3話 それぞれの
翌日レイン達は洞窟に向かい出発する。
季節は春を迎えたばかりで暖かく天気も晴天。幸先の良いスタートと言える。
「うわぁ〜………こう暖かいと眠くなるわね」
「おいおい王都周辺は比較的安全と言っても魔物は出るんだぞ」
「どんな魔物が出現するか知ってるスウレカ?」
「話によるとコボルトが出るそうです ただ群れは居ないようです」
「コボルトか。村の近くにも居たなあ」
直立する犬と表現するのが一番しっくり来る魔物。
背丈は成人の半分程しかなく身体能力は並だが群れると凶暴化し馬車等を襲う。ただ常に冒険者が討伐しているためか王都周辺には滅多に現れない。
「魔物って一体何なんだろうね」
「私が教会から習ったのは神を呪い恨む存在である《魔王》が産み出したと」
「爺ちゃんがあれは人から溢れた悪い心が動物に取り憑いたとか言ってたな」
「俺は何処かに魔物の住む世界があってそこから来るって父さんから」
「何よみんなバラバラじゃない」
本当の所解らないというのが通例でありそもそも魔物の定義もハッキリしていない。一般的には人を襲う凶暴な動物とされているが動物が人を襲わない訳でもない。
レイン達が言っていた様に地域や時代によって異なり定説は無いに等しい。
「おっと、とかなんとか言ってると来たわよ」
荒野を抜け森に足を踏み入れた時それは現れた。
コボルトだ。
数は二匹で唸りを上げこちらを威嚇している。
「隊列を!」
カールが全面に出てレインが直ぐ後ろ、少し離れスウレカとミリーシャが位置を取る。
「レイン皆に指示をしてくれ」
「お、おう。カールは攻撃を受けて俺が攻撃する、スウレカは誰か負傷したら回復を。ミリーシャは後ろを警戒しつつ援護を」
『グルゥァ!!』
前に出たカール目掛け二匹のコボルトが襲いかかる。
「させるか!!」
『グガッ!?』
カールは一匹のコボルトをもう一匹のコボルトに押し当てる。
「今だ!!」
たたらを踏み戸惑うコボルトにレインが斬りかかる。
ザシュ!!
『グギャー!!』
一匹を袈裟斬りにしたあともう一匹のコボルトを横に剣を振り首を落とす。
断末魔を上げたコボルトは血を吹き出し動かなくなる。
「終わったか。やるなレイン」
!カールも見事だったよ」
「お見事です」
「へえ〜やるじゃん二人共」
お互いを称えるカールとレイン。スウレカが素直に感想を言いミリーシャが感心する。
こうしてパーティーとして最初の戦闘が終わった。
「今日はここで野宿しよう」
日は暮れ森の中が暗くなる。
広けた場所に出たレイン達は此処を野宿の場所に決めた。
握り拳大の石を輪になるように置きその中に枯れ枝を入れ火を付ける。
「スウレカ水汲みに行こう」
「鍋は私が持ちますね」
「俺たちはどうすればいい?」
「寝る場所の小石を取り除いてアドバイス魔物が見える位の高さまで草を刈ろう」
カールとレインが周りを整地してる間にミリーシャとスウレカが食事の準備をする。
「料理するの?」
「ええ。教会の炊き出しのお手伝いとかよくしてましたから」
水を沸かし買っておいた肉に道中採取した食べれる草を入れ塩で味を整える。
パンも王都で買った物を用意する。普通こういった冒険の途中の時に食べるパンはカビの生えにくい乾燥パンなのだが今回は近場なのでこれにした。
「出来ましたよ」
「うひょー!旨そう!」
「煩いよカール」
「旨そうなもんを旨そうと言って何が悪い。なあレイン」
「ははは確かに旨そうだ」
それぞれにパンとスープが行き渡り食べ始める。
柔らか目のパンと丁度いい塩加減のスープが合う。
「ん〜良いわね。暖かいの食べるとホッとするわ」
「旨い!旨い!」
「この場ではこんな物でしょうか。レッツさん如何です?」
「ああ凄く旨いよ。野宿で食べられる物じゃないな」
皆あっという間に平らげ後片付けをして白湯を啜る。
夜はまだ冷えるので焚き火の暖かさはありがたい。
「そう言えばみんな何で冒険者になったか聞いていいか?」
レインが三人に聞く。
レインの村には同じ年頃の子が居らず冒険者を目指したのもレインが20年振りだと村の長老に聞いていた。なので他の人の動機に興味があった。
「俺は歴史に名前を残す為だ!カッコいいだろ!!」
「何て馬鹿の答えなの…………」
「わはは!キツいなぁミリーシャは」
「今の何処に笑う所があるのよ!?私は其処のとは違うわ!ズバリお金!!一攫千金を狙うなら冒険者以外にないわ」
「昨日もそんな事言ってたなお前、どうすんだよ金稼いで」
「そりゃ勿論一生豪遊生活よ。憧れるわぁ〜」
「何て馬鹿な答えだ…………」
「私は将来司祭になる為の社会勉強です。色々な経験を積まなければなれない職業なのです」
「司祭って何する人なの?」
「神の最も近くで仕え(つか)神の教えを広げ人々を幸福へ誘う(いざな)尊き存在です」
「あっはい、なんか悪い」
「志し(こころざ)低くてスミマセン」
「宜しいんです。人というのは違うのですから」
「そうかみんな動機が違うんだな」
「レインお前は?」
「父さんが冒険者でその影響だよ」
「あなたのお父さん有名だったの?」
「どうだろう。ギルドのランクの件は昨日初めて知ったんだ。父さんからはその事は何にも聞いて無かったから夢じゃなかったんじゃないかな」
「お父様は今も冒険者を?」
「それも定かじゃないよ。もう8年会ってない」
「そんな………」
「おいそれって…………」
「こら!カール!!」
「いいんだよ気を使わなくても」
慌てる彼等の様子を見てやっぱり良い奴らなんだとレインは嬉しくなる。
「多分生きてないだろうね」
「レインさん………」
心配げに自分を見るスウレカに笑いかけ、
「父さんは何時も言っていたよ『もし1年以上帰ってこなかったら死んだと思え、そして笑ってやってくれ。自分の好きな事して死んだ幸せ者だったってな』って」
レインの記憶にある父はとにかく豪快で優しい人物だった。
「冒険者の話を父さんは沢山してくれた。苦しく悲しい思い出も楽しく嬉しかった思い出も。だから何時しか俺は冒険者に憧れたんだ」
言うなればレインが憧れるのは冒険者であり父でもある。
「でもよ死んだと決まった訳じゃないんだろ?ならもしかするかもしれんよ」
「そうよ以外とアッサリ会えるかもよ」
「レインさん。また会えると信じてください」
「ありがとう、カール、ミリーシャ、スウレカ」
こうして夜は更けていった。