第1話 若きマリアの苦悩
『紅き剣と蒼き盾の物語』が完結した後、こつこつと書き溜めておりましたネタをもとに、スピンオフ作品を執筆しました。それで、『外伝』と付けた訳です。前作ではなかった現代の設定に苦労しております。実在する建物や人物、会社などが出てくることもありますが、なんといっても現代の日本ですから、仕方がありません。
現在の中学校がどんなふうになっているか、よく知りませんが、その辺は、あまり深く追求せずに楽しんで貰えれば幸いです。
(王国歴2033年7月5日です。)
神聖ゴロタ帝国セント・ゴロタ市にあるゴーレシア・ロード・オブ・タイタン1世皇帝陛下の居城では、皇帝陛下の唯一のお子様、皇帝承継順位第1位のマリア・クレスタ・タイタン王女殿下の5歳の誕生日のお祝いのため、朝から皆忙しく働いていた。
自分の父親であるゴロタ皇帝陛下は、常に王城内で忙しそうに仕事をしているし、皇后陛下も一緒だ。マリアちゃんはいつも母様のクレスタと2人で居室のある王城内4階をうろうろしているが、絶対に3階の大きな扉から向こうに行ってはいけないと言われている。また、屋上に上がってもいけないそうだ。まあ、4階だけでも廊下が300mもあるので、特に行きたいとは思わない。というか、マリアちゃんは、知らない人と話すのがとても苦手だ。それは、相手が大人だろうが子供だろうか同じだ。老若男女すべてが苦手なのだ。
自分では、何故か分からない。怖いわけではない。単に苦手なのだ。
マリアちゃんが話をするのは、母様以外には、王城内の4階に住んでいる人達の中でも一部の女性と女の子だけだ。
女性と女の子の違いは、良く分からないが、とにかく、大人だろうが子供だろうが、王城内4階の女性のうち何人かは大丈夫だった。あと、メイドさん達の中でも何人かは大丈夫なのだが、そのメイドさん達は、マリアちゃんがこの王城に来る前から、メイドとして仕えていてくれた人達だ。マリアちゃんが物心ついた時には、すでにお屋敷の中にいた人達だった。
マリアちゃんは、去年から、王都にある帝国セント・ゴロタ大学附属幼稚園に通園している。今、年中さんだ。去年、幼稚園に通い始めてから、幼稚園では絶対に魔法を使ったり、力を使ってはいけないと言われていた。
魔法を使う必要なんか少しもなかった。幼稚園の子達は、マリアちゃんと一緒に遊ぼうとしないのだ。最初の頃は、一緒に遊ぼうと誘ってくれたが、ずっと下を向いて黙っているマリアちゃんとでは、遊びにならないので、直ぐに嫌われてしまったのだ。
マリアちゃんが一番好きな遊びは、黒い石板に白墨で描くお絵かきだ。お花や犬や猫を描いている。人間は書かない。基本的に、人間は嫌いだった。幼稚園の先生も、いろいろ言ってくるが、マリアちゃんの気に入らないことを無理強いしてくる時があるので、そんな時はじっと下を向いている。困った先生は、マリアちゃんのことは放っておいて、他の園児の面倒を見始めるのだ。
今日の誕生日は、マリアちゃんが主役だ。仲の良いメイドのシンさんが、マリアちゃんに新しい服を着せてくれた。帝都で1番の洋服屋さんで仕立てさせたものだ。
ピンクのミニワンピで、スカートの裾がチューリップのように広がって、中にレースのフリルがいっぱい入っている。真っ赤なリボンを腰に巻き、後ろで蝶々のように広げて垂らしている。とても可愛らしい。
今日は、グレーテル王国の王都から、カテリーナおば様とシンシアちゃんも来ている。カテリーナおば様は、お絵描きが得意なので、マリアちゃんの姿を、デッサン帳にサラサラと描いてくれた。後で、ちゃんとした油絵にして送ってくれるそうだ。
2日前からお城に来ているレオナちゃんが、ママのミキおば様に、『自分もこういうワンピが欲しい。』と甘えていた。レオナちゃんは、かなり甘えん坊だ。ミキおば様は、困った顔をしている。
「今度、グレーテル王都の四越百貨店に見に行きましょうね。」
と、絶対に来ない『今度』を言って、なだめている。ミキおば様は、王立音楽学院大学の4年生だが授業はほとんどなく、コンサートやコンクールの審査員など、1年中、世界中を飛び回っている。レオナちゃんの事は、シェル母様にお願いしていることが多いのだ。レオナちゃんと一緒に買い物に行くのがいつになるのか。
他の女の人は、『おば様』と呼んでいいのだけど、シェル母様だけは『母様』をつけて呼ばなければいけないそうだ。
パーティーが始まった。おば様達と、お姉さま達が勢揃いした。
おば様達は、父様の妻達だ。お姉さま達は、父様の元婚約者だったそうだ。今は、全て婚約を解消されているが、一緒に暮らしているのだ。
父様が帰って来た。あれ、3階のドアの向こうの、行ってはいけない所に居た筈なのに、4階から降りて来た。真新しいお洋服を着ている。シェル母様も一緒だ。あれ、さっきまでここに居た筈なのに。
おば様達が立ち上がって父様とキスをしている。いつもは、しないのに今日だけするのは何故なのか分からない。
キスが、ようやく終わった。でも、母様は何故か、キスの列に加わらなかった。ニコニコ見ているだけだった。
食事の前に、マリアちゃんは父様からプレゼントを貰った。細長い箱にリボンがかけられている。マリアちゃんは、期待に胸が膨らんでいる。もしかしたら、前から欲しがっていた『あれ』かもしれない。
父様が、プレゼントを渡すときに、マリアちゃんのほっぺにキスをしてくれた。これも珍しい事だった。お返しに、父様のほっぺにチュウをしてあげる。お髭がチクチクする。
箱を開けてみる。思った通り、箱の中は『ワンド』だった。それも、いつものトネリコの木を削って作ったものではない。見たこともない白い木でできていた。持ち手の部分に、大きくて真っ赤な色の魔石がはめられている。
シルフさんが、『これを使うときは、このリボンを頭に巻いてね。』と言って、赤いリボンをくれた。額のところに、見たこともない水色の石が嵌っていた。
一人で巻けるように、後ろの方が伸び縮みするようになっている。やって見ると簡単だった。鏡の前に立って、位置を直してみた。ちょうど、おでこのところに石が来るようにした。うん、可愛らしい。
レオナちゃんが、自分も欲しいとぐずっていた。また、ミキおば様が『今度ね。』と超不確定返事をしていた。
食事の前に、ワンドを使ってみることにした。皆で、裏庭にある屋外鍛錬場に行ってみる。勿論、父様のゲートを使ってだった。
20mくらい先に、魔法測定人形を置く。この人形は、綺麗な銀色の金属でできている高さ50センチ位の人形だ。受けた魔法力によって色が変わるようだった。母様が以前に、レベル4まで12段階で測れると教えてくれたものだった。
マリアちゃんは、一度、使わせて貰ったことがあるが、その時は、壊れてしまったみたいで、もう2度と使わせて貰えなかった。
マルの描いている場所にワンドを持って立った。父様達は50m位離れた所に立っている。思いっきり魔法を使って良いらしい。
マリアちゃんは、ワンドを上に伸ばして、火をイメージした。いつもは、松明の火のイメージだが、今は、大きな薪を組み上げたキャンプファイアの火をイメージした。
ワンドが、赤く光り始めた。父様は、蒼くて大きなシールドを張っている。母様とおば様達が、その後ろで一塊になっている。失礼しちゃうわ。
父様が、『思いっきり』って言ったので、イメージの薪をもっと足してみた。うん、本当に大きな火だ。もう、いいか。マリアちゃんは、ワンドを振り下ろすとともに、
「ファイア!」
いつもは、大きな炎がワンドから迸るのだが、今回は違った。
プション!
情けない音を立てて、ヘナチョコ炎が、測定人形に当たった。人形は、ほんの少し赤いと言うかピンク色がかっただけだ。ノエルおば様が、魔力対比表を持って、測定人形の色と比べている。
『レベル1よ。成功よ。』
何が成功なんだろう。
これでお試しは終わった。父様が、頭のリボンに手を当てて、ブツブツ何か言っている。おデコがスースーする。
「マリア、このリボンは何があっても外しちゃいけないよ。いいね。」
父様は、このリボンが外れないように魔法をかけたみたい。寝るときは勿論、お風呂に入る時も駄目なんだって。なんか不潔な気がしたけど、お日様の光に当たると綺麗になるってシルフさんが言っていた。
その日の夜、マリアちゃんはプレゼントのワンドを抱いて寝た。夜中に、母様がそっと箱に戻してくれたのは、ちっとも気がつかなかった。
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その夜、ゴロタとシェルがシルフから、あのワンドの説明を受けていた。ノエルも一緒だ。
「結局、マリアの魔法レベルは『1』に制御されたと言うことですか。」
相変わらず、誰に対しても丁寧語のゴロタだった。
「はい、あのリボンの魔石とワンドの魔石が逆位相でシンクロ、魔力を吸収してマリア様に戻しています。仕組みと組成方法をお教えしましょうか。」
しまった。これ以上は、無駄知識だ。
「あ、いや結構です。マリアの発育に影響は無いのですか?」
「影響というか、極大魔法が使えないマイナス面は有りますが、それが何か?」
本当に、嫌な言い方をする。最近、こんな言い方が目立って来た。シルフは、アンドロイド、こちらの世界ではゴーレムなのだが、3年位前から喋り方がシェルに似て来た。
「それで、魔力は良いとして、スキルはどうなんですか?『念動』や『復元』は、そのまま残っているのですか?」
「はい、その能力を制御する事は、現在のマザーの能力を持ってしても不可能でした。」
この『マザー』とは、この世界とは、異なる時空連続体にある『スーパーコンピュータ』のことだ。シルフとクレスタ、それにゴロタとシェルの影武者が常時リンクしているそうだ。
「では、その辺は、マリアに良く言い聞かせて下さい。」
クレスタが、了解のポーズを取る。まあ、頭を下げるだけなのだが。
シルフが、妊娠による不適合症候群に対する免疫抑制剤が完成したと報告してきた。これで、クレスタ、人間の方のクレスタのような事はないそうだ。
シルフとノエルが、現在の治癒院の施設では、35歳までの出産は安全に出産できるそうだ。だが、それで妊娠できるかどうかは別だ。人間のクレスタの場合は、奇跡的に妊娠できたが、それ以来、誰も妊娠していない。クレスタが死んでからは、ゴロタの力で、誰も妊娠しなかったのだが。
「その事は、今度、エーデル達を交えて話し合うことにしよう。それでは、僕たちは、これからまた、あっちの大陸に戻ります。後は、宜しく。」
ゴロタは、時空の狭間に仕舞い込んでいた、ゴロタとシェルのコピーを出した。今日の昼間の格好のままだ。2人は、じっとしている。今の会話も、勿論クラウドで共有しているのだ。
ゴロタとシェルは、ゲートを開いて、『あっちの大陸』に転移していった。
ゴロタとシェルのコピーは何もなかったように、自分達の部屋に戻っていった。
シルフは、『あっちの大陸』にも1体あるが、異世界のスパコンが同時並列処理で制御しているので、どちらも本物のシルフだった。
最初は、ゴロタ帝国の皇女としての日常を描いてみました。父親のゴロタ皇帝は、アンドロイドに後を任せて、冒険三昧の人生を送っているようです。
娘のマリアちゃん、かなりチートですが、まだまだ5歳の女の子です。
力の使い方をまったく分かっていません。マリアちゃんの力を知っている周りの人たちは、いつもハラハラです。




