27 特訓と再会と
わたし達は今、王都の外に来ている。
あのオーガの一件からしばらく経ったので、怪我はもう治った。
今日は何をするのかというと。
「じゃあ、試してみましょうか」
「うん。いくよ。ウィンド・エレメント!」
瞬間、わたしの身体に風がまとわりつく。
今レティが唱えた魔法はレベル4の風魔法だ。対象に風属性を付与する魔法なんだけど。
「このままどうしたら?」
「走ってみるとか…」
「なるほど」
早速走り出す。あ、いつもより速い気がする。追い風を受けてるみたいな。
自分で魔法を発動するのと、他人から魔法を付与してもらうのでは全然違う。
便利だけど不便というか。
「これは慣れるまで大変ね」
戦闘中にいきなり付与されたら却って戸惑う気がするわ。
「でも、使いこなせば良い武器になるわ」
「うん。がんばろ」
この魔法を使えば、爪を振り下ろすだけでウィンドカッターみたいなのが出てくるようになる。
わたしとレティの力が合わさって、より強力なものに変わる。
これを使いこなせれば、オーガにも苦戦しなくなるだろう。
「あと、スキルの方ももっと練習したいわね」
「あの格好いいやつだね」
レティはテイルナイフが格好いいらしい。あの時痛みのせいでハイだったから叫んだけど、今となってはちょっと恥ずかしい。
「わたしスキルの練習するから、レティは少し離れてわたしに魔法使ったりしてみてくれる?」
「うん。その方が実戦向きだよね」
「そうね」
あの時のオーガ戦は何とか勝てたし、その後助けてもらったから無事だったけど、次も助かるとは限らない。もっともっと強くならないと。
「そうだレティ。鑑定してもらっていい?」
「うん。いいよ」
最近してなかったからね。
名前:シュガー
種族:ヴァイスフックス(ユニーク)
性別:雌
状態:普通
HP:651/705
MP:512/562
魔法属性:水(Lv3)、土(Lv3)、光(Lv2)、(闇)
スキル:変化(Lv5)
名前:レティシア
種族:エルフ
性別:女
状態:普通
HP:266/290
MP:402/498
魔法属性:水(Lv3)、風(Lv4)
スキル:鑑定(Lv4)
「シュガーのスキルレベル上がってる」
「ああ、やっぱり上がってたのね」
オーガのときそんな気がしたのよね。
「レティも鑑定上がってる。あと…」
「何?」
「シュガーに(闇)って出てる」
闇? 使ったことないんだけど。
「身に覚えがないわね」
闇魔法の情報は少ない。レベル1が『死の威圧』っていうよくわからないものなせいで、使える人は少ないらしい。
でも、今なら使えるってこと?
字面的に気が進まないんだけど。
「うーん。それはまた今度でいいわ」
「そっか」
もう少し調べてからでもいいだろう。今は特訓だ。
テイルナイフを使ったり、その状態でウィンド・エレメントを使ってもらったり、いろいろやっていたらあっという間にお昼になってしまった。
「お昼はカレーがいいんだっけ?」
「うん」
レティのご希望でお昼はカレーだ。
今回はお米を買ってきたので、カレーライスになるぞぉ。
前回とは少しスパイスを変えてみる。あれは量を減らして、これは増やして、微調整をして、カレーを作る。今日はお腹いっぱい食べたいので、多めに作ろう。前回それなりに食べられたから、微調整くらいじゃ不味くはならないだろう。
粉になってるスパイスも売ってるけど、ちゃんと原型のものも売っている。クミンは最初に炒めると香りが立っていいって昔聞いたんだけど、最初ってどこ? ってなったので前回は入れなかった。
だが一度作ればタイミングもわかる! おそらくみじん切りのタマネギを炒める前に入れればいい…はず! うん! なんかそれっぽくなった! 気がする!
さて完成だ。ご飯はもう少しかな。
「お腹すく匂い」
「もう少し待ってね」
なんて会話してたら、何かが近づいて来ていた。
何かっていうか人っぽいんだけど。
「誰か来たよ」
「匂いのせいかしら」
ヒト型だと耳も鼻も人並から少しいいくらいでしかないから、聞き分けたりできないのよね。
「ヴィックさんじゃないかな」
「後ろに三人もいるわね」
何故かヴィックさんが突然走って向かってきた。何あれ怖い。
「いい匂いがするぞ!!!」
「いきなり走り出すんじゃないわよー!!」
相変わらず賑やかだなあ。
どうしよう。今ヒト型なんだけど。
「レティシアじゃないか! この前ぶりだな!」
「こんにちは」
レティが挨拶をしていると他の三人も追いついてくる。
「こんにちは。今日はレティシアさんだけなのですか?」
「レティシアちゃん何食べてるのー?」
「カレー」
そういえば飯だった。お皿にご飯とカレーを盛ってレティに渡す。
「シュガーはいないの? またウルフでも狩りにいってるとか?」
「うーん…」
レティが返答に困っている。そりゃそうだ。
どうしよう。まあでも、この人達なら言ってもいいかなって思うけど。
「そのカレーというものはなんだい!?」
「あー…食べてみますか?」
わたしがヴィックさんに話しかける。
ヴィックさんがカレーに興味津々なので、いっそのこと食べさせてしまおう。
ちょっと多めにしといてよかった。
「いいのかい!? ありがとう!」
「ごめんなさい。この方は美味しいものに目が無くて」
「大丈夫ですよ。口に合えばいいですが。他の方もどうぞ」
「やったー」
「ありがとうございます」
「悪いわね」
レティがいるからか普通に信用されてる。すごいな。
とりあえず、全員にカレーライスを渡した。
久々のカレーライス! 早速一口食べる。おお、美味しくなってる。
「レティどう?」
「前のよりおいしい」
「それは良かった」
他の四人も食べる。
「うまい!!!」
「美味しいです」
「おいしーい」
「なかなかいけるわね」
良かった、好評みたいだ。
「ところであなたは?」
セレーナさんに尋ねられる。ですよねー。
「んーと…」
「君はシュガーだろう?」
「…は」
え。
「いやあんた何言ってんの?」
ルースさんがヴィックさんに言う。
普通そういう反応になるよね。
「何を言っているんだい。従魔証をしているじゃないか」
ああ、そういえばつけたままだった。
「ええ? ホントに?」
全員の視線がわたしに集まる。
これはもう隠しておく必要はないね。
「よくわかりましたね」
ホントに。よくわかったなこの人。
「えええ!? シュガーちゃんって人間だったの!?」
女性三人がすごく驚いた表情をしている。
「いえ、魔物の方が本体です」
「じゃあそれ、スキルなの? なんてやつ?」
「そうです。変化といいます」
「そんな魔物がいるんだぁ…」
「ヴァイスフックスだからでしょうか?」
「わたしはユニーク個体なので、普通のヴァイスフックスについては知りません」
「ユニーク…そりゃあそうよね」
おそらく他のヴァイスフックスには無理だと思う。
変化が使えたとしても、人間になるのは難しいだろう。
わたしだって元人間だからできたんだろうし。なにせわたしは鳥にはなれなかった。
「人間になれるなら言葉もわかるし友達にもなれるでしょうよ」
ルースさんが納得したようにつぶやいた。
「この前は助けていただいたのに、お礼も言えず申し訳ありませんでした」
「気にしなくていいさ!」
「そんなスキルじゃ言えなくて当然でしょう」
恩人に隠し事してたのに、良い人達だなあ。
カレーを食べる手が誰も止まってないけど。
自分の料理を美味しく食べてもらえるのは嬉しいね。
「「「ごちそうさまでした」」」
「お粗末様です」
作ったカレーもご飯も綺麗になくなった。わたしの満腹度? 聞かないで。
「是非レシピが知りたいな!」
「うん。ウチもまた食べたーい」
「別にいいですよ」
「本当か! ありがとう!」
「やったー!」
ヴィックさんとクレアさんがすごく嬉しそうにしている。
「あの二人あんまり料理得意じゃないけどね」
「私が覚えておきますので教えてもらっていいですか?」
「ああ、はい」
とりあえず基本の作り方を教えて、あとは自分好みにアレンジしてもらうのがいいだろう。
「そんなに難しくないんですね」
「そうですね。あとはまあ、自分好みの味に調整してください」
「ありがとうございます」
「そういえば皆さん、こんなところに何しに?」
わたし達は特訓していたからだけど、ここは王都から西の方角に少し離れた何もない場所だ。
「王都に着いてからしばらく休んでいたのだが、あまりに暇になったからな! ここで少し身体でも動かそうと思ったんだ!」
ヴィックさんが笑いながら言う。強い人はこうやって強くなっていくのかな。
「こいつ一人だと何するかわかんないからね。付き添いよ」
「二人はここで修業でもしてたんですか?」
セレーナさんが辺りを見渡しながら聞いてくる。
お昼まで特訓していたから、あちこちにクレーターとか粉々になった岩とかが散らばっている。
「次はオーガを簡単に倒せるようになりたいから」
レティが答える。うん。次はオーガを軽く倒せるようになりたい。
「そういえば、レティシアちゃんランクは?」
クレアさんが聞いてくる。言ってなかったか。
「E」
「Eランクでオーガが倒せるなら十分強いと思うがな!」
オーガはDランク上位か、Cランクくらいの冒険者が討伐する魔物らしい。
「皆さんはAランクなんですよね」
「うむ! みんなのおかげでAランクになれた!」
「まあ、この四人だからね」
「うんうん。ウチら強いからね!」
「誰かが欠けてしまっていたら、こうはなっていなかったでしょうね」
仲がいいんだなあ。絆とか、培ってきた経験とか、いろいろなものが積み重なって今があるんだろうな。
わたし達もいつかあれくらい強くなりたい。
レティもそう思ったようで、お互いに目が合う。
「シュガー、がんばろうね」
「そうね。頑張りましょうね」
この人達を見てると気合が入るね。
しばらく特訓とか戦闘とかそんなのが続きます。




