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タロットカードと旅をする

桜並木の下(もと)で

作者: 涼織

これは以前に発表した「桜の涙」の『母子バージョン』です。

前作が、ひとりで『死』を受け入れるstoryから~同じ『死』を母子ふたりで分かち合うお話です。


そしてこれは~『栞』の母親のお話でもあります。祖母から母、そして『栞』へと代々受け継がれてきた不思議な力の物語です。




「今年の桜は特別綺麗ね~。でもそろそろ散り始めるのかしら? また来年ね!」そう言って母は私を見て微笑んだ。私は黙って笑いを返す。

母の乗った車椅子を押しながら、桜並木の下をゆっくりと歩いて行く。「少し風が出てきたわね、寒い?」と聞くと、「うん、少し、、でももう少し眺めていたいから、ねっ、良いでしょう?」と言う。「そうね、そうしましょう。」私は自分に言い聞かせる陽に返事をすると、、『ずっとこのまま歩いていられたらいいのに。』っと思った。

本当は、今日どうしてもしなければならない大事な話があった。だから母の様子を見ながら切り出すつもりでいたのに、、どうしても言葉が出てこない。



 母が家で倒れたのは去年の秋の事だった。その日救急車で運ばれ、そのまま検査入院となった。そしてその1週間後に医師から呼び出され、「肺がんの末期です。既に何か所か転移もあり、治療は難しいと思います。」と言われた。いきなりの事で私は取り乱し、「何とかならないのでしょうか?」と医師に詰め寄った。が、しかし医師の返事は「残念ですが、、持っても1年でしょう。」と言う残酷な物だった。


それでも、そのまま入院して、どんな事でも可能性がある場合は全て施して貰った。「絶対に治るから!」と言い続けた私の嘘を信じてくれたのかは分からない。けれど、母は辛い治療に本当によく耐えた。自分の為というよりきっと私のために。

私達親子はずっとふたりっきりで生きてきた。頼れる親戚も無く、友人知人も殆どいない。文字通り二つの肩を寄せ合って生きてきたのである。だから母がいなくなると私はひとりになってしまう。


 そんな不安の日々を過ごして半年が経った。そして一昨日、奇しくも私は20歳の誕生日を迎え、母とふたりでケーキとジュースのささやかなお祝いをした。そしてその日の母はそれまでの症状が嘘の様に、もしかしたら癌細胞が全て消え去ってしまったのでは?と思える程にとても元気だった。私は『諦めなくて良かった、母はきっと快方に向かっている、、奇跡が起きたのかもしれない。」と喜んだのであった。が、しかし、、その日の夜、医師から「これ以上はむしろ死期を早める事になるので、治療は断念べきです。」と冷酷な宣言をされた。

「でも、あんなに元気に見えるのに、、そうでしょう?今日の母、別人の様ですよね?」

「それは、不思議な事なんですが、、がん患者の殆どは、必ずと言って良い程、終末期になると、ほんの一時信じられない程、回復したかに見える時期があるんです。でもそれは、むしろ確実に死が近付いている証明でもあるんです。本当に残念です。もうあまり時間がありません。ですから、この後はホスピスに移り、お二人で残りの時間をゆっくりと過ごしてはいかがですか?勿論、お母様、ご本人の承諾が必要ですが、、。」


『とうとう来るべき時が来てしまった。』私は一晩寝ずに悩み考え続け、そして、母をホスピスに送ろうと決めたのだった。

でも、、『母に何と言おう、私を信じて今まであんなに苦しい治療に耐えてきたのに、、。』



 と、その時母が、「やっぱり少し寒いわ、戻りましょうか。」と静かに言った。

「そうね、そうしましょう。」と答えながら、私はゆっくりと車椅子の方向を変えた。そして『今日中に話そう』と改めて自分に言い聞かせた。


病院へ引き返す並木道ではふたりとも黙っていた。私はふと空を仰いだ。何処までも続く青空に盛りを過ぎた桜の花弁が流れるように舞っていく。

桜の花は、一年の内、たった1週間だけ思いっきり咲き誇る~そして最後は妖艶に花びらを嵐のようにまき散らして去っていく。桜も人も、命がある物全てに必ず終わりがあるのだ。

そんな事を思いながら母の後ろ姿をみていたら、、目の前が少しかすんだ。っとその時、急に今まで抑えていた感情があふれ、涙がこぼれた。直ぐに手の甲で涙を拭い、『母に気付かれませんように!』っと祈りながらゆっくりと車椅子を押し続けた。


その時だった、、。


「どうして泣いてるの?」っと何処からか可愛い声が聞こえた。


はっとして、声の方を見ると、、、4~5歳くらいだろうか、目のくりくりっとしたおかっぱ頭の女の子が目の前にいた。


「ううん、泣いてなんかいないわ、、桜のお花見てたら、何か悲しくなっちゃったの、変ね。」

まるで母に言い訳をする様に~その子に向かって答える。


「変じゃないよ!お花もバイバイはね~嫌なんだよ。お姉ちゃん、これあげるから泣き止んでね!」そう言いながら小さく握った手を私の方へと出す。

「はいっ、これあげる!」!」

そうして3枚の花弁が私の手の平へ降りてきた。

「ありがとう、とっても綺麗!」


その時母がゆっくりと振り返った。

「素敵な贈物ありがとう。」そう言って微笑む。


「うん、じゃね~ばいば~い~~~。」


手を振りながら元気に駆け出すと、、不思議な事に、一瞬で消える様に姿が見えなくなったのだ。えっ、、これって、錯覚、それとも幻?いやそんな筈はない。その証拠に私の手には3枚の桜の花弁がある。暫し呆然としていると、、母が柔らかく微笑んで、


 「あの子の言う通りだわ、お別れはいつだって嫌だし、悲しい。でもね、それは必ずいつかやってくる。私達にもね。」


「お母さん、何言ってるの?お別れなんてやめて、そんな事言わないで!」


「大丈夫よ、私がいなくなっても、あなたは一人にはならない。すぐにあの子が現れるわよ。」


「えっ?それって、、一体どういう事?」


 「詩音、今まで本当にごめんなさい。実はね、、私が先祖代々の困った力を授かったばかりに、人を避けて生きるしかなかった。だからいつもあなたには寂しい思いばかりさせしまった。でもね、詩音、あなたは無事に20歳を迎えた。だからこれでもう大丈夫!今後その力が出て来る事は絶対に無いの。その力はどんなに遅くても20歳前に、本人が実感し自然と使い始めるの。でも、あなたは違った!つまり、あなたには受け継がれなかったんだわ。私の願いが通じたのよ!だからこれからあなたは、ごく普通の女性として生きていけるの!私はそれだけが気掛かりでこの半年を過ごしてきたの。でももうこれで安心ね。いつでも旅立てる!」


 母の話によると、代々女性のみに受け継がれる特殊な力があるのだという。人の考えが分かってしまう。心の声が聞こえてくる。そして相手の目をみながらこちらの意志を伝えると、相手はそれに逆らえなくなるというのである。勿論、母はその自らの力に怯え、人に悪影響を与えない様、ひっそりと生きる事を選んだという。そして常に、私の力がいつ目覚めるのかを心配し見守ってきたという。


確かに私が物心ついた頃には、母には人よりずば抜けて鋭い『感』以上の力がある事には気付いていた。ただそれについて何も聞いた事は無い。何故か、、幼心にもそれには決して触れてはいけないのだと、私には分かっていたからだ。でも私はずっと母とふたりだった事に何の不満も無かった。それ程に母が大好きだったからだ。母さえいてくれれば、それだけで満足だったのである。


「詩音、良く聞きなさい。私は自分の死期を既に知っている。これはもうどうしようも無い事なの。あなたが一生懸命隠そうとして、それで悩んでいた事も、、ごめんなさい、知ってたわ。有難う、色々気に掛けてくれて、、本当に有難う。でもね、私、もう少しあなたと一緒にいたいわ!だからホスピスに移って、そしてお喋りしたり散歩したり、ふたりでゆっくりと、過ごしましょう。」


「お母さん、全部分かっていたの?」


「そうよ。」母はまた優しく微笑む。


「私が逝った後、暫くは一人になる。でもね、詩音、あなたには必ず一緒に生きていく人が出来るの。あの子、あなたのところに娘になってまたやって来るわ!でも、それでも寂しくなったら、いつでも空を見上げなさい。私はいつでも其処にいてあなたを見ているから!」



母はいつも強くて優しい人だった。だから私はいつも甘えていられた。でも、、これからは一人になる。不安で胸が押しつぶれそうだ。でも、母の言葉を信じよう。そして母の娘である事に誇りを持って生きていこうと思う。私は決してひとりであっても独りではない。


『有難う、、お母さん、本当にありがとう。』





拙い文章を受け入れ、読んで頂きありがとうございます。


今後、より一層努力を重ね、面白い作品を書いていきたいと思います。



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