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第52話 新しいお家は、パワースポット

  蛇は神の使いと言われますが、下級の神様に列せられています。

(4月10日です。)

  今日は、日曜日。皆で、杉並区の北東部に位置する下井草の駅の近くに行く。実は、父様が新しい家を建てたいと考え、適当な物件を探していたのだ。今の家でも、十分なのだが、私のために大きなグランドピアノを買いたいそうだ。そのためには、今の家よりも大きな土地が必要だったのだ。


  希望は、土地が50坪以上で3階建てが建てられる事。後、南側道路が希望だそうだ。


  依頼していた条件に合致する物件が見つかったそうなので、今日、皆で見に行くことにした。今の家からも歩いて行けるので、そろって出かけてみる。


  20分位歩いたところ、その物件はあった。もう不動産屋さんが来ていた。台形の土地だったが、広さは65坪と十分だ。東隣は神社で、大きな楠の木が生えていて、朝は、日陰になってしまうそうだ。西側は駐車場なので、ピアノの騒音問題は少なさそうだ。土地には、雑木が多く植えられており、奥に小さな廃屋が立っていた。


  引き渡し時には、廃屋を撤去し綺麗に整地するそうだ。表通りからは1本下がっており、前面道路も6m以上の歩道付道路なので、環境は抜群だった。


  この辺は、今の自宅周辺よりも地価が安いようで、今の自宅を処分して購入代金に当てると、土地購入費はそれほどかからないみたいだった。


  私は、鶯谷駅まで大した時間がかからなかったので、不満はない。


  未央ちゃんも、今の中学校には自転車で通学できるし、雨の日はバスも利用できるので、特に問題ないみたいだった。


  隣の神社の中に入ってみる。それほど大きくない。『富士宮神社』という名前の神社だった。境内には、高さ6mくらいの小山が火山石を積んで作られていた。宮司さんは、隣に住んでいるみたいだ。


  この神社の中には、何も問題は無かったが、問題は、父様が購入しようとしている土地だった。怪しい。怪異の気配がある。


  私は、父様に、この物件が売り出された原因を聞くように、小声で言った。


  父様が私の言っていることを直ぐに理解したらしく、仕事モードの顔になって不動産屋さんに質問した。


  「ところで、この土地が売り出された理由は?」


  「いえ、前はおばあさん一人が住んでいたのですが、亡くなられて、それで息子さんが売りに出されたのです。」


  「ふーん、他には?」


  「他にですか。特に、ないと思いますが。」


  「本当か?」


  あ、刑事丸出し。不動産屋さん、少し震えていたが、観念したのか、正直に話した。


  「実は、良くない噂がありまして。出るんです。お化けが。」


  へ?お化け?


  お化けって、魔物のことだろうか?でも、魔物の気配は全く無い。でも、なんかいる。何だろう。直ぐには分からなかった。


  父様が『事故物件』とか何とか言って、かなり値切っていたが、私には、よく分からなかった。


  結局、相場よりもかなり安く購入できたようだ。引き渡しは、来月の日取りの良い日にした。


  でも、正式契約の前に、私が、確認しに行くことにした。父様も一緒に行くと言っていたが、心配しないでと言って、一人で行くことにした。


  午後8時、神社の境内に『空間転移』する。何も気配がない。隣の敷地に入ってみる。うん、何かいる。誰もいない家の中に、ぼんやりと灯りが浮かんでいる。


  家の中から力を感じる。何の力だろう。嫌な気はしない。でも、この力の主が、あの灯りの犯人だろう。


  取り敢えず、『聖なる力』を家の中に満たしてみる。声が聞こえてきた。『念話』だ。


  『誰じゃ。神の力を使いし者は?』


  『あなたは誰?』


  『名を訪ねしは、言霊を使いし者か。その手には乗らぬ。』


  ああ、また面倒臭い奴か。


  『じゃあ、いい。せっかく美味しいものをご馳走しようと思ったけど。帰る。』


  『何、ご馳走とな。ま、待て。名乗るから、待て。』


  うん、待とう。


  『私の名は、那岐井草山見清州命という名じゃ。一応、神仙に列せられし者じゃ。』


  『私はマリアよ。ねえ、姿を見せて。』


  ナギイグサヤマミキヨスミコさん、長い。略してナギさんが姿を現した。2m以上ある白蛇だった。


  『大きい。キモい。臭い。』


  そう言ったら、少し光って50センチ位に小さくなった。でも怒っている。


  『大きい、キモいは我慢するが、臭いとは何じゃ、臭いとは。』


  『だって生臭いし。そうだ、ちょっと待って。』


  水魔法で、シャワーを降らせる。濡れたナギさん、モゾモゾして皮を1枚脱いだ。もう匂いがしない。うん、便利だ。


  風魔法で、乾燥してから、ゲートを潜らせて自分の部屋に転移させた。クロもコンちゃんも、ナギさんを怖がっていた。クロは、意気地なしだからしょうがないが、コンちゃんは何故怖がるのかわからなかった。狐って蛇を捕食していたはずなのに。


  どうやら川の主が実体化したものは、姿は蛇でも蛇ではない。アニメ映画では、男の子の姿をしているが、ナギさんも、川に力があった頃は、人間の姿になれたらしい。


  ナギさんの根源の川は、井草川で、今は暗渠化されて雨水の放水路となっている。自然の恵みもないことから、あの社と、隣のお婆さんの家にひっそりと棲んでいたそうだ。


  取り敢えず、何か食べ物をあげることにした。お菓子の箱に入って貰って、階下に降りる。父様と母様に事情を話したら、父様がとても喜んでいた。白蛇は縁起が良いらしいのだ。


  鶏肉のササミを貰って、お箸でつまんであげたら、小さな口をいっぱいに広げて齧り付いていた。結構、可愛い。未央ちゃんも気に入ったみたいで、次々とササミをあげていた。


  気が付いたら、ナギさんが、ツチノコみたいになって動けなくなっていた。少しは、考えて食べてよ。この意地汚い馬鹿蛇。ああ、こんなのばっかりだ。


  次の日の朝、いつもの通り、5時半に起きる。すぐに顔を洗って、お弁当作りだ。今日は、ご飯と振り掛けを混ぜ合わせたものを俵形のおにぎりにする。


  海苔をハサミでチョキチョキ切って、チョッキと蝶ネクタイを作る。お顔は、明太子の口と塩昆布の目玉だ。


  隣には、砂糖たっぷりの卵焼きと、タコさんウインナー。後、昨日の残りのポテトサラダを丸くしてと。


  あ、もう入らない。後はデザートのリンゴを四つに切って、ウサギにして塩水につけてからラップで密封する。


  出来ちゃった。ついでに朝ごはんを作っちゃう。大きなハムをスライスして、ハムエッグを4人前、後はキャベツを千切りにしてお皿に盛り、きゅうりのスライスを並べて、フレンチドレッシングをかけてサラダは出来上がり。


  お味噌汁の具は、油揚げと豆腐だ。出汁の効いたお湯に具を入れ、味噌を溶いて出来上がり。味見をすると、うん、美味しい。母様が起きてきた。朝食の準備完了。


  まだ6時半だ。父様のコーヒーを煎れて、母様と私達はミルクティーを作る。


  7時になったら、未央ちゃんが起きてくる。私は、ご飯を食べ終わって、歯磨きと髪のセット。制服を着て、眼帯をしたら準備完了。家を出るのが7時20分だ。荻窪駅7時32分の東西線直通電車に乗る。高田馬場で、山手線に乗り換えると、8時9分に鶯谷駅に到着だ。結構混んでいるが、だいぶ慣れてきた。


  鶯谷駅からは歩いて 6分だが、周囲のお寺に注意して歩いているので10分位かかってしまう。25分までに学校に入らなければいけないが、十分に余裕があった。


  クラスは3階にあり、理科の実験と体育以外は移動はない。


  クラスはピアノ専攻の17名の他、ヴァイオリン専攻8名、弦楽器専攻2名、木管楽器専攻3名、金管楽器専攻3名、打楽器専攻2名、声楽専攻3名、作曲専攻2名


  以上40名で、和楽器専攻の受験者はいなかったようだ。2、3名の専攻課程なんて採算を考えたら絶対にできないが、流石、国立である。


  皆とは直ぐに仲良くなった。というか、意地悪をする人なんかいない。授業がハードで、そんな余裕が無いみたいだ。一般教科の単位をこなしながら専攻課程の時間を確保するため、始業時間も早いし、とにかく忙しい。午後の授業も専攻以外の授業がある。ピアノ専攻は合唱が必須だし、薫先生から作曲の授業も聴講する様に言われている。


  地獄だ。恵美先生のところに行って、課題曲を演奏して指導を受け、合間を見て作曲の授業にも参加する。聴音や初見視奏などのほか、課題があるので、週1回は新しい曲を作らなければならない。課外授業も含めて、午後5時まで、ビッシリだったが、特に辛くはなかった。


  その他に、毎週木曜日は、事務所指定の歌のレッスンが入っており、金曜日は歌手活動の時間も取られている。


  あ、そういえばあのCD、4月の第1週のランキングで第1位だったそうだ。CDの売り上げもそうだがダウンロード数が半端ない。やはり、アニメのエンディング・テーマになっているのが功を奏しているのだろう。でも、そのアニメ、毎週土曜日の午前1時からなので、見たことはない。


  毎週、金曜日には事務所で打ち合わせをして、日曜日には、どこかで歌を歌っている。衣装も、ピンクのひらひらしたのが多く、かなりイメージが違うのが怖いんですけど。


  5月になってから、薫先生に、作曲課程の聴講はしなくても良いと言われた。作曲の指導担当の先生から、今のところ教えることが無いとの連絡が入ったらしい。


  恵美先生とは、とても仲良くなったおかげで、歌手としての曲を聞いて貰って感想を貰っている。


  作詞の先生が創る詩は、私には分からないことが多く、曲想が思い付かない。恵美先生もあまり経験がないと言いながら、詩に書かれている状況を説明してくれた。


  恵美先生が、『自分で詩を書いてみたら?』と言ってくれた。詩なんて書いたことが無いって言ったら、楽しかったことを思い出して書いてみると簡単よと教えてくれた。


  去年の夏休み、海に行った時のことを思い出す。青い空、ずっと続く海原、熱々の砂浜。後、美味しかったイカ焼きや焼きそば。書き続けていたら、出来ちゃった。


  ♪海って大好き とっても広くて 気持ちがいい


  ♪海って大好き 熱々の砂浜 足が泣いてる


  ♪海って大好き 美味しい食べ物 イカに焼きそば とうもろこし


  ♪海って 嫌い 大切な人を 奪ってしまったから


  うん、こんなもんかな。曲をつけてみる。イ短調の曲にした。前奏もさらっと引いて、歌い始める。2回歌ってから、楽譜に書き込んでいく。当然、伴奏も書き込んでいく。


  黙って、見ていた恵美先生が、楽譜を持って、私を作曲の先生のところに連れて行った。ちょうど休憩していた先生が、恵美先生から楽譜を受け取った。じっと見ている。


  「この曲、いつ作ったの?」


  「さっき。」


  「いや、この伴奏部分も含めてなんだが。」


  「さっき。」


  「詩も手書きだが、この詩は?」


  「さっき」


  会話が成立していない。恵美先生が補足する。


  「本当にさっきなんです。詩を考えていたのですが、詩が完成したらあっという間に曲をつけてしまって。」


  完成度の高い楽譜だった。後、足りないのは2番以降の詩だった。


  これはシズちゃんに相談しよう。今度の日曜日でも会おうかな。


  

ああ、変な同居人は神様でした。

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