は、ゴーレム兵士と同じくらいだが、頭が異様に大きく、唇の下側から牙が飛び出ている。
一番変わっているのは、皮膚の色だ。暗い緑色なのだ。腰の周りに粗末な布を巻いていたが、マリアちゃんを見つけてから、変なものが立っていた。勿論、マリアちゃんには、それが何か分からない。
ゴブリンは、4体だった。マリアちゃんの方へ、全員が向かってくる。基本的に、ゴブリンは食欲よりも性欲に支配され行動する。木の上の、手の届かないクルス君よりも、地上のマリアちゃんに襲いかかるのはゴブリンの本能だ。
後、少しでマリアちゃんに届くという時、ゴーレム兵の『M16』から発射された3.8ミリ弾の一斉掃射を受けてしまった。内臓に当たった弾丸は、貫通してしまったが、頭蓋骨の中では、脳を破壊していた。
一瞬で、ゴブリン4体が殲滅された。辺りには、硝煙と血と魔物の匂いが立ち込めている。ゴーレム兵達は、周囲に対する警戒をする隊形を保っている。
マリアちゃんは、クルス君の下まで行った。クルス君、今回も漏らしていた。しかし、2回目だし、恥ずかしいよりも命が助かった嬉しさで、マリアちゃんに声を掛けた。
「マリアちゃん、有難う。僕、大丈夫だから、誰か大人の人を呼んでくれないかな。僕、ここから降りられないんだ。」
きっと登る時は、必死に登ったのだろうが、気がついたら降りられない場所だったのだろう。
これから、大人を呼んできたら、もう暗くなってしまう。それに、街に戻っても、助けを求めることなど、マリアちゃんにできる訳が無かった。
マリアちゃんは、手に持っていたワンドを、クルス君に向けた。クルス君は、自分の体重が感じられなくなった。宙に浮かんでいるのだ。
そのまま、ゆっくりと地上に降りてしまった。
「すげー、マリアちゃん、魔法が使えるんだ。」
マリアちゃん、何も言わずに、通りに向けて歩き始めた。ゴーレム兵が、前に4体、後方に6体で警戒している。クルス君、マリアちゃんの後に付いていく。
結局、離宮に戻ったのは7時近かった。もう真っ暗だったが、ライティングの光が見えたのか、母様と警察署長さんが迎えに来ていた。
既にシスターが離宮に来ていたのだ。クレスタ母様が、警察署と孤児院に連絡し、ゲートを使って警察署長が来ていたのだ。
シャワーを浴びて、ズボンを履き替えたクルス君が、後から来たシスターにしこたま怒られていたが、クルス君は、決して森の中に入った訳ではなかった。ゴブリンどもは、草原の、草深い所に潜んでいたみたいだ。
どうも北の森がおかしい。北の森のダンジョンは、最近、フェルマー王子やシルフさんが入らなくなったので、魔物が増えているのかも知れない。
魔物が増えると、弱い魔物は餌になるか、ダンジョンの外に餌を探しに行かなければならない。そうすると、森の獣やゴブリンなどの最弱魔物が森から出てくるのだ。
母様は、明日、ギルドに行って、ダンジョンを攻略する予定だと言った。シルフさんとフェルマー王子も来るように連絡したが、フェルマー王子は、学校の夏季合宿で来られないそうだ。シルフさんも、忙しくて来られないとの事だった。
マリアちゃん、自分もダンジョンに行ってみたいと我儘を言い始めた。母様は、『絶対にダメだ。』と言っていたが、マリアちゃんが、余りにも駄々をこねるので、シェル母様に聞いてみる事になった。
母様は、寝室に行って、暫く戻って来なかった。寝室から戻ってきた母様が、驚くべきことを言った。明日、父様がここに来るそうだ。父様と一緒にダンジョンに潜ることになった。
次の日、朝早く起き出したら、もう父様は大広間にいた。シェル母様も一緒だった。二人は、ニコニコして、マリアちゃんのほっぺにキスしてくれた。
父様は、既に冒険者服を着ていた。今日は、母様と一緒にダンジョンに潜るのだ。シェル母様は、警察官や国防軍兵士を指揮して、北の森の浄化作戦だそうだ。
マリアちゃんは、子供用の冒険者服上下を着せられた。朝食後、ハッシュタウンにある冒険者ギルドに行ってみる。マリアちゃんにとっては、生まれて初めての冒険者ギルドだった。ギルドを入ると、中学生くらいのお兄ちゃん、お姉ちゃん達が一杯いた。荷物運びのアルバイトをしている。以前は、10歳からだったが、今は、小学校を卒業しなければ従事できないし、ギルドの認定を受けなければならない。冒険者パーティーの要求書を検討して、最適なポーターを斡旋するし、それぞれに搬送できる荷物の重量が決められているので、以前のように自分の何倍も大きな荷物を運ばされる事は無くなった。
もう、マリアちゃん、下を向いて真っ赤になっている。母様のスカートの端をギュッと握りしめている。
ギルドに併設されているレストランは、分厚い扉の向こうにあり、18歳にならないと入れない。その代わり、受付の脇に軽食の店ができていて、サンドイッチやパスタを食べさせてくれる。
父様が入っていくと、ギルドの職員が、皆、立ち上がって直立している。奥から、女の人が走り出てくる。昔の母様の、仲間だった人だそうだ。
奥にあるその女の人の部屋に、3人で入っていく。ギルドの男の人達が、何か分からない機械を運び込んでいた。父様が、マリアちゃんを呼ぶ。
「マリア、こっちに来てごらん。」
おずおずと、父様の側による。何か怖い。
「さあ、大丈夫だから手を出してごらん。」
右手に握りしめていたワンドを、持ち替え、右手を差し出す。父様が、右手首を握って、機械の真ん中に開いている穴に入れた。
「さあ、手を広げてごらん。」
マリアちゃん、ゆっくり手を広げる。親指に何かが刺さった。『チクン』とする。思わず手を引っ込めようとするが、父様が離してくれなかった。
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【ユニーク情報】
名前:マリア・クレスタ・タイタン
種族:人間族らしい
生年月日:王国歴2028年7月9日(5歳)
性別:女
父の種族:全てを統べる者
母の種族:人間族
職業:皇族
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【能力】
レベル 2
体力 400
魔力 7600
スキル 680
攻撃力 5
防御力 10
俊敏性 120
魔法適性 火 風 水 土 雷 聖 闇 光 星
固有スキル
【念動】【念話】【空間転移】【治癒】【復元】【練成×】【飛翔×】【威嚇×】【瞬動×】【調教×】【料理×】【魅了×】
習得魔術 『ファイア』 『ウインド』 『サンダー』 『フリーズ』
習得武技 なし
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父様は、絶句していたみたいだ。母様の目が、妖しく光っていた。時々、母様の目って、ほんの少しだけ光るんだけど、皆、そんなもんだと思っているマリアちゃんだった。
これからダンジョンに行くのだが、父様が、『絶対に魔法を使ってはいけない。』と言っていた。魔法を使うと、とてもまずい事が起きるらしい。
ダンジョンまで『空間転移』した。マリアちゃんもできるのだが、内緒にしていた。でも今日、使えることがバレてしまった。
父様が、マリアちゃんの頭の中に話しかけてくる。
『ダンジョンは、危険が一杯だから、父様の後ろから出るんじゃないよ。』
『うん、大丈夫。心配しないで。』
『念話』の会話は、とっても楽だった。考えただけで、言葉にしなくても通じるのだ。母様も使えるようだけど、父様とはちょっと違うみたい。父様のは、頭の中に、言葉が浮かんでくる感じなんだけど、母様のは、頭の中で囁いている感じ。なぜかは、分からなかった。
マリアちゃんは、ダンジョンの中が嫌いだった。興味本位で行きたいと言ったが、実際に来てみると、匂いが我慢出来なかった。血と獣と腐臭が混じった匂いがする。地下3階まで行ったら、もう帰りたかった。
父様が、察してくれて、直ぐに離宮に連れ戻してくれた。マリアちゃんは、トイレに行って、少し戻してしまった。心配した父様が、母様を呼ぼうかと言ってくれたが、大丈夫と言って、ニッコリ笑ってあげた。
マリアちゃんの初ダンジョンは、マリアちゃんの1敗で終わってしまった。
あらあら、せっかくダンジョンに潜ったのに、残念でした。マリアちゃんの能力、とんでもない数値が出ています。あの災厄の神レベルです。いや、それ以上のようです。




