第5話 可哀想な子供達
今日は、マリアちゃんが孤児院に行きます。いじめっ子がいましたが、あっという間に撃退でした。
(8月2日です。)
今日も、クルス君が迎えに来た。午前7時30分には、屋敷の門に到着しているから、孤児院を出るのは午前6時半を少し過ぎた頃だろう。
母様は、クルス君を広間のソファに座らせ、メイドさんにお茶を出して貰った。マリアちゃんはなかなか起きて来ない。母様が、朝食を食べたかとクルスくんに聞いている。
クルス君は、『食べました。』と、返事をしたが、お腹がグウとなってしまった。朝6時半では、孤児院は未だ食事の準備が出来ていない。クルス君は、仕方がないので、昨日残った黒パンのカケラを齧りながら、お屋敷に向かったのだが、小さなカケラしか残っていなかったのだ。
孤児院の朝食は、当直明けのシスターと賄いのおばさん達で作るのだが、クルス君が孤児院を出発する時間位に、おばさん達が出勤してくるのだ。
母様は、笑ってマリアちゃんと一緒に朝食を取るように言ってくれた。クルス君は、顔を真っ赤にして、『ありがとうございます。』と言うのがやっとだった。
お屋敷の朝食は、どこにでもある、ありふれた物ばかりだったが、クルス君にはご馳走だった。今日のメニューは、スクランブルエッグにジャムトーストだった。それと暖かいミルクとオレンジジュースだ。
しかしクルス君には、とても美味しく感じられた。スクランブルエッグも、孤児院のものは、良く炒められていたし、量も少なかった。ここでは、バターがたっぷり効いたフワトロエッグだ。しかも、お皿が空になるとメイドさんがお代わりを聞いてくる。クルス君、顔が真っ赤にしてお代わりをお願いした。
トーストも焼き立てでバターがたっぷり塗られ、その上に苺ジャムがたっぷり掛けられている。クルス君は、3枚も食べてしまった。ホットミルクも、蜂蜜がたっぷり入っていて、美味しかったが、あまり飲むと、お腹を壊すのでお代わりはしなかった。
クルス君は、この立派なお屋敷だから、こんなご馳走を朝から食べているんだろうと思ったが、今の孤児院も、子供達には十分過ぎるくらい食事を与えていると言う事は分からないようだった。
定期的に、帝国の監督官庁である児童福祉局が視察に来るのだ。子供1人当たりの食事の量は、年齢別に細かく決められていて、成長には十分な量を与えなければ、孤児院の院長は、その職を解かれてしまうのだ。また、味も吟味され、子供が食べたがらないような食材を使う事は禁止されていた。獣のモツとか魚のハラワタなどは、どんなに調理しても、子供に与えてはならないのだ。
その代わり、ピーマンやニンジンはどんなに嫌っていても、必ず料理に添えなければならなかった。クルス君はピーマンが嫌いだったが、スクランブルエッグには、必ずスライスされたピーマンが入っていた。そのせいで、いつも残してしまうのだった。
食事が終わると、マリアちゃんは、孤児院に行く準備だ。マリアちゃん、今日は水色のスモックを着ている。ポッケは、苺のアップリケだ。お弁当は無い。孤児院の昼食を、子供達と一緒に食べるのだ。昨日は、お弁当が丸々残っていたのだ。
マリアちゃん、好き嫌いがないので、孤児院のお昼ごはんも美味しく頂いていた。というか、スープをお代わりしていた。ベーコンとニンジンのスープで、ニンジンたっぷりだったので、子供達があまり食べないのを見て、マリアちゃんは、ワザとお代わりをしたらしいのだ。
今日も、クルス君と手を繋いで孤児院に向かう。ゴーレム達が、後ろからついてくる。孤児院の側まで行くと、クルス君よりも少し大きな子が何人かの仲間を連れて、クルス君達の前に立ちはだかった。近所のいじめっ子達だった。
「よお、みなしごのクルス、その子は何だよ。新しいみなしごか?」
「違うよ。この子は、お屋敷の・・・」
言いかけて、はっと気が付いた。マリアちゃんがお屋敷の子だとは、絶対に言ってはいけないとシスターに言われていたのだ。
「何だよ。お屋敷のって。」
「えーと、お屋敷の方の家の子だよ。」
「ふーん、その子が、何でお前と手を繋いでいるんだよ。」
クルス君は、パッと手を離した。顔が真っ赤だ。いじめっ子達は、今度は、マリアちゃんの方に矛先を向けて来た。
「お前、この辺じゃあ見ない子だな。名前は、なんて言うんだ?」
当然、答えない。クルス君の後ろに隠れた。こんな小さな子をいじめても面白くない。後ろに整列しているゴーレム兵達を見て、クルス君に再び絡んでくる。
「おい、クルス。あの人形はお前のか?」
「違うよ。この子のだよ。」
「この人形、あのお屋敷に並んでいるやつか?」
ゴーレム兵士は、この街では有名だ。クルス君はそら惚けることにした。
「知らない。この子について来た。」
「フーン、おい、お前、その杖で、あいつらを動かすのか?貸してみろ。」
いじめっ子のガキ大将が、マリアちゃんのワンドを取り上げようとして、ワンドの先を握った。
パチン。
「痛!何だ、今のは?電気が来たぞ。こいつ、魔法使いか?」
半分、正解だが、決して魔法を使ったわけではない。嵌め込まれた魔石にプログラムされている自己防衛機能が働いたのだ。今のは、最弱レベルで相手を脅かす効果しかない。
マリアちゃん、ワンドを背中に隠す。
「おい、お前ら。あの杖を取り上げろ。」
今、自分たちの目の前で、いじめっ子のボスが感電したのを見ていたのだ。従う訳が無い。皆、雲の子を散らすように逃げてしまった。
いじめっ子は、意味も分からずにこういう場合の常套句を口にする。
「覚えていろよ。」
その子は、回れ右をして、街の方に逃げていった。目に、涙が浮かんでいる事は、クルス君には分からなかったが。
幼稚園では、最初にゴーレム兵達とお遊戯だ。皆で丸くなって、右に回る。シスターがオルガンを弾いてくれている。マリアちゃん、円の真ん中に立って、皆に指示をしている。ワンドを振っているだけだが、子供達にはちゃんと通じているみたいだった。
ワンドを上に向けて左回転をさせる。子供達の輪も左回転になる。右に左に、早く、遅く。子供達はキャッキャッと喜んでいた。オルガンを引いているシスターも笑っている。
1時間近く踊って、皆クタクタだ。しかし、ゴーレム兵達には、全く疲れが見えなかった。当たり前だが。
その後、大きな教室でお勉強だ。お勉強といっても、幼児用のお歌を歌ったり、ご本を読んで貰ったりだ。小さな子が、絵本を持って来た。
かなりボロボロだが、まだ本の形はしている。この本を読んでもらいたいみたいだ。他の子達も、目をキラキラさせている。
小さい子にご本を読んであげるのは、小学4年生以上の子達の仕事なのだが、今は、森や草原で採集をしている。3年生以下の子は、人に読んであげるよりも、自分で正しく読むのに手一杯だ。
マリアちゃんは、大きな声を出して読み始めた。3人の豚人のお話だ。豚人の3人兄弟が、郊外に家を建てるのだが、末っ子以外は怠け者で、掘建て小屋を建てて住んでいた。末っ子は、しっかりした家を建てようと毎日働いた。
しかし、体が小さな末っ子は、働きすぎて病になってしまった。兄達は、それでも弟の面倒を見ないで遊んでいた。末っ子は、聖夜まで持たないだろうと言われていた。
いよいよ聖夜が来た。上の兄二人のところには、死神が来て現在、過去そして未来を見せる。弟は、窓の外の木の葉が落ちるとともに命の火が消えてしまった。
マリアちゃんは、読んでいて涙が止まらなかった。
『何、この本。3匹の子豚じゃないじゃない。』
ご本を良くみると、バラバラになった本の、まともな所だけを、継ぎはぎしたご本だった。
うん、明日、母様に言って新しいご本を買って貰おう。こんな悲しいお話じゃあなく、もっと楽しいお話のご本を買って貰おう。
お昼は、お肉のボールが入っているスープとパンだった。パンは、少し硬かったが、スープに入れて柔らかくしてから食べたら、とても美味しかった。
小さな子達は、小学校に行っているお兄さん、お姉さんに食べるのを手伝って貰っている。
マリアちゃんは、自分の分は食べ終わったが、食べるのが遅い子がいたので、その子を手伝うことにした。パンを食べやすいように小さくして、スープに漬けてあげるのだ。パンがちょっと堅かったが、少しだけ魔法で温めたら柔らかくなった。
昼食後は、小さな子達はお昼寝だ。マリアちゃんは、眠くなかったので、ご本の修理を始めた。破れているページや。壊れている表紙をワンドを使って直すのだ。
ページがなくなってしまったものは、もう無理だったが、破れているだけだったら、あっという間に直してしまう。
クルス君に見つかってしまった。
「マリアちゃん、すげえな。魔法が使えるんだ。」
マリアちゃん、顔が真っ赤になってしまって、修繕をやめてしまった。ご本の修理は、魔法ではない。では何かというと、マリアちゃんに説明出来るわけなかった。
マリアちゃんは、オルガンのところに行った。椅子に座ると、ペダルに足が届かない。という事は、オルガンは音が出ないと言うことになるのだが、マリアちゃん、全く気にしない。
お椅子に座ると、鍵盤をたたき始めた。スカン、スカンと鍵盤をたたく音だけがする。マリアちゃん、自分の口で音を出している。
「ドードレミミソー ミミレレドー
ミーミファソ-ドー ラードーソー
ドードーシーソー ララララソー
ドードレミミソー ミミレレドー」
童謡の『大きな栗の木の下で』だ。左手で、伴奏、右手でメロディーを弾いているようだ。それを見ていたクルス君が、オルガンの下に潜り込んで、送風ペダルを手で押し始めた。情けない音が出てきた。クルス君、一生懸命押しているが、マリアちゃんが邪魔で、力が入らない。それを見ていたマリアちゃん、少しだけ『念動』でペダルを押すのを手伝ってあげた。急に軽くなったペダルを一生懸命押すクルス君。オルガンから素敵な音が流れてきた。
子供達が、オルガンの前に集まる。マリアちゃん、今度は、声を出して唄い始める。
♪大きな栗の木の下で
♪あなたとわたし
♪なかよく遊びましょう
♪大きな栗の木の下で
うん、楽しい。マリアちゃん、歌なら、普通に歌える。大きな声で歌っている。もう我慢ができなくなってきた。椅子から降りて、皆の真ん中に立つ。オルガンは音をずっと出している。自動鍵盤だ。いや、マリアちゃんの『念動』だった。クルス君、ペダルを押す手が止まってしまったが、ペダルは自動で動いている。
マリアちゃん、お遊戯を始めた。最初、頭の上に大きな丸を作り、それから、頭、肩と手を当てて、最後に下に下げる。相手を指さし、自分を指さし、そして胸の前で交差させて首を傾ける。最後にまた、頭、肩、腰と手を当てる。
子供達も真似を始める。全員で、歌い、踊り、楽しい時間は過ぎて行った。
もうチート過ぎて、申し訳ないです。でも、マリアちゃんの実力はこんなものではありません。




