第37話 湖を作りました。
いよいよマリアちゃんが活躍します。
(10月23日です。)
東京霞が関の内閣府危機管理室特別会議室は、内閣府の地下3階にあり、特別の通行証がなければ、入ることはできないようになっている。
そこでは、最高危機管理対策会議が開かれている。当然、安芸総理大臣や川口防衛大臣それに大東国家公安委員長も参列している。
佐々木危機管理室長が司会だ。
「以上が、今回の未確認生物大量発生に関する概要です。」
総理が質問した。
「今回の魔物達は、それではどこから来たというのかね?」
「はい、分析の結果、現場の南方にある『富士風穴』内が発生場所と思われます。現在、陸上自衛隊特殊部隊が探索中ですが、洞窟の入り口が大きく崩れ、多くの人間型の足跡が見られました。」
「小型のものは、ゴブリン型生命体のものと思われます。推定体重40キロ、身長120センチの2足歩行生命体です。」
「大型の足跡は、オーク型生命体のもので、推定体重140キロ、身長220センチのものと認められます。」
「足跡が、輻輳しているため、ハッキリとは分かりませんが、現場の残留死体の状況や、殲滅前の映像解析により、ゴブリン型600から700体、オーク型100体の群れであったと推定されます。」
「それで、我が方の被害は、民間人と自衛隊の死亡数は確定したのか。」
「はい、自衛隊の方は、富士駐屯地の緊急展開部隊368名中、生存者16名、残りの352名は残念ながら行方不明となっております。」
「現場に残されている認識証やヘルメットの状況から、おそらく奴らに喰われたものと思われます。」
「ちょっと待ってくれ。多く見積もっても800体位の生命体が、350人以上の人間を食べてしまったのか?」
「はい、このほかにハイキングやジョギング中、それと農作業従事者119名の行方が不明となっています。」
「奴らは大食いなんてレベルじゃないな。まるで『餓鬼』のようだ。」
彼らは、まだ知らなかったのだ。殲滅された自衛隊員達の半数以上は、裸に剥かれ、風穴の奥の氷室に貯蔵されていることを。
また、一般人の女性と女性自衛隊員達は、全員がゴブリンやオークに犯されながら頭から喰われていったらしい。それは、自衛隊ヘリの映像から分かっていたが、すぐに雷撃により撃墜されてしまったので、最後にその死体がどうなったかは分からなかった。
その時、危機管理室用の目の前に置かれている赤い電話が、けたたましくなった。市谷からのホットラインだ。富士風穴探査部隊が、洞窟の奥から出て来た魔物と交戦中であるとのことだった。
探査隊は、通信ケーブルを引きながら潜っていったので、リアルタイムで洞窟内の状況が音声で流れてくれる。
会議室のスピーカーに繋がれる。先頭の模様が、音声で伝わってくる。模様というより、隊員達の悲痛の叫びだ。
『隊長、もう弾薬がありません。拳銃も効果がありません。隊長、隊長!』
散発的に聞こえる銃器の発射音、しばらくすると、戦闘している音声ではなく、何かをくちゃくちゃと食べている音がしてきた。後、明らかに女性を犯している音もしている。女性の嗚咽の声が聞こえる。それも、しばらくで静かになった。
「地上待機部隊は、至急撤退しろ。」
統合幕僚長の悲痛な命令が会議室に響いた。今、風穴の中に入っても、救助の手段はない。それどころか、地上の通信部隊や車両・資機材の防護部隊の生命が危ないのだ。
総理が呟いた。
「そうそう都合よく、銀仮面は現れてくれないよな。」
会議室の一番端に、警視庁未確認生物犯罪対策室室長新垣警視、つまり私の父様が座っていた。会議の流れでは、銀仮面頼みだが、この前、麻里亜には何百体もの魔物と戦ったし、今日は学校にいっているので、連絡の方法がない。
結局、富士駐屯地の機甲師団を緊急展開すると共に、各地から歩兵師団をオスプレイで移送して3000名以上の部隊が展開された。
環境省の富士風穴破壊の許可が出された。国立公園内の天然記念物を破壊するのは、心情的には忍びないが、背に腹は変えられない。
作戦としては、富士風穴の最深部まで潜って、ダイナマイトをセットして、発破させる。洞窟を埋めてしまおうという作戦だ。
そのためには、工兵部隊の他に、歩兵部隊が先頭に立ち、奥から出てくる魔物を掃射して行く。洞窟内のため、重火器は使えない。小銃や軽機関銃レベルの武器しか使えない。シールドが張られる可能性があるが、兎に角行けるところまで潜って、爆薬をセットしたら、すぐに撤退だ。
作戦決行は、明後日の6時00分となった。厳重な報道管制が敷かれた。富士風穴前の県道は、全面通行止めだ。
翌日、決死隊が編成され、風穴の中に潜っていった。20分後、突然、通信が途絶した。それから30分たっても、1時間経っても通信が回復せず、当然、部隊も戻ってこない。
戦闘になれば、発砲音が聞こえるはずだが、無音だった。この時、部隊は、魔物の『瘴気』攻撃を受けていたのだが、地上部隊にそれを感知する能力はなかった。
『瘴気』を浴びた隊員達は、精神状態に異常をきたし、戦闘意欲を失ってしまうのだ。そうなってしまえば、魔物達に食材や快楽道具を与えているだけの存在になってしまう。
作戦は、失敗に終わってしまった。しかし、この失敗は、洞窟の奥400m地点に、爆薬を遺留できたという成果を残してくれた。後は、爆薬の起爆装置さえ起動できれば、作戦は遂行できるのに、その手立てがない。もう、部隊は投入できない。ロボットやドローンの投入など、いくつかの案が出されたが、いずれも成功の確率は低いものと予想された。
結局、風穴の出口を中心に、半径500mの封鎖線を敷いて警戒に当たることになった。当然、外部からの立ち入り禁止だ。居住者は、小学校などに避難して貰うことにした。総理が、一言呟いた。
「ああ、また銀仮面が来てくれないかな。」
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(10月30日です。)
会議から1週間後、今日は土曜日だ。私は、家族皆で河口湖に来ていた。杉並の自宅を午前6時に出発したのだが、渋滞が酷く、湖畔に到着したのは午前10時を過ぎていた。
湖畔の周遊観光船の駐車場に止めたフィアット595から一家は降りて来た。まだ10月とはいえ、もう空気はヒンヤリとしていた。
私は、駐車場脇のトイレに入ると、銀仮面、カツラそれにマントを着用した。マントは、母様が布地を買って作ってくれたものだ。表地は、防炎加工の木綿製で、裏地は真っ赤な絹製だ。炎で溶けたりしないようにしたものだった。マントの首元にはポケットが付いており、それに、私は『聖』なる力を秘めた魔石をしまっておいた。これで、意識しなくても『聖』属性防護マントになっている。
トイレの中から、湖の中央付近上空に『転移』する。そのまま西南方向に飛翔を始めた。高度3000mまで急上昇する。風穴の出口まであっという間だった。
今日の装備は、ショートソードだけだ。狭い洞窟の中で、ミスリル・ロングソードは使いにくい。それに父様に貰ったショートソードの方が、魔法耐性はずっと強い。
出口前に降り立った銀仮面姿の私を見て、はるか後ろの部隊が慌ただしく動いている。有線式の監視ロボットが、近づいて来た。別に、見られてまずいものはないので放っておく。
出口前に構築されているバリケードを『念動』で、全て移動しておいた。ゆっくりと風穴の中に入って行く。後ろから、監視ロボットが付いてくる。
匂いが酷い。魔物の匂いだ。それに、栗の花の匂いとイカの燻製のような匂いがしたが、私には、何の匂いがわからなかった。
少し進むと、マントがほんのり白く光り始めた。『瘴気』だ。洞窟の中に充満している。
何かがいる。暗くて良く見えないが、何かが蠢いていた。
『ライティング』
光魔法を発動する。光属性がなくても使えるが、光属性が有れば、魔力をほとんど使わずに灯すことができる。
明るくなった洞窟内を見て、思わず悲鳴をあげそうになった。数え切れないほどのネズミだ。目が赤く光っている。
『ファイア!』
完全シールドを纏ってから、ネズミ達を燃やす。あっという間に炭になってしまう。焦げた匂いもしない。
『コールド!』
洞窟内の気温を下げる。溶けかかっていた洞窟の地面が、固まる。そのまま、奥に進むと、意識を失っているゴブリンどもがいた。先ほどの『ファイア』の熱で、肺の中が焼けたのだろう。
『瘴気』が酷い。マントが強く光っている。『聖』の気を、洞窟の奥まで流し込んでやる。何かが動いて行く気配がしたが、きっと邪悪な魔物どもが、洞窟の奥に逃げていっているのだろう。
500m位潜ったところにそれはあった。爆薬だ。起爆スイッチ用のケーブルが引きちぎられていた。もう少し奥まで進むと、氷室があり自衛隊員や一般人の死体が積み重ねられていた。
なるべく見ないようにして、奥に進むと、夥しい数のゴブリンとオークがいた。ゴブリンアーチャーが岩棚の上から弓矢で攻撃して来たが、全く当たらない。『念動』で軌道を変えているのだ。
爆薬が誘爆するかも知れないので、下手に炎や電撃は使えない。仕方がないので、生きたまま氷漬けだ。白い霧に包まれた魔物達は、その場で氷漬けとなり、札幌雪祭りの雪像状態だ。
この奥に、きっとボスがいるだろうが、今日の目的は、ボス退治ではない。爆薬の大まかな位置は確認した。私は、風穴の上、地上200mの位置に『転移』した。
特大の火球を空中に出現した。それを圧縮する。ドンドン圧縮する。エネルギー臨界点の直前まで圧縮して、爆薬のあったところに『空間転移』させる。うん、あとちょっとだけ圧縮してから圧力を解放した。
地鳴りがした。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
あ、不味いかもしれない。地上1000mまで退避する。大きな音とともに、森が盛り上がって来た。瞬間、大爆発が起きた。まるで噴火だ。噴石と土砂が、半径1キロ以上にわたってばらまかれた。幸いなことに地上部隊の隊員を直撃した噴石はなかったが、皆、土砂塗れになってしまった。煙が薄れた頃、半径500m以上の大きなすり鉢状の穴が空いてしまった。
私は、土魔法で、底を固め、水魔法でその穴に大量に水を流し込んだ。その穴は、直径1キロ以上の大きな池となり、結局富士5湖が6湖となってしまったみたいだった。
マリアちゃん、地図に残る仕事をしました。




