ウルルにまつわる神話
ウルル。別名エアーズロックへ観光に行きました。
近くで見ると、洞窟、穴、滝の跡、亀裂、麓に岩、壁画、泉など色々あります。
さて、これはツアーガイドさんから聞いたウルルを聖地とするアナング族さんの神話です。ガイドさんの話から脚色して短編風にしてみることにしました。
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眩い日の光だが、突き刺すように風は冷たい。蛇クニヤは首に巻いた卵を下ろした。ここで孵化させよう。素敵な場所だ。泉も近く、生活していくのにも適している。
ふと、見ると。地平線の向こうに見覚えがある姿。あれは甥のクカクカじゃないか? まだまだ幼く、小さい。そう思っていたのに、なんと力強く地を這うのか。クニヤはつい口元を綻ばせた。今、守っている我が子も孵化したら、すくすく育って欲しい。
しかし、良く良く見るとクカクカの様子がおかしい。後ろから、見知らぬ蛇が追いかけている。自分達とは種族が違う。あれは毒蛇一族ではないか? クニヤは卵が隠れるように岩間に移動させた。それから、カクカがいる方へと向かうことにした。
血だ。
クカクカは血を流している。
種族が違えど同じ蛇。蛇同士の争いは禁じられている。正当な対決なら向かい合って、勇敢な戦いを見せる。このように一方的に追ったりしない。見届ける者もいるはず。となると、罪に罰だろうか。クカクカが何か悪さをしたのなら、家族として謝罪しないとならない。クニヤは二匹へ近寄っていった。
妙だ。毒蛇は激怒というようには見えない。何故か愉快そう。明らかにおかしい。
「我が甥に罰をというように見えますが、どんな罪を犯したのでしょう?」
毒蛇はニヤニヤ笑っているだけで、おまけにクカクカへ噛み付いた。それから、去ってしまった。罰なら理由を告げる。そして、このように相手を放置しない。介抱して、二度と同じ過ちを繰り返さないように説教をするのが掟。
「クカクカ!」
クニヤはぐったりとしたクカクカの体を抱き上げた。
「叔母上……リルは……」
「リル? あの毒蛇一族の名前かい? カクカク?」
問いかけても、クカクカは返事をしなかった。もう、息がかなり小さい。
クニヤは泣きながらクカクカの体を運んだ。泉でクカクカの傷口を洗い、毒を出そうと試みる。しかし、クカクカの体温はどんどん無くなり、やがて小さな息もしなくなってしまった。
「リル……掟破りめ……」
クニヤは怒りで全身を震わせた。単なる殺害にも掟破りにも、罰を与えないとならない。他の者達に、生まれてくる子供達に、示しがつかない。クカクカの命も浮かばれない。
しかし、今のクニヤでは毒を持つ雄のリルには対抗出来ない。
この神聖な地の力を借りよう。クニヤは土を体に振りまき、祈った。掟破りのならず者に相応しい罰を与えられるような力を下さい。
こうして、クニヤは手と足を手に入れた。力も増え、毒の牙が届かないところから攻撃する武器も得た。
リルを探すと、リルもまたクニヤを探していた様子だった。無言で、狡猾そうな笑みを浮かべているだけ。
「我が甥が罪を犯したのならば、語りなさい。掟破りに対する行為なら許されます。介護しなかった罰だけを貴方に与えます!」
蛇の掟を知らぬ者はいない。リルは薄ら笑いをして、クニヤに飛びかかってきた。目が悪しき色だ。クカクカを悦楽の為に殺した。クニヤはそう判断した。
リルの身のこなしは素早く、クニヤが持つ棒は何度も外れた。しかし、手足と大地の加護を手に入れたクニヤにも、リルの毒牙は届かない。
日が沈み、夜になった。
視界が悪い中、クニヤもリルも一歩も引かなかった。体力的にクニヤの方が分が悪い。
睨み合うクニヤとリル。
互いに牽制し合い、岩で身を守り、隠れて、時折石を投げて威嚇。リルはクニヤが弱るのを待っているのだろう。クニヤとしては、体力を回復させるのと暗い中より明るい方が良い。勝負がつくのは日の出だろう。
ついに日が昇り始めた。
クニヤは先手必勝だと岩陰から勢いよく飛び出した。
つられたように飛び出したリルを避け、サッと身を翻して太陽の明かりを浴びせる。
リルの目が眩んだ一瞬を狙い、クニヤは思いっきりリルの頭部を棒で殴りつけた。
よろめいたリルがクニヤの太腿に噛み付いた。
毒蛇に噛まれれば死しかない。この地では間もなくクニヤの子供達が孵化する。このような獰猛で、非道な掟破りは生かしておいてなるものか。
クニヤは渾身の力を込めて、再びリルの頭を殴りつけた。
クニヤの力は聖なる大地に大きな亀裂が二本入るほどだった。リルは二撃目で絶命したが、クニヤも間もなく毒で命を失った……。
大地はクニヤの姿を蛇に戻し、自分達に招いた。岩蛇となったクニヤは、虹蛇ワナンビの名を与えられた。この地で再びリルのような掟破りが現れないか監視する女神の役目を果たしている。
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実際の聞いた話とは少し違いますが、このような神話をツアーガイドさんや、説明書から知ることが出来ます。
傷跡、リルの血の跡、クニヤに見える岩、クニヤの卵や旅した跡などなど、神話について知りながら観光するのは興味深かったです。
日本に通じる文化だと感じます。