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第13話 放課後のお買い物

初めての学校は無事に終わったようです。放課後は、皆でお買い物です。

(12月10日の放課後です。)

  学校が終わってから、シズちゃん達と3人で買い物に行くことにした。ノエルちゃんの彼氏にプレゼントを買うみたいだ。彼氏ってよく分からないが、好きな男の子のことらしい。私は、男の子が嫌いだった。というか大っ嫌いだった。意地悪だし、汚いし、臭いし。


  ノエルちゃんの彼氏さんは、そんなことはないそうだ。今、野球部のピッチャーで4番で、次期キャプテンらしい。私には、まったく分からなかった。そういえば、未央ちゃんに包帯を買ってきてくれと言われていた。そのことをシズちゃんに伝えると、


  「麻里亜ちゃん、あなた、いつまで、その眼帯と包帯をしているつもり。それにあなたは生まれ変わったんだから、もう外したら。」


  と言われた。でも、今日、1日眼帯をしていたら、何故か世界の半分しか見えなくて、とても安心できたので、このまま着けていようと思っていたのだ。でも、それをはっきりと言えないので、黙って下を向いてしまった。


  「ああ、わかったわよ。好きにして。本当に、すぐにダンマリなんだから。前の麻里亜ちゃんも、意味不明のことばかり言っていたけど、コミュ障も困ったものね。」


  それから、まずファンシーショップと言うところで、ノエルちゃんのプレゼントを選ぶ。初めてのファンシーショップは、カルチャーショックの嵐だった。可愛い物や便利な物がたくさんで、一杯欲しくなる。こんな店、絶対に帝都にはないわ。でも、お金がないので、欲しい物の殆どは買えなかった。鞄の中にしまってあった財布には、380円しか入っていない。これでは何も買えない。


  ファンシーショップを出てから、ドラッグストアに行った。この店も、女の子にとって魔の店だ。何に使うか分からない器具とか薬が一杯売っている。でも、麻里亜ちゃん、198円の包帯を1個だけ買った。レシートと言うのが、機械から自動で出てきて、それには今日買った日時や品名、金額が入っているのには吃驚した。一体、誰が書いているのだろう。


  買い物を終えてから、皆で、コンビニに行く。ホットココアを飲みたかったが、お金が少し足りなかったので、小さなペットボトルに入っている紅茶を買って飲んでいた。若い男の子達がチラチラこちらを見ているが、私の眼帯を見て、あきらめて帰っていったようだ。そんなことは、まったく気にしていない私だった。


  夕方になったので、家に帰ることにした。家に着いたら、まだ未央ちゃんは帰っていなかった。母様が、一人でテレビを見ていた。そういえば、今日の朝も、このテレビと言う箱の絵を見ていたが、何か面白いのだろうか。内容が分からないので、見ていてもつまらない。


  部屋に戻って、部屋着に着替えた。朝のように制服をハンガーにかけておく。カッターシャツは、襟が汚れているので、下に行って、母様に新しいのはどこか聞いたら、『部屋のタンスの中に入っているでしょ。』と言われた。汚れたシャツは、洗濯機の中に入れておいた。きっとそうするのだろうと思う。


  居間の隅に、洋服やいろいろなものが置かれているアップライトピアノがあった。母様に弾いていいか聞いたら、『弾けるの?』とバカにされた目で、笑いながら了解を貰った。蓋の上に乗っている洋服や小物を下ろし、椅子を引いて座る。さすがに椅子に座る台は必要なかった。


  楽譜が何処にあるか分からなかったが、pこの前弾いていたショパンの『ノクターン9番』を弾くことにした。少し弾き始めたら、母様がテレビを消してしまった。身長が大きくなると言う事は、手も大きくなると言う事で、できなかった1オクターブの指の開きも楽にできるようになっている。


  私が、気持ちよく、最後まで弾いたら、母様が、近寄ってきて、


  『あなた、誰?』


  て、聞かれてしまった。え、何故?ただ、ピアノを弾いただけだし。それも5歳児でも弾ける簡単な曲だし。私は、なにか不味いことをしたのかなと思い、顔を真っ赤にして下を向いてしまった。


  今度は、後ろの本棚から、子供のツェルニーという楽譜を出してきて、一番最後のページを開いた。これを弾いてみろというのだ。これは私でも分かった。これを上手に弾いてはいけないと言う事を。


  本当は、すでに弾いたことがある曲だったが、途中、間違え間違え弾いておいた。母様の目が怖い。


  「あなた、小学校3年で、バイエルも終わらないで、ピアノをやめたのよ。このツェルニーだって、わざと間違えたでしょう。間違えるはずのないところで間違えているもの。それに、その指の運び。ピアノを弾きなれている指だわ。あなた、本当に誰なの?」


  私、観念したが、自分が何処の誰かなど上手く説明できない。小さな声でようやく言った。


  「私は、マリア。今朝、起きたら二階で目が覚めた。」


  母様が、部屋着の上着を脱ぐように言った。脱いで、背中を見せたら、大きなため息をついていた。身体は間違いなく麻里亜ちゃんだったようだ。小さい時に火傷をした後が、背中についているらしいのだ。元の世界のことも聞かれた。


  自分は、ゴロタ帝国に生まれた、マリアと言う5歳の女の子で、ここよりもずっと文明が遅れている世界からきたらしいと言った。魔法やスキルのことは内緒にしておいた。その方がいいと思ったからだ。


  母様は、5歳と聞いて、吃驚していた。やることが5歳にしては大人びているからだ。でも、ところどころ5歳らしいところがあるみたいだった。


  このことは、誰かに言ったのかと聞かれたので、シズちゃんとノエルちゃんは知っていると教えてあげた。母様は、本当の麻里亜ちゃんが戻ってくるまで、この家で暮らすように言ってくれた。


  ただし、絶対に身体は傷つけないようにと念を押された。あと、男の人と付き合ってはいけないと言われたが、意味が分からなかったので黙っていた。


  ピアノは何が弾けるのか聞かれたが、そんなに難しい曲は弾いていないので、分からないけど、ハノンは毎日やっていると言ったら、薄い『子供のハノン』という本を出してきてくれた。中を見たら、音符も大きく、少ないので、1冊を20分足らずで終わってしまった。


  母様が、押し入れの奥から、箱を出してきた。中には、楽譜が一杯だった。母様は音楽大学を卒業してピアノの先生をしていたらしい。結婚してやめたんだけど、私が産まれたので、期待して小さいときから教えていたらしい。でも小学校3年生の時から、練習をしなくなってしまったのだそうだ。そう話している母様は寂しそうだった。未央ちゃんは、最初からピアノには興味を示さず、身体を動かすことばかりだったそうだ。


  ショパンの楽譜をいくつか出されて、練習するように言われた。最初は、『エチュードOp.10-6』だった。ジッと楽譜を見る。右手の音を頭の中で奏でてみる。最後まで奏でてみた。うん、大丈夫かもしれない。


  右手だけ弾いてみる。情緒あふれる曲だ。3回ほど弾いてみる。3回目の時は、左手の音を頭の中で奏でながらだ。左手を弾いてみる。これは5回位弾いてみた。細かな音が主旋律に絡んでくる。


  両方を弾いてみる。途中、何度もミスをするが、手が大きいと言う事は、こういう事かと思ってしまう。あとは、練習だ。楽譜を見なくても弾けるくらい練習すれば、上手く弾けるはずだ。


  ハッと気が付いたら、もう部屋は薄暗かった。母様が部屋の明かりを付けてくれた。なぜか母様は泣いていた。


  「あなた、本当は麻里亜でしょ。ううん、絶対に麻里亜よ。どんなに待ち望んだか。もう離さないわ。私の麻里亜。」


  ちょっと引いてしまう。でも本当の母様に似た美人さんだし、私が元の世界に戻ったら、きっと本当の麻里亜さんだって帰ってくるはずよ。私は、とりあえず、この家を追い出されないで済んだので、ほっとしていたのだった。


  未央ちゃんが帰ってきた。未央ちゃんは、小学校6年生で、ソフトボール部のキャプテンらしい。しっかりしているはずだ。ソフトボールと言うものがどういうものか知らないが、きっと楽しいのだろう。


  未央ちゃん、夕食前に、お菓子をモリモリ食べている。食べ終わったら、ソファに横になって、テレビのアニメを見始める。私は、絵が動くのはすごいと思うが、内容はちっともわからなかった。部屋に戻って、宿題をすることにした。


  数学の計算問題と、英語の書き取り問題だ。あっという間に終わってしまった。部屋をよく見る。たしかタンスの引き出しに着替えが入っていると言っていたので、確認する。タンスの中は洋服で一杯だった。押し入れの中も、棒が渡してあって、洋服が一杯吊り下げられている。こんなに一杯あったって、絶対に着れないだろうに。制服のコートを着てみる。うん、温かい。明日から、着ていくことにした。あと、お金が必要だ。お母さんに相談しよう。あ、そうだ。包帯を買ってきたから交換して貰わないと。


  階下に降りていくと、母様は食事の準備をしていた。未央ちゃんは、ソファの上で眠っている。テーブルの上に、包帯を置いて、またピアノの前に座る。なんとなく今日の気分を曲にしたい。


  右手で、小さなトレモロを弾く。AmのコードからD7とFと展開していく。左手で、旋律を弾いていく。途中、右と左の交代だ。次に3度移調する。右手で、高音部から一気に弾き下ろしていく。そして主旋律部に戻り、最後は2回主旋律を弾いて終わった。


  「お姉ちゃん、すごいね。いつ練習していたの?」


  「学校。」


  嘘は言っていない。孤児院だって学校みたいなものだ。母様から、今の曲を楽譜に書くように言われ五線譜の束を渡された。食卓で、書き始めると、未央ちゃんが、


  『え、楽譜覚えているの?』


  と聞かれた。楽譜は覚えていない。今、作った曲だから。でもメロディーは覚えているので、楽譜に落とすのは訳が無かった。


  母様が、じっと楽譜を見ている。途中、ピアノで音を確認しながら、最後まで読譜していた。


  「麻里亜ちゃん、あなた作曲のこと、どこで習ったの?」


  私は、首を横に振る。今日、初めて引いた曲だ。作曲って良く分からないが、綺麗なメロディーが頭の中に浮かぶので、音にするだけだった。お城でも、練習以外の時間にピアノで遊ぶときは、いつもやっていたのだ。


  結局、今度の日曜日に母様の昔の先生に会いに、立川と言うところまで行くことになってしまった。

マリアちゃんは、ピアノも得意です。音を聞いて、楽譜が書けるようです。いわゆる絶対音感ですか。5歳児でノクターンの9番はチートですが、中学2年生なら普通に弾けるはずです。

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