第2話 幼稚園って大っ嫌い
今日は、マリアちゃんの幼稚園生活について書いてみます。なかなか転生はしません。
(7月6日です。)
『白龍城』の冬の朝は早い。午前6時には、レオナちゃんが起きてくる。レオナちゃんは、父親がライオン、母親が人間の半獣人だ。日の出と共に、体細胞が活性化するようだ。
母親のミキおば様は、なかなか起きてこないので、1人で裏庭の稽古場に行く。別に稽古をするわけではない。朝の空気を身体一杯に取り込むのだ。不思議に、身体中の筋肉が反応して膨らんでくるような気がする。
今日、タイタン市に帰る予定のシズおば様が、起きて来た。右手に大きな木刀を持っている。長さが190センチ位ありそうだ。その木刀を持って、ブンブン素振りをする。よくあんな重い物を振り回せるなと思う。
その内、皆が起きて出てきた。皆、それぞれ手に持っているものが違うが、きっと得意な物があるのだろう。
エーデルおば様は、綺麗なレイピアだ。エーデルおば様が振るレイピアは、レオナちゃんには見えなかった。音だけが聞こえている。
ジェーンおば様、ビラおば様も出てきた。ビラおば様は、刀が長い棒の先についている薙刀という武器だ。
ジェリー姉様とブリ姉様も出て来た。二人で、打ち込みの稽古をしている。レオナちゃんは、怖いので、2人から離れた所に移動した。
2人は、時々、一瞬消えて、離れたところに現れるので、危ないのだ。
マリアちゃんは、ベッドで自然と目が覚めた。昨日貰ったワンドが気になったのだ。あれ、無い。昨日、確かに抱いて寝たはずなのに。
ベッドからガバッと起きたマリアちゃんは、ベッドの脇のテーブルの上に、ワンドの入っている箱を発見してホッとした。
マリアちゃんは、普段着に着替えて、起きることにした。ワンドを使ってみたかったのだ。母様は、まだ寝ているみたいだ。そっと部屋から出ていく。勿論、あのワンドを持ってだ。
廊下を歩きながら、ワンドを見てみる。とても綺麗だ。父様が『クレイスのワンド』と言っていた。意味は分からないが、とても貴重なワンドらしい。とても軽い。それに柄に嵌められている真っ赤な魔石がとても綺麗。見ていて飽きない。でもワンドを見ながら歩くと危ないので、もう前を見て歩く。
裏の稽古場に行くと、朝稽古中の皆が揃っていた。マリアちゃんを見ると、皆、稽古をやめた。と言うか、驚いているようだ。今まで、朝稽古に顔なんか出した事がないマリアちゃんだった。
「おはようございます。」
ようやく挨拶ができたマリアちゃんだった。皆、タイタン市のお屋敷では本館にいたので、別館にいたマリアちゃんとは余り接点が無かったのだ。でもブリ姉様だけは大丈夫だった。基本的に、頭に角の生えている魔人族の姉様達は大丈夫だった。理由は分からない。
ブリ姉様に聞いた。
「魔法の練習をしたいけど大丈夫?」
「え、ま、魔法?ええ、大丈夫よ。大丈夫。私達、もう終わったから。」
皆、急いでお城の裏口近くのシェルターに移動した。シズおば様が、レオナちゃんの手を引いている。
マリアちゃんは、魔力測定人形を所定の場所に置く。人形は、重さが5キロ以上あるし、大きさも50センチ以上あるので、マリアちゃんが運ぶのには大きすぎるのだが、皆に分からないように『念動』を少し使った。
この力は、シェル母様からは、『絶対お外で使っては駄目。』って言われているけど、ここはお城の中と一緒だから大丈夫かなと思っている。
マリアちゃん、人形に向かって、ファイアを撃つ。昨日と同じレベルだ。
「ファイア。」
ポション!
昨日と同じヘナチョコファイアだ。何度やっても、これ以上大きくならない。
マリアちゃんは、キャンプファイア以上の大きな炎を知らない。
次に、嵐の日の木々が揺れる風景をイメージした。ワンドが青白く光る。
「ウインドウ!」
プシュー
ヘナチョコつむじ風が起きたが、それだけだった。何回、練習しても同じだった。
最後に、雷の光、稲妻をイメージした。これは、ノエルおば様が『絶対使ってはいけない。』と言っていた魔法だ。
ワンドを上に掲げる。イメージを膨らませる。青白い電光が、バチバチとワンドから発している。
「サンダー!」
思いっきり、ワンドを振り下ろす。
バチン!
ワンドから、細い電光が、測定人形に向かっていく。測定人形に当たって、電光は立ち消えた。殆どダメージはない。人間だったらピリピリする程度だろう。
何度か繰り返したが、結果は同じだった。
そのうち、疲れてしまって魔力が溜められなくなった。こんな事は初めてだった。もうフラフラだった。今日の練習は、これで終わりだった。
見ていたおば様達は、ホッとしていた。以前、普通のワンドを使ったときは、もう少しでお城が焼けるところだった。地面だって、少し溶けていたのだ。
あの時から、マリアちゃんは測定人形に向けての魔法は禁止になった。お空に向けるだけだ。でも、3回位練習すると、ワンドが焼けてひび割れてしまうのだ。
今度のワンドは、何ともない。それだけでもとても嬉しい。マリアちゃんは、皆と一緒にお城の中に戻った。
朝食の時、父様とシェル母様がテーブルに座っていたが、昨日と違ってあまり喋らずニコニコしているだけだった。マリアちゃんが、シルフさんに、ワンドのことを聞いたら、最初は、誰でもそうなんだって言っていた。もっと練習すると、前のように大きな魔法が使えるようになるって教えてくれた。高級なワンドはみんなそうなんだって。
シルフさんが、そのワンドはとても大切なものなので、幼稚園に持って行ってはいけないと言っていた。マリアちゃん、素直に『はーい!』と返事をしたが、当然、持っていく気満々だった。
幼稚園のスモックに着替えると、母様と手を繋いで幼稚園に行く。最初は、ゲート部屋から、お城の外にある小さな家に転移した。小さいと言っても、普通のお家よりは大きいみたいだけど。
その家には、婆やさんが1人いて、母様と私が行くと、お家の扉を開けてくれるの。お庭を通って門から出るんだけど、門番の人がいつも門を開けてから、幼稚園までついて来てくれる。母様が、あの人は皇宮警察の衛士様だって言っていたけど、どういう意味か良く分からない。でもいつも違う人が門番をしているの。皆んな、どこにいるんだろう?
幼稚園までは、歩いて行くの。20分位かしら。幼稚園の入り口には、園長先生達がお迎えしてくれるので、母様とはここでお別れ。最初は、寂しくて怖くてずっと泣き続けていたけど、今はもう平気。
他の子達は、大きな声で『おはようございます。』って、挨拶しているんだけど、マリアちゃんは、下を向いて『おはよう●●●●●』って、小さな声で、しかも末尾はモニョモニョとなっている。でも、先生は、慣れたもんで、『はい、マリアちゃん、おはようございます。」と言ってくれる。
マリアちゃん、顔が真っ赤になっているのがわかる。
お勉強室に入る前に、ベティ先生に呼び止められた。マリアちゃんが肩から下げている黄色いお弁当バッグを預かると言うのだ。
マリアちゃん、目に涙を浮かべながら、バッグを預けた。バッグの中、お弁当箱の下には、あのワンドが入っている。シルフさんに『持って行ってはいけない。』って言われたけど、どうしても我慢できなかったのだ。
その日は、ワンドが気になって、お勉強に集中できなかった。お弁当の時間も、返してくれたのはお弁当だけで、バッグは預かられたままだった。
午後は、お遊戯の練習だったが、マリアちゃん、いつものように窓際に立ったままだ。ベティ先生がマリアちゃんも踊るように声を掛けてくれるが、下を向いたままじっとしている。直ぐに諦めて、他の園児の面倒を見ている。
夕方、母様が迎えに来て、ようやくバッグを返して貰った。慌てて、中を確認する。良かった。在った。マリアちゃんは、涙が出て来てしまった。
もう、こんな幼稚園なんか大っ嫌いだ。そう思ったが、何も言えないマリアちゃんだった。
帰りも、母様と門番さんが一緒で、あの家まで歩いて行く。別の門番さんが、門の所に立っていた。お家の中からお城まで『転移』で帰るのだけれど、朝の婆やさんが、何重にも掛けている鍵を全部開けてくれる。最後に、母様と二人で、ゲートを使ってお城に帰るのだ。
明日からは、もう絶対、ワンドを持って行かないと心に誓うマリアちゃんだった。
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帝国セント・ゴロタ大学付属幼稚園では、先生達皆がホッとしていた。今日、朝早くシルフさんが園長室に現れたのだ。
シルフさんは、マリアちゃんが入園の時から、いろいろな連絡をくれる。小人種のエルフって聞いたことがないが、身長150センチの超絶美少女だった。噂では、帝室に関係している人らしいが、詳しいことはわからない。
シルフさんの用件は、当然マリアちゃんのことだった。今日だけ、マリアちゃんのお弁当バッグを預かって貰いたいとの事だった。聞くと、なんでも貴重なものがバッグの中に入っているそうだ。
なんで、そんな貴重なものを入れているのか聞いたところ、マリアちゃんが言うことを聞かないそうだ。
その貴重な物とは、何かと聞いたら、時価2億ギル相当のワンドとの事だった。
へ?2億ギル?
園長先生の年収の40年分だ。こんな杖1本で、そんな価値が。確かに柄に嵌っている魔石は綺麗だが、それほどの価値があるようには思えなかった。きっと、常人には分からない能力があるのだろう。
しかし、あのシルフさんって、一体何者?どう見ても15〜6歳しか見えないが、ゴロタ皇帝陛下の縁者って本当なのだろうか。でも、このワンドのことを、平気で2億ギルって言うところなんか、そうかも知れないって思ってしまう。
マリアちゃんの貰ったワンドは、クレイスノの木でできているみたいです。シェルの持っている『ヘラ・クレイスの弓』と同じ素材です。とても貴重な素材のようです。




