第21話 虐められっ子は私?
学園ものと言えば、いじめ問題は切っても切れない話題です。マリアちゃんを虐めるのは、とても勇気がいります。
(3月1日です。)
今日は、全校集会の日だった。体育館に生徒全員が集合している。校長先生の長いお話と教頭先生の細かな指示が延々と続くが、その前に、昨日の演奏会の結果が発表された。私は、自分の名前を呼ばれても、最初は誰が呼ばれたのか分からずキョトンとしていた。
シズちゃんが、私の腕を引っ張ったので、初めて自分が呼ばれたことに気がついた。前に出なくてはいけないらしい。顔が、真っ赤になっているのが分かった。
何故、昨日のことが分かったのだろう?後で聞いたら、音楽の先生も内緒で来ていたらしいのだ。まあ、朝、夕と音楽室を借りていたのでコンクールに出るのは当然教えていた。
前に行くと、壇上に上がるように言われた。足が震えている。壇上に上がると、昨日の曲を聴いて見たいと言うのだ。凄い無茶振りだが、キチンと断るなんて、私には無理だった。しょうがないので壇上左袖にあるピアノのところに行く。
男の先生達が、ピアノを少し前に出し、大屋根を開けて棒で支える。
椅子が少し高かったので、高さを調整する。講堂内にざわめきが広がっている。眼帯を外して、譜面台の前に置く。
昨日の選択曲『黒鍵』を弾き始める。会場内が静まったことを感じる。演奏には、何も迷いは無かった。自分でも、よくできたと思う演奏だった。
演奏を終わって、立ち上がり、皆に礼をする。パチパチとシズちゃん達の拍手が聞こえて来た。つられて皆が拍手を始める。最後は、ものすごい拍手だった。
私は、後ろを向いて眼帯をしてから、また前を見て、ピョコンと礼をしてから、そのまま袖のほうに下がった。列に戻らずに、真っ直ぐ保健室に行く。緊張で倒れそうだった。
あんな拍手を受けたのは、帝都の音楽祭以来だった。演奏している時は感じなかったが、あの拍手を聞いて、とんでもなく恥ずかしいことをした気がして来たのだ。
保険の先生は、私の顔色が真っ青だったので、直ぐにベッドに寝かせてくれた。結局、午前中は保健室だった。後で聞いたら、校長先生が保健の先生に叱られたそうだ。
お昼は、シズちゃん達と一緒に保健室で食べたのだが、あの後、大変だったそうだ。私がいなくなったので、先生達が心配して探し回ったそうだ。
教室に戻ったら、なんか感じが変だった。クラスメイトの女子が、固まってこっちを見ている。一人の女子が近づいてくる。
「新垣さん、コンクールで優勝すると、授業免除でいいわね。」
「ちょっと、何言っているのよ。麻里亜ちゃんはね、本当に具合が悪かったのよ。」
「ふん、優等生同士、庇いあって仲の良いことで。」
「だいたい、大学のローカルコンクールで、優勝したところで価値なんかないわよ。」
私は知らなかったけど、本当にそうらしい。世界的コンクールの日本予選とか、楽器メーカー主催のコンクールに比べて、大学の月例コンクールはかなりローカルらしいのだ。
でも、私に意見なんか無いし、この人の怒っている顔が怖いし、もう黙って下を向いているしか無かった。
「ちょっと、ダンマリ?何か言いなさいよ。」
机を『バン!』と叩いた。私は、身体がビクンとしてしまう。もうダメだ。我慢出来ない。
私は、下を向いたまま涙が零れてきてしまった。それを見て、その子は溜飲を下げたのか、『フン!』と言って、自分の席に戻っていった。
私は、怖くてとてもここにいられなかった。立ち上がって、教室を出て行くことにした。トイレに行って、そのまま自宅のベッドの上に『転移』してしまったのだ。完全にずる休みだが、もう学校なんか行きたく無かった。
幼稚園では、いじめっ子がいたけど泣けば許してくれたし、いつまでもいじめてなんかいなかった。
今日のは、何?私が何かした?あの人の事なんか名前も知らないし。コンクールの事だって、誰にも言ってなかったし。それに、また机を叩かれたら、絶対にチビっちゃう。そうしたら、もう学校にはいけないわ。
その日の放課後、シズちゃん達が、私の鞄を持って来てくれた。母様がニコニコして、ホットケーキを焼いてくれた。
今日、いじめていた子は、黒須美香さんと言って、小さい頃からピアノをやっているそうだ。小学校の時は、何度もコンクールで優勝していたらしいのだ。それに学級委員長もしていたのだが、中学生になって、ピアノもずっと優勝していないし、シズちゃんと同じクラスになってからは、クラスの委員長にもなれなかったらしいのだ。
あのグループは、小学校が一緒だった子達が集まっていて、黒須さんはグループのボス的存在らしい。今までにも、いじめに遭った子達がいたが、皆、転校していったり、学校を『長期欠席』をしているそうだ。
私は、よく分からなかったが、『いじめ』がこれからも続いたら、『長期欠席』と言う、学校に行かなくて済む方法があると分かり、もう何も心配がなくなってしまった。
母様の焼いたホットケーキ、とっても美味しい。後、ミルクじゃなくって、ジュースが飲みたかったな。
母様も、学校は無理して行かなくても良いと言ってくれたし。良かった。でも、取り敢えず、明日も学校に行くことになってしまった。
次の日、シズちゃんが迎えに来てくれた。もう学校にピアノの練習のために早く行く必要もないし、いつもの生活が戻った気がする。
しかし、それは気のせいだった。学校に行って吃驚した。靴箱に、上履きが入っていない。シズちゃんが、黒須さん達に聞きに行こうとしたが、私が制止した。微かだが、自分の上履きの匂いがする。直ぐに分かった。玄関掃除の用具入れの中だ。そこに行って、扉を開けると自分の上履きがあった。
クラスに行くと、皆が私を見ている。何かなと思って、席に着くと、直ぐに分かった。
机にマジックでいたずら書きされていた。『バカ』、『死ね』、『クサイ』なんて書いてある。シズちゃんが、誰が書いたか聞いていたが、正直に応えるわけがない。私は、教室の後ろに行って、雑巾を出してきた。乾いた雑巾だ。黒須さん達がニヤニヤしながら見ている。
乾いた雑巾なんか役に立つ訳ないと言う顔だ。
私は、雑巾を机に当てて、マジックインクの黒い粒子を、雑巾の布地の中へ『念動』で移動しながら拭いて行く。あっという間に綺麗になった。
黒須さん達が吃驚していた。グループの一人が、ペンを確認していた。
教科書を出したら、やはり悪戯書きされていた。雑巾で、軽く拭きながら、ちょっと悪戯をする。『念動』と『転移』で、クロスさんの教科書に転写しておいたのだ。
明日から学校に来なくていいと思うと、何となく嬉しかった。シズちゃんの後ろで、『エヘエヘ』と笑っていると、悲鳴が聞こえた。
黒須さんが、自分の教科書を出したのだ。黒須さんが、涙目でこちらを見ている。自分は、学校に来なくて済むと思って笑っていたのに、誤解されたらしい。まあ、良いけど。
お昼休みになって、食堂で今日の給食を持って運んでいると、誰かが急に足を出してきた。でも普通に歩いて通過してしまった。ちょっとだけ、『念動』を使って、出してきた足を固定しておいて、跨いだだけなんだけど。
シズちゃん達と一緒に美味しく給食を食べてから、屋上に行って日向ぼっこをしていた。今日は、風も無く気持ちがいい。男子生徒達が、バスケットをしている。
黒須さん達がこちらに来た。全部で8人だ。私達を取り囲む。
「新垣さん、昨日、学校をサボったくせに、よく来れたわね。ずっとずる休みするんだと思っていたわ。」
「何、それ。来ちゃいけないの?」
「うるさいわね。あなたには言ってないでしょ。」
私は、当然に下を向いている。嫌だな。説明なんかできないし。それに、そこに立たれたら日陰になってしまうじゃない。もう、明日から来ないつもりなんだけど、うまく説明できない。
周りでは、男子生徒達もこちらを見ている。3人の女の子が座っていて、それを8人が取り囲んでいるのだ。何事かと興味津々で見ているのだ。
私に、ある考えが閃いた。弱い風、本当に弱い風を起こした。彼女達のスカートの下から上向きに。
「きゃあ!」
全員のスカートが捲れ上がった。いちごパンツや縞パンのオンパレードだ。黒須さんは、熊さんパンツだった。
「何これ?何で?」
黒須さん達は、スカートを両手で押さえながら逃げていった。男子生徒達が大声で笑っている。屋上に突風が吹いたと思ったらしい。まあ、普通はそうだわ。
シズちゃんが、ジト目で見ている。あ、バレてる。シズちゃん、急に抱きついてきた。
「あー、怖かった。ねえ、あの風って麻里亜ちゃんが起こしたの?」
本当の母さんの言葉を思い出した。幼稚園では、絶対に魔法を使ったらいけないって。私、下を向きながら、首を横に振った。
「そうだよね。風を起こすなんて、魔法だもんね。」
私、下を向きながら顔が真っ赤になっていた。これは魔法です。明日から学校に来なくて済むのだ。あと3時間だけ我慢しよう。
授業が終わると、鞄に教科書全部を入れて、ロッカーの中の物も、持って帰ろうとする。シズちゃんが、何故持って帰るのか聞くので、『もう、来ないから。』と答えた。
シズちゃんとノエルちゃんが、驚いた顔をしていた。え、何で。昨日、もう学校に来なくても良いからと話し合って決めたでしょ。違った?
シズちゃんが落ち着いて話し始めた。
「麻里亜ちゃん。よく考えて答えてね。もう学校に来ないって誰が決めたの?」
「母様。」
「それは、いつ?」
「昨日。」
「昨日って、みんなで話し合ったよね。その時のこと?」
黙ってうなずく。
「でも、その時は、今日は学校に来ようって言ったよね。」
またまた頷く私。
「明日から、学校へ来なくても良いって、誰か言った?」
「母様、シズちゃん、ノエルちゃん。」
「えー!私、言ってない。」
「もしかして、昨日の『長期欠席』の話?」
思いっきり頷く私。
全てを理解したシズちゃん、呆れた顔のノエルちゃんと一緒に、とりあえず帰ることにした。私は、もしかすると、明日も学校に行かなければならないのかと思い、悲しくなってきたが、母様がきっと行かなくても良いと言ってくれると信じていた。
私達の前に、黒須さん達が待っていた。いつも、この8人で行動しているようだ。何故か面倒くさい気がするのだが。黒須さんが、私たちを待ち伏せして、一体何の用かしら。
「ねえ、新垣さん、ちょっと来てもらえるかしら。」
どこへ行くのか分からないが、早く帰っておやつを食べたいのに。でも、そんなことを言うときっと怒ると思い黙っていた。
「なんの用があるの。ここできちんと言ってくれない。」
「阿東さんと野田さんには関係ない話だから、先に帰って貰っても良いわよ。」
「何よ、それ。私達には知られたくない用事なの。」
「別に、来てもいいけど。後悔しても知らないわよ。」
私達は、黙ってついていく事にした。黒須さん達が向かった先は、この前、廃校になった小学校だった。校門は鎖が巻かれていたが、裏の隙間から入れるようだ。学校の奥に行くと、男の人達が3人いた。皆、背の大きいお兄さんばかりだった。
「ちょ、ちょっと何よ。この人達。高校生じゃない。」
「そうよ、真ん中にいるのが私の彼氏なの。今日はね、お願いして来てもらったのよ。」
「美香、そいつかい。ちょっと教育し直して貰いたいという子は。」
「ええ、キヨシさん。後は、お願いね。」
え、黒須さん達、帰っちゃうの。なら、私も帰らなくっちゃ。
「おおっと、あんたは、ここに残って貰うよ。」
「ど、どきなさいよ。私達も帰るんだから。」
「そ、そうよ。麻里亜ちゃんのお父さんは、警視庁のお巡りさんなんだから。」
警視庁と言う言葉に、一瞬、反応したが、強気で迫ってきた。
「別に、俺たちゃ悪いことをしようとしているわけではないよ。あんたたちと遊ぼうっていうだけさ。」
キヨシという男が、シズちゃんの肩を抱こうとする。固まっているシズちゃん。震えている。あれ、これって助ける場面?
キヨシと呼ばれた男が、顎をしゃくる。残りの二人が、私とノエルちゃんに近づいてくる。
私に近づいた男の子が、がっかりした顔をして言った。
「ちぇっ、こっちは顔は可愛いのに、胸がぺったんこかよ。俺、そっちが良かったな。」
え、なあに。その事って言っちゃあいけないことよ。私はカチンときて、つい、彼に触ってしまった。手に電気を帯びながら。
バチン!
人間スタンガンの接触を受けた彼は、その場で意識を失ってしまった。まあ、しょうがないか。シズちゃんも助けよう。キヨシに近づき、手を握ってあげた。
バチン!
キヨシも、白目をむいて気を失う。もう一人、ノエルちゃんを追いかけている男の方を見る。ノエルちゃん、猛ダッシュで逃げ回っていて、なかなか追いつかないようだ。
彼の真上から、雷撃を落としてあげた。髪の毛の焦げる匂いがしたが、死ぬことはないだろう。
このバカ男達のことは放っておいて、3人で帰ることにした。あ、今日のオヤツは、なんだろうな。チャーハンが良いなと思いながら。それと、ちゃんと母様に確認しなくっちゃ。明日から学校に行かなくても良いということを。
中学生って、普通は思春期です。好きな子のことで頭がいっぱいになります。でも、5歳児のマリアちゃんには関係ありません。




